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名将言行録 / 『名将言行録』黑田孝高 縛って叱る加減

○孝高、草履取に龍若と曰ふ者ありしが、毎度惡る狂ひ致せし故、孝高命じて柱に縛り付けさせたり。明日伽者詫せんと申合はせし所に、孝高、二里餘ある所へ使に遣はせり。是は其代官に瓜を差出せとのことなり、頓て瓜を持て歸りければ、瓜二つ取て食へと言はれたり、當人は申に及ばず、詫せんと思ひし者も、早や免されけるよと思ひ居たりしに、孝高、又元の如く縛らせ、置きけり。少時ありて、又掃除抔させては、縛られ、種々の事に使ひ、三日計りして後は、免されたり。相口の伽坊主、御折檻世間に稀なる囚人の由申ければ、孝高聞て、徒ら者なれば敎の爲めに縛りたり、使はねば損が行くは、尤も内心憎からず、不便なれば、折檻したり、縛り詰めたらば、縄の跡付くべし、時々休ませ、用をも調へさせて、綏々と折檻したらば、懲る所も強かるべしと言て、笑はれしとぞ。

新字:○孝高、草履取に竜若と曰ふ者ありしが、毎度悪る狂ひ致せし故、孝高命じて柱に縛り付けさせたり。明日伽者詫せんと申合はせし所に、孝高、二里余ある所へ使に遣はせり。是は其代官に瓜を差出せとのことなり、頓て瓜を持て帰りければ、瓜二つ取て食へと言はれたり、当人は申に及ばず、詫せんと思ひし者も、早や免されけるよと思ひ居たりしに、孝高、又元の如く縛らせ、置きけり。少時ありて、又掃除抔させては、縛られ、種々の事に使ひ、三日計りして後は、免されたり。相口の伽坊主、御折檻世間に稀なる囚人の由申ければ、孝高聞て、徒ら者なれば教の為めに縛りたり、使はねば損が行くは、尤も内心憎からず、不便なれば、折檻したり、縛り詰めたらば、縄の跡付くべし、時々休ませ、用をも調へさせて、綏々と折檻したらば、懲る所も強かるべしと言て、笑はれしとぞ。

書き下し

○孝高、草履取に龍若と曰ふ者ありしが、毎度惡る狂ひ致せし故、孝高命じて柱に縛り付けさせたり。明日伽者詫せんと申合はせし所に、孝高、二里餘ある所へ使に遣はせり。是は其代官に瓜を差出せとのことなり、頓て瓜を持て歸りければ、瓜二つ取て食へと言はれたり、當人は申に及ばず、詫せんと思ひし者も、早や免されけるよと思ひ居たりしに、孝高、又元の如く縛らせ、置きけり。少時ありて、又掃除抔させては、縛られ、種々の事に使ひ、三日計りして後は、免されたり。相口の伽坊主、御折檻世間に稀なる囚人の由申ければ、孝高聞て、徒ら者なれば敎の爲めに縛りたり、使はねば損が行くは、尤も内心憎からず、不便なれば、折檻したり、縛り詰めたらば、縄の跡付くべし、時々休ませ、用をも調へさせて、綏々と折檻したらば、懲る所も強かるべしと言て、笑はれしとぞ。

現代語訳

孝高の草履取に龍若という者がいましたが、毎度のように悪ふざけをするので、孝高は命じて柱に縛り付けさせました。翌日、伽衆が詫びを入れようと申し合わせていたところ、孝高は龍若を二里余りも離れた所へ使いにやりました。それは代官に瓜を差し出させるための使いでした。やがて瓜を持って帰ると、「瓜を二つ取って食え」と言われました。本人はもちろん、詫びようとしていた者も、もう許されたのだと思っていたところ、孝高は、また元のように縛らせておきました。しばらくして、また掃除などをさせてはまた縛り、いろいろな用に使い、三日ばかりして後に許しました。仲のよい伽坊主が「ご折檻は世にも稀な囚人の扱いです」と申し上げると、孝高は聞いて、「いたずら者なので教えのために縛ったのだ。使わなければ損が行くのは当然だが、内心は憎くない。不憫なので折檻したのだ。縛りつめれば縄の跡がつく。時々休ませ、用も足させて、ゆるゆると折檻したなら、懲りる所も強いだろう」と言って笑われた、ということです。

解説

罰を与えながら仕事もさせるという、孝高流のしつけの逸話です。縛るのは体罰でもあり、成立当時の主従観がうかがえますが、現代の感覚では許される方法ではありません。ここで読みたいのは、罰の目的を懲らしめではなく、本人の立て直しにおき、罰の間も役割を与えて休ませ、縄の跡が残らないよう気を配った点です。期待を断ち切らないまま叱るという発想は、部下指導にも通じます。叱ることと見放すことを分けるために、叱った後にどんな仕事を任せ直すのか、孝高の流儀は一つの手がかりになります。
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この章句が説くこと

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