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明訓一班抄抄録 / 諫言を用べき事・異見を宝として受け入れる将軍の姿

同御代に、國姓爺日本に援兵を乞ければ、諸長臣を御前に被召出、是被捨置ては日本の恥なり、援兵可被遣旨被仰しに、小事ならざる故右兎角を申出來られしかど、稻葉丹後守正勝援兵の事不可然旨再三被申ければ、御色を變じ內に入らせ給ひけり、明日又被召出、昨日申せし處思召に叶はざりしが、能ゝ御思慮有しに、申處理なり、援兵に及まじきよし、上意なり、有德公御代に、日本橋に高札建られ、御政事筋において少しも御爲に相成候儀心付有之者遠慮なく言上可仕旨仰出されし所に、靑山久保町に浪人山下幸內と言者一書を獻じ奉る故、御褒美として銀子下され候て、幸內は上杉流の軍者也、同公賢明におはしますといへども、自己をよしとし給はずして、執權の諫を聞召、其意見の能を撰て用ひ給ひ、猶諫を聞し召〱とにや、評定所に訴の箱を出し給ひ、貴賤となく上訴し奉らんとする者は上書を此箱へ納め、御前にて開き、訴善なれば、賤者の上訴を御用ひ遊しとぞ、同上意に、財寶を貴ては其恩を感ずれども、異見の恩を思ふ人少く、一言にて一生の身の爲に成る事ある物なれば、異見程の寶はなき物と思ふべしと、仰也、

新字:同御代に、国姓爺日本に援兵を乞ければ、諸長臣を御前に被召出、是被捨置ては日本の恥なり、援兵可被遣旨被仰しに、小事ならざる故右兎角を申出来られしかど、稲葉丹後守正勝援兵の事不可然旨再三被申ければ、御色を変じ内に入らせ給ひけり、明日又被召出、昨日申せし処思召に叶はざりしが、能ゝ御思慮有しに、申処理なり、援兵に及まじきよし、上意なり、有徳公御代に、日本橋に高札建られ、御政事筋において少しも御為に相成候儀心付有之者遠慮なく言上可仕旨仰出されし所に、青山久保町に浪人山下幸内と言者一書を献じ奉る故、御褒美として銀子下され候て、幸内は上杉流の軍者也、同公賢明におはしますといへども、自己をよしとし給はずして、執権の諫を聞召、其意見の能を撰て用ひ給ひ、猶諫を聞し召〱とにや、評定所に訴の箱を出し給ひ、貴賤となく上訴し奉らんとする者は上書を此箱へ納め、御前にて開き、訴善なれば、賤者の上訴を御用ひ遊しとぞ、同上意に、財宝を貴ては其恩を感ずれども、異見の恩を思ふ人少く、一言にて一生の身の為に成る事ある物なれば、異見程の宝はなき物と思ふべしと、仰也、

書き下し

同御代に、國姓爺日本に援兵を乞ければ、諸長臣を御前に被召出、是被捨置ては日本の恥なり、援兵可被遣旨被仰しに、小事ならざる故右兎角を申出來られしかど、稻葉丹後守正勝援兵の事不可然旨再三被申ければ、御色を變じ內に入らせ給ひけり、明日又被召出、昨日申せし處思召に叶はざりしが、能ゝ御思慮有しに、申處理なり、援兵に及まじきよし、上意なり、有德公御代に、日本橋に高札建られ、御政事筋において少しも御爲に相成候儀心付有之者遠慮なく言上可仕旨仰出されし所に、靑山久保町に浪人山下幸內と言者一書を獻じ奉る故、御褒美として銀子下され候て、幸內は上杉流の軍者也、同公賢明におはしますといへども、自己をよしとし給はずして、執權の諫を聞召、其意見の能を撰て用ひ給ひ、猶諫を聞し召〱とにや、評定所に訴の箱を出し給ひ、貴賤となく上訴し奉らんとする者は上書を此箱へ納め、御前にて開き、訴善なれば、賤者の上訴を御用ひ遊しとぞ、同上意に、財寶を貴ては其恩を感ずれども、異見の恩を思ふ人少く、一言にて一生の身の爲に成る事ある物なれば、異見程の寶はなき物と思ふべしと、仰也、

現代語訳

同じ御代(家光の代)に、国姓爺(鄭成功)が日本に援兵を求めてきたので、諸々の重臣を御前に召し出し、これを捨て置いては日本の恥である、援兵を送るべきだと仰せになりました。小事ではないので、皆があれこれと意見を申し出ましたが、稲葉丹後守正勝が援兵はよろしくないと再三申し上げると、顔色を変えて奥にお入りになりました。翌日また召し出し、昨日申したことは意に沿わなかったが、よくよく考えてみると、申したところは理にかなっている、援兵には及ばない、との上意でした。有徳公(吉宗)の御代には、日本橋に高札を立て、政治について少しでも上のためになることに気づいた者は遠慮なく申し上げよと命じました。すると青山久保町の浪人で山下幸内という者が一書を献じたので、褒美として銀を下されました。幸内は上杉流の軍学者です。同公は賢明でいらっしゃいましたが、自分を是とせず、執権の諫めを聞き、その意見の良いものを選んで用い、なお諫めを聞こうとして、評定所に訴えの箱を出されました。身分の貴賤を問わず上訴しようとする者は上書をこの箱に納め、御前で開き、訴えが善ければ賤しい者の上訴をもお用いになったということです。同じく上意に、財宝を貴べばその恩を感じるが、異見の恩を思う人は少ない、一言が一生の身の為になることもあるので、異見ほどの宝はないと思えとの仰せです。

解説

一度は不快に思った進言であっても、翌日に考え直して改める。この柔軟さが、書かれている将軍の強さです。進言を受けた直後に顔色を変えてしまうのは人の常ですが、そこで終わらせず、時間を置いて理を認めることが大切だと教えています。吉宗の目安箱の話は、身分を問わず意見を集める仕組みの先例です。管理職は、部下の反対意見をその場で退けず、一晩置いて再検討する習慣を持ちたいものです。耳の痛い意見を出しやすい窓口を設けることも、組織を守る備えになります。

この章句が説くこと

明訓一班抄徳川斉昭諫言異見目安箱家光

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