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翁問答 / 下卷之本

體充曰、孝經、大學、中庸には武篇のおしへも御座候や。師の曰、三經の中に孝行を說忠節を說勇强を說給ふところ正眞の武篇の敎へなり、されば孝行忠節のためにかせぎはたらく勇を武篇とはなづけたり、孝行忠節にそむきたるはたらきのけなげは、むほん人又は盜と云ふものなり、此ことはりは知やすき事なれども、辨へたる人まれなるにや、むほんをも武篇者なりとほむる風俗あさましくなげかし、

新字:体充曰、孝経、大学、中庸には武篇のおしへも御座候や。師の曰、三経の中に孝行を説忠節を説勇強を説給ふところ正真の武篇の教へなり、されば孝行忠節のためにかせぎはたらく勇を武篇とはなづけたり、孝行忠節にそむきたるはたらきのけなげは、むほん人又は盗と云ふものなり、此ことはりは知やすき事なれども、弁へたる人まれなるにや、むほんをも武篇者なりとほむる風俗あさましくなげかし、

書き下し

体充曰、孝経、大学、中庸には武篇のおしへも御座候や。師の曰、三経の中に孝行を説忠節を説勇強を説給ふところ正真の武篇の教へなり、されば孝行忠節のためにかせぎはたらく勇を武篇とはなづけたり、孝行忠節にそむきたるはたらきのけなげは、むほん人又は盗と云ふものなり、此ことはりは知やすき事なれども、弁へたる人まれなるにや、むほんをも武篇者なりとほむる風俗あさましくなげかし、

現代語訳

體充が言う。「孝経・大学・中庸には武篇の教えもあるのか」。師が答える。「三経の中に孝行を説き、忠節を説き、勇強を説かれるところが、本当の武篇の教えである。だから孝行忠節のために奮い働く勇を武篇と名づけたのである。孝行忠節に背いた働きの勇ましさは、謀反人または盗人というものである。この道理は知りやすいことであるのに、わきまえている人がまれなのか、謀反をも武篇者だとほめる風俗は、あさましく嘆かわしい」。

解説

儒学の書に武の教えはあるのかと問われ、藤樹は孝経・大学・中庸の中で孝行・忠節・勇強を説く所こそが本当の武篇だと答える。勇気は何のために振るうかで価値が決まり、孝と忠のために働く勇が武であって、それに背く勇ましさは謀反人や盗人の所業にすぎない。藤樹は伊予大洲藩に仕えた武士の出身で、武を道徳から切り離す当時の風潮を厳しく批判した。成果を上げる力そのものを称える前に、その力が誰のため何のために使われているかを問う。組織で働く者にも欠かせない視点である。

この章句が説くこと

孝忠節勇武篇孝経仁義

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