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明訓一班抄抄録 / 治に亂を忘るべからざる事・太平に奢る風潮を戒めた吉宗の鷹狩り

有德公には、近代彌太平の御世、御仁慮に安心して、諸家武備に怠り、無益の送り物に金銀を費し、衣食居宅に美を盡し、武器を等閑にして、先祖の功を忘れ、奢に費す事、禽獸にひとしと歎き玉ひ、士を勸め、武を勵まし、放鷹遊獵に出御有之、麾下の伴士を勵まし給ふ、是諸家上を學びて其風に移り、太平に武を忘れざらしめんとの思し召なり、同上意に、治世に亂を忘れざるは鷹野猪狩なり、如何となれは人數を遣ひ覺るは多少の人數に寄べからず、又諸士に弓鐵砲を打せ射させ、有功を記し、金銀衣服をとらする事は、第一旗本の士をなつけ、武功を我前にてあらはす事賞美し、外樣に居候者其外も我を見知る者なり、殊に兩番の者共は歷々にて、我手足も同じ事なれども、近習へは遠し紋付の衣服など貰らふ事尤少し、箇樣の時とらさすれば其者骨髓に徹し有がたく可存なり、然れば手足にもなるべき義なり、第一近年武備衰へて、大小名諸家中に到る迄、遊山翫などに長じ、酒色に溺れ、身に綾羅錦繡をまとひて、樂しみを專らとし、遊藝をのみ第一として、武士の習しは少しもなく、公家町人の如くに氣弱になり來り候事、上に武備なき故なり、旗本の風義も、少しは見能成事いかめしき事なれども、我武勇を好み、儉約を用ひ、無用に費なく、及ばずながら善政廉直を施さんと欲する故也、云々、齊昭謹で案ずるに、東照宮を初奉り、世に賢明の大將軍と聞えまします御方には、治世に亂を忘れぬ樣にしば〱御示し被爲置候、東照宮御明智、太平とは申ながら漸く天下治まりたる砌り、太平久敷續なば奢長じ武備を失はん事を歎かせ給ひ、治世に亂を忘れざる樣にとの御示諭しば〱なり、

新字:有徳公には、近代弥太平の御世、御仁慮に安心して、諸家武備に怠り、無益の送り物に金銀を費し、衣食居宅に美を尽し、武器を等閑にして、先祖の功を忘れ、奢に費す事、禽獣にひとしと嘆き玉ひ、士を勧め、武を励まし、放鷹遊猟に出御有之、麾下の伴士を励まし給ふ、是諸家上を学びて其風に移り、太平に武を忘れざらしめんとの思し召なり、同上意に、治世に乱を忘れざるは鷹野猪狩なり、如何となれは人数を遣ひ覚るは多少の人数に寄べからず、又諸士に弓鉄砲を打せ射させ、有功を記し、金銀衣服をとらする事は、第一旗本の士をなつけ、武功を我前にてあらはす事賞美し、外様に居候者其外も我を見知る者なり、殊に両番の者共は歴々にて、我手足も同じ事なれども、近習へは遠し紋付の衣服など貰らふ事尤少し、箇様の時とらさすれば其者骨髄に徹し有がたく可存なり、然れば手足にもなるべき義なり、第一近年武備衰へて、大小名諸家中に到る迄、遊山翫などに長じ、酒色に溺れ、身に綾羅錦繍をまとひて、楽しみを専らとし、遊芸をのみ第一として、武士の習しは少しもなく、公家町人の如くに気弱になり来り候事、上に武備なき故なり、旗本の風義も、少しは見能成事いかめしき事なれども、我武勇を好み、倹約を用ひ、無用に費なく、及ばずながら善政廉直を施さんと欲する故也、云々、斉昭謹で案ずるに、東照宮を初奉り、世に賢明の大将軍と聞えまします御方には、治世に乱を忘れぬ様にしば〱御示し被為置候、東照宮御明智、太平とは申ながら漸く天下治まりたる砌り、太平久敷続なば奢長じ武備を失はん事を嘆かせ給ひ、治世に乱を忘れざる様にとの御示諭しば〱なり、

書き下し

有德公には、近代彌太平の御世、御仁慮に安心して、諸家武備に怠り、無益の送り物に金銀を費し、衣食居宅に美を盡し、武器を等閑にして、先祖の功を忘れ、奢に費す事、禽獸にひとしと歎き玉ひ、士を勸め、武を勵まし、放鷹遊獵に出御有之、麾下の伴士を勵まし給ふ、是諸家上を學びて其風に移り、太平に武を忘れざらしめんとの思し召なり、同上意に、治世に亂を忘れざるは鷹野猪狩なり、如何となれは人數を遣ひ覺るは多少の人數に寄べからず、又諸士に弓鐵砲を打せ射させ、有功を記し、金銀衣服をとらする事は、第一旗本の士をなつけ、武功を我前にてあらはす事賞美し、外樣に居候者其外も我を見知る者なり、殊に兩番の者共は歷々にて、我手足も同じ事なれども、近習へは遠し紋付の衣服など貰らふ事尤少し、箇樣の時とらさすれば其者骨髓に徹し有がたく可存なり、然れば手足にもなるべき義なり、第一近年武備衰へて、大小名諸家中に到る迄、遊山翫などに長じ、酒色に溺れ、身に綾羅錦繡をまとひて、樂しみを專らとし、遊藝をのみ第一として、武士の習しは少しもなく、公家町人の如くに氣弱になり來り候事、上に武備なき故なり、旗本の風義も、少しは見能成事いかめしき事なれども、我武勇を好み、儉約を用ひ、無用に費なく、及ばずながら善政廉直を施さんと欲する故也、云々、齊昭謹で案ずるに、東照宮を初奉り、世に賢明の大將軍と聞えまします御方には、治世に亂を忘れぬ樣にしば〱御示し被爲置候、東照宮御明智、太平とは申ながら漸く天下治まりたる砌り、太平久敷續なば奢長じ武備を失はん事を歎かせ給ひ、治世に亂を忘れざる樣にとの御示諭しば〱なり、

現代語訳

有徳公(吉宗)は、近代はいよいよ太平の世となり、御仁慮に安心して諸家が武備を怠り、無益な贈り物に金銀を費やし、衣食や住居の美を尽くし、武器をなおざりにして、先祖の功を忘れ、奢りに費やすのは禽獣にひとしいと嘆かれ、士を励まし、武を励まし、放鷹遊猟にお出ましになって、旗本の供の士を励まされました。これは諸家が上を学んでその風に移り、太平にも武を忘れないようにとのお考えです。同じく上意に、治世に乱を忘れないのは鷹野や猪狩りである。なぜかといえば、人数を使うことを覚えるのは、人数の多少によらないからである。また、諸士に弓や鉄砲を打たせ射させ、功のあった者を記し、金銀や衣服を与えることは、第一に旗本の士を手なずけ、武功を私の前で現すことを賞美するものである。外様に居候する者その他も、私を見知る者である。ことに両番(書院番・小姓組番)の者たちは歴々で、私の手足も同じことだが、近習へは遠いので、紋付の衣服などをもらうことが最も少ない。このような時に与えれば、その者は骨髄に徹してありがたく思うであろう。そうなれば手足にもなるであろう。第一に近年は武備が衰え、大小名の家中に至るまで、遊山や翫びに長じ、酒色に溺れ、身に綾羅錦繡をまとって楽しみを専らとし、遊芸のみを第一として、武士の習いは少しもなく、公家や町人のように気弱になってきたのは、上に武備がないからである。旗本の風儀も、少しは見よくなったのはいかめしいことだが、私が武勇を好み、倹約を用い、無用の出費なく、及ばずながら善政廉直を施そうと欲するからである、云々。斉昭が謹んで考えますに、東照宮をはじめ、世に賢明の大将軍と聞こえるお方々は、治世に乱を忘れないように、しばしばお示しになっています。東照宮のご明智は、太平とはいっても、ようやく天下が治まったばかりのころ、太平が久しく続けば奢りが増し武備を失うことを嘆かれ、治世に乱を忘れないようにとのご示諭がたびたびありました。

解説

吉宗は、太平に慣れて奢りに流れる風潮を嘆き、鷹狩りを使って人員の動かし方を訓練し、功のあった者を自ら褒賞しました。注目したいのは、上が率先して模範を示せば下も倣う、という指摘です。組織の風土は、上位者の行動に映ります。管理職は、研修や訓練を部下に命じるだけでなく、自分も参加し、成果を出した人を直接認めることが有効です。日常の訓練と、顔の見える評価を結びつけることが、緊張感を保つ実践になります。

この章句が説くこと

明訓一班抄徳川斉昭吉宗鷹狩り武備奢り

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