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論語と算盤 / 処世と信条・蟹穴主義が肝要

箸の上げ下しの注意が出来れば、次に心掛くべきは自分を知るといふことである、世の中には随分自分の力を過信して非望を起す人もあるが、余り進むことばかり知つて、分を守ることを知らぬと、飛んだ間違を惹き起すことがある、

書き下し

箸の上げ下ろしの注意が出来れば、次に心掛くべきは自分を知るということである。世の中には随分自分の力を過信して非望を起こす人もあるが、あまり進むことばかり知って、分を守ることを知らぬと、飛んだ間違いを惹き起こすことがある。

現代語訳

箸の上げ下ろしの注意ができるようになれば、次に心がけるべきは自分を知るということである。世の中には、ずいぶん自分の力を過信して分不相応な望みを起こす人もいるが、あまりに進むことばかり知って分を守ることを知らないと、とんでもない間違いを引き起こすことがある。

解説

日常の所作の次に心がけるべきこととして、渋沢は自分を知ることを挙げる。自分の力を過信して非望、つまり身の程を超えた望みを起こし、進むことばかり知って分を守ることを知らなければ、とんでもない間違いを引き起こす。章題の「蟹穴主義」は、蟹は甲羅に似せて穴を掘るという諺から来ている。渋沢は、大蔵大臣や日本銀行総裁への就任を打診されながら、実業界という自分の穴から出なかった。ただしこれは縮こまれという教えではない。同じ章で渋沢は、分に安んずるからといって進取の気象を忘れてはならないと念を押している。自分の力量を正しく測ることは、挑戦をやめることではなく、挑戦の的を外さないための条件である。事業の拡大や多角化を考えるとき、自分たちの強みの輪郭を知っているかどうかで成否が分かれる。

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