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夢中問答集 / 『夢中問答集』神通と得法は別物

問得法の人はかならず神通妙用を具足すべしや。 答佛法をしらざる天魔外道も、神通をばほどこす。神通を具せる人なればとて、得法の人とは申すべからず。たとひ佛弟子として羅漢果を證したる人の三明六通を得たれども、いまだ大乘の法理を悟らざる故に得法の人とは名けず。三賢十聖其の位のすゝむに隨つて、神通妙用をほどこせども得法の人とは名けず。よのつね六通と申すは一つには天眼通山川を隔てたる事をも分明に見るなり。二つには天耳通山川を隔てたる聲をも聞くなり。三には他心通他人の心念をあきらかにしるなり。四には宿命通前世の事をわすれざるなり。五つには神境通飛行自在なり。六つには漏盡通煩惱を斷じつくせるなり。六通の名言は同じといへども、これを得たる人に隨つて勝劣はるかに同じからず。天魔外道は一旦五通をば得れども、漏盡通をうることあたはず。故につひには通力を失ひて輪廻をまぬがれず。羅漢は三界の煩惱をつくせる故に、漏盡通を得たりといへ共、いまだ無明をつくさゞるが故に、眞實の漏盡にはあらず。三賢十聖も無明いまだつくさず。古人の云く、たとひ六通を得たりとも、更に那一通ある事をしるべしと云云。那一通とは凡聖本來具足して更に增減もなく勝劣もなし。一切の神通妙用及び、見聞覺知擧足下足こと〱く、是れ此の那一通の恩力なり。然れども凡夫は日に用ひてしらず。外に向つて世俗の通を求む。龐居士の神通并に妙用水をはこび、柴をはこぶとしめされたるも、擧足下足の處に那一通あるよしなり。古人の云く、人々各靈光を具す。圓覺經に大光明藏三昧と說けるも一切衆生本具の靈光なり。諸佛の身光智光通光といへるも、皆な此の大光明藏より出生せり。乃至凡夫の東西をわきまへ、黑白をわかつも皆是れ此の靈光の妙用にあらすと云ふことなし。愚人此の本光をばわすれて、外に向つて世俗の光明を求む。若し此の靈光をしらずば、たとひ身より無量の光を放つとも螢の光にことならず。然らば卽ち諸天も光りはあれ共、つひに昏衢に入る。極果の羅漢地上の菩薩各光を放てども、いまだ無明の域を出ず。皆是れ小神通小光明にばかされて、本分の大神通大光明をわすれたる故なり。しかれば大乘の學者はたゞ先づ本分の大光明大神通あることを信ずべし。若し能くこれを悟りぬれば、曠劫の無明こと〱くつきて多生の繫縛にさへられず。其の時始めて無邊の光明を放つて衆生の迷暗をやぶり、廣大の神用をほどこして魔外の邪見を降すべし。

新字:問得法の人はかならず神通妙用を具足すべしや。 答仏法をしらざる天魔外道も、神通をばほどこす。神通を具せる人なればとて、得法の人とは申すべからず。たとひ仏弟子として羅漢果を証したる人の三明六通を得たれども、いまだ大乗の法理を悟らざる故に得法の人とは名けず。三賢十聖其の位のすゝむに随つて、神通妙用をほどこせども得法の人とは名けず。よのつね六通と申すは一つには天眼通山川を隔てたる事をも分明に見るなり。二つには天耳通山川を隔てたる声をも聞くなり。三には他心通他人の心念をあきらかにしるなり。四には宿命通前世の事をわすれざるなり。五つには神境通飛行自在なり。六つには漏尽通煩悩を断じつくせるなり。六通の名言は同じといへども、これを得たる人に随つて勝劣はるかに同じからず。天魔外道は一旦五通をば得れども、漏尽通をうることあたはず。故につひには通力を失ひて輪廻をまぬがれず。羅漢は三界の煩悩をつくせる故に、漏尽通を得たりといへ共、いまだ無明をつくさゞるが故に、真実の漏尽にはあらず。三賢十聖も無明いまだつくさず。古人の云く、たとひ六通を得たりとも、更に那一通ある事をしるべしと云云。那一通とは凡聖本来具足して更に增減もなく勝劣もなし。一切の神通妙用及び、見聞覚知挙足下足こと〱く、是れ此の那一通の恩力なり。然れども凡夫は日に用ひてしらず。外に向つて世俗の通を求む。龐居士の神通并に妙用水をはこび、柴をはこぶとしめされたるも、挙足下足の処に那一通あるよしなり。古人の云く、人々各霊光を具す。円覚経に大光明蔵三昧と説けるも一切衆生本具の霊光なり。諸仏の身光智光通光といへるも、皆な此の大光明蔵より出生せり。乃至凡夫の東西をわきまへ、黒白をわかつも皆是れ此の霊光の妙用にあらすと云ふことなし。愚人此の本光をばわすれて、外に向つて世俗の光明を求む。若し此の霊光をしらずば、たとひ身より無量の光を放つとも蛍の光にことならず。然らば即ち諸天も光りはあれ共、つひに昏衢に入る。極果の羅漢地上の菩薩各光を放てども、いまだ無明の域を出ず。皆是れ小神通小光明にばかされて、本分の大神通大光明をわすれたる故なり。しかれば大乗の学者はたゞ先づ本分の大光明大神通あることを信ずべし。若し能くこれを悟りぬれば、曠劫の無明こと〱くつきて多生の繋縛にさへられず。其の時始めて無辺の光明を放つて衆生の迷暗をやぶり、広大の神用をほどこして魔外の邪見を降すべし。

書き下し

問得法の人はかならず神通妙用を具足すべしや。 答佛法をしらざる天魔外道も、神通をばほどこす。神通を具せる人なればとて、得法の人とは申すべからず。たとひ佛弟子として羅漢果を證したる人の三明六通を得たれども、いまだ大乘の法理を悟らざる故に得法の人とは名けず。三賢十聖其の位のすゝむに隨つて、神通妙用をほどこせども得法の人とは名けず。よのつね六通と申すは一つには天眼通山川を隔てたる事をも分明に見るなり。二つには天耳通山川を隔てたる聲をも聞くなり。三には他心通他人の心念をあきらかにしるなり。四には宿命通前世の事をわすれざるなり。五つには神境通飛行自在なり。六つには漏盡通煩惱を斷じつくせるなり。六通の名言は同じといへども、これを得たる人に隨つて勝劣はるかに同じからず。天魔外道は一旦五通をば得れども、漏盡通をうることあたはず。故につひには通力を失ひて輪廻をまぬがれず。羅漢は三界の煩惱をつくせる故に、漏盡通を得たりといへ共、いまだ無明をつくさゞるが故に、眞實の漏盡にはあらず。三賢十聖も無明いまだつくさず。古人の云く、たとひ六通を得たりとも、更に那一通ある事をしるべしと云云。那一通とは凡聖本來具足して更に增減もなく勝劣もなし。一切の神通妙用及び、見聞覺知擧足下足こと〱く、是れ此の那一通の恩力なり。然れども凡夫は日に用ひてしらず。外に向つて世俗の通を求む。龐居士の神通并に妙用水をはこび、柴をはこぶとしめされたるも、擧足下足の處に那一通あるよしなり。古人の云く、人々各靈光を具す。圓覺經に大光明藏三昧と說けるも一切衆生本具の靈光なり。諸佛の身光智光通光といへるも、皆な此の大光明藏より出生せり。乃至凡夫の東西をわきまへ、黑白をわかつも皆是れ此の靈光の妙用にあらすと云ふことなし。愚人此の本光をばわすれて、外に向つて世俗の光明を求む。若し此の靈光をしらずば、たとひ身より無量の光を放つとも螢の光にことならず。然らば卽ち諸天も光りはあれ共、つひに昏衢に入る。極果の羅漢地上の菩薩各光を放てども、いまだ無明の域を出ず。皆是れ小神通小光明にばかされて、本分の大神通大光明をわすれたる故なり。しかれば大乘の學者はたゞ先づ本分の大光明大神通あることを信ずべし。若し能くこれを悟りぬれば、曠劫の無明こと〱くつきて多生の繫縛にさへられず。其の時始めて無邊の光明を放つて衆生の迷暗をやぶり、廣大の神用をほどこして魔外の邪見を降すべし。

現代語訳

問:法を得た人は、必ず神通や不思議な働きを備えているのか。 答:仏法を知らない天魔や外道でも神通を使う。神通を持つからといって、法を得た人とは言えない。仏弟子として阿羅漢果を証し、三明六通を得た人でも、まだ大乗の法理を悟っていないので、法を得た人とは呼ばない。三賢十聖の菩薩も、位が進むにつれて神通や妙用を施すが、法を得た人とは呼ばない。普通、六通というのは、一つ目は天眼通で、山川を隔てたものもはっきり見ること。二つ目は天耳通で、山川を隔てた声も聞くこと。三つ目は他心通で、他人の心の中を明らかに知ること。四つ目は宿命通で、前世のことを忘れないこと。五つ目は神境通で、自在に飛行すること。六つ目は漏尽通で、煩悩を断ち尽くすこと。六通の名は同じでも、これを得た人によって優劣ははるかに違う。天魔や外道は、いっとき五通は得ても漏尽通は得られない。だから結局は神通力を失い、輪廻を免れない。阿羅漢は三界の煩悩を尽くしたので漏尽通を得たとはいうが、まだ無明を尽くしていないので、真の漏尽ではない。三賢十聖もまだ無明を尽くしていない。古人は「たとえ六通を得ても、さらにあの一通のあることを知れ」と言った。あの一通とは、凡夫も聖者も本来そなえていて、増えも減りも優劣もないものである。あらゆる神通妙用も、見る聞く知ることも、足を挙げ足を下ろす動作も、すべてこの一通の恩力による。しかし凡夫は日々使っていながら知らず、外に向かって世間的な通力を求める。龐居士が「神通と妙用は、水を運び薪を運ぶことだ」と示したのも、足を挙げ下ろす所作のなかにあの一通があるということである。古人は「人はみな霊光をそなえている」と言った。『円覚経』に説く大光明蔵三昧も、すべての衆生が本来そなえている霊光である。諸仏の身光・智光・通光も、みなこの大光明蔵から生まれた。凡夫が東西を弁え、黒白を見分けるのも、すべてこの霊光の妙用である。愚かな人はこの本来の光を忘れ、外に向かって世間の光を求める。この霊光を知らなければ、たとえ身から無量の光を放っても蛍の光と変わらない。諸天にも光はあるが、結局は暗い道に入る。極果の阿羅漢や地上の菩薩も光を放つが、まだ無明の領域を出ていない。みな小さな神通や小さな光に化かされて、本来の大神通・大光明を忘れているからである。だから大乗の学人は、まず本来の大光明・大神通があることを信じるべきである。これを悟れば、永い間の無明はことごとく尽き、多くの生に渡る束縛にも妨げられない。そのとき初めて無辺の光を放って衆生の迷いの闇を破り、広大な働きを施して魔や外道の邪見を降伏させることができる。

解説

悟った人は超能力を使えるのか、という問いに、夢窓疎石ははっきり否と答えます。天魔や外道も神通を使い、阿羅漢も六通を得るが、それは法を得たことの証にならない。本物の神通は、水を運び薪を運ぶ日常の動作の中にある、という龐居士の言葉が要になります。派手な力や目立つ成果に目を奪われ、足元の働きを見失うことへの戒めです。現代の仕事に引き寄せれば、肩書きや実績の見栄えと、実際に人を支える力量は別だということになります。評価の物差しを見直す材料になります。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

神通六通漏尽通龐居士霊光得法

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