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文武訓 / 武訓上

一少壯の時、人の一言をとがめて口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてて鬪ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是學問せずして仁義忠孝の道を知らず、あたら命をすてて、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは勇を失ふ。古人の曰、生を捨つる事、豈やすからざらんや、死に處ること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に當りて死ぬるは、死に處する道を得たるなり。もし死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是犬死なり。

新字:一少壮の時、人の一言をとがめて口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてて闘ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是学問せずして仁義忠孝の道を知らず、あたら命をすてて、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは勇を失ふ。古人の曰、生を捨つる事、豈やすからざらんや、死に処ること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に当りて死ぬるは、死に処する道を得たるなり。もし死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是犬死なり。

書き下し

一少壮の時、人の一言をとがめて口論し、小なる義をはげみ、勇みだてをして、道理なきことに身をわすれ、父母をすてて闘ひ死す、不仁不孝のいたりなり。是学問せずして仁義忠孝の道を知らず、あたら命をすてて、道理にそむくこと、愚なるかな。孟子曰、以て死すべし、以て死することなかるべし、死すれば勇をやぶるといへり。死ぬまじきことに死ぬるは勇を失ふ。古人の曰、生を捨つる事、豈やすからざらんや、死に処ること、誠にひとりかたしとは、これをいふなり。いふ意は、死ぬることはやすし、死して道理にかなふことかたしとなり。死ぬべき道理に当りて死ぬるは、死に処する道を得たるなり。もし死ぬべからずして死ぬるは、愚なる故なり。是犬死なり。

現代語訳

若く血気盛んな時に、人の一言をとがめて口論し、小さな義を励み、勇み立って、道理のないことに身を忘れ、父母を捨てて闘って死ぬのは、不仁不孝の極みです。これは学問をせずに仁義忠孝の道を知らず、惜しい命を捨てて道理にそむくのであり、愚かなことです。孟子は「死んでもよいし、死ななくてもよいときに、死ねば勇を損なう」と言いました。死ぬべきでないことに死ぬのは勇を失うのです。古人が「生を捨てることはどうしてたやすくないことがあろうか。死に処することこそ、まことに難しい」と言ったのは、このことをいうのです。その意味は、死ぬことはたやすいが、死んで道理にかなうことが難しいということです。死ぬべき道理に当たって死ぬのは、死に処する道を得たのです。もし死ぬべきでないのに死ぬのは、愚かだからです。これは犬死です。

解説

つまらない口論から命を落とすのは、仁にも孝にも反すると益軒は言います。『孟子』離婁下篇の「以て死すべく、以て死する無かるべきに、死すれば勇を傷なう」を引き、死んでもよいし死ななくてもよい場面で死ぬのは勇を損なうと説きます。さらに「生を捨つるは易く、死に処するは難し」という古語で、死ぬことより正しく死ぬことが難しいと示します。意地の張り合いで取り返しのつかない行動に出ることは、今でもあります。引く勇気もまた勇気です。

この章句が説くこと

勇孝孟子生死口論

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