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論語と算盤 / 人格と修養・平生の心掛が大切

しかるに最初の決心が其れほど雄々しいものであつたにも拘はらず、さて実地に進行して見ると中々思惑通りには行かないもので、爾来四十余年間、屢〻初一念を動されようとしては危く踏み止り、漸くにして今日あるを得た訳である、今から囘顧すれば最初の決心当時に想像したよりも、此間の苦心と変化とは遙かに多かつたと思はれる。

新字:しかるに最初の決心が其れほど雄々しいものであつたにも拘はらず、さて実地に進行して見ると中々思惑通りには行かないもので、爾来四十余年間、屡〻初一念を動されようとしては危く踏み止り、漸くにして今日あるを得た訳である、今から囘顧すれば最初の決心当時に想像したよりも、此間の苦心と変化とは遥かに多かつたと思はれる。

書き下し

しかるに最初の決心がそれほど雄々しいものであったにもかかわらず、さて実地に進行して見るとなかなか思惑通りには行かないもので、爾来四十余年間、しばしば初一念を動かされようとしては危うく踏み止まり、ようやくにして今日あるを得た訳である。今から回顧すれば最初の決心当時に想像したよりも、この間の苦心と変化とははるかに多かったと思われる。

現代語訳

ところが、最初の決心がそれほど雄々しいものであったにもかかわらず、いざ実地に進んでみると、なかなか思惑通りにはいかないもので、それ以来四十余年のあいだ、しばしば最初の決心を動かされそうになっては危うく踏みとどまり、ようやくのことで今日に至ることができたのである。今から振り返れば、最初に決心した当時に想像していたよりも、この間の苦心と変化ははるかに多かったと思われる。

解説

前段の雄々しい決心に続けて、渋沢は正直な告白を置く。実地に進んでみると思惑通りにはいかず、四十余年の間、何度も初一念を動かされかけては、危うく踏みとどまってきた。決心した当時の想像よりも、苦心と変化ははるかに多かった、と。成功した人の回顧談は、最初の決断がそのまま貫かれたように語られがちである。渋沢はそうではなく、決心は一度で済むものではなく、揺らぐたびに何度も決め直してきたのだと語る。政界入りの誘いは明治期に幾度もあり、経済界の長老となってからも続いた。その都度断った記録が、ここでは「危く踏み止り」という短い言葉にまとめられている。決心の強さは最初の勢いではなく、揺らいだあとに戻れるかどうかで測られる。長く一つの道を続けている人ほど、この段の実感に共感できるだろう。

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