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君子訓 / 巻之下

是始て國を得給ふ先公の心にて、君子創業垂統爲可繼の意なり。其子孫たる人は、其先祖の大なる勳勞を以て國を得給ふことの難きをおもひ、其先祖を尊び、其志を繼ぎ、其法を守りて永く國土を保ち、人民を治め給はゞ、是其先祖の志にかなひて、諸侯の孝行是より大なるはなし。もし先祖の國を得給ふことの難き事を思はず、我が身何の辛勞もなく、居ながら國を領して、其富貴安樂を受け、恣に驕り、酒宴遊樂を事とし、剩へ我が才智に誇り、先祖を侮り、其定め置き給ひし家法を破り、又國民を苦め、政法を猥にして、終に其臣民に背かれ、國土を失ふに至るは、諸侯の不孝是より大なるはなし。此思ふと思はざるとの二は、國家の治亂存亡の機なり。諸侯の子孫たる人、此二の機を察して、常に愼みて德を修め孝を行ひ給はゞ、其後榮永く傳はりて、令名限りなかるべし。

新字:是始て国を得給ふ先公の心にて、君子創業垂統為可継の意なり。其子孫たる人は、其先祖の大なる勲労を以て国を得給ふことの難きをおもひ、其先祖を尊び、其志を継ぎ、其法を守りて永く国土を保ち、人民を治め給はゞ、是其先祖の志にかなひて、諸侯の孝行是より大なるはなし。もし先祖の国を得給ふことの難き事を思はず、我が身何の辛労もなく、居ながら国を領して、其富貴安楽を受け、恣に驕り、酒宴遊楽を事とし、剰へ我が才智に誇り、先祖を侮り、其定め置き給ひし家法を破り、又国民を苦め、政法を猥にして、終に其臣民に背かれ、国土を失ふに至るは、諸侯の不孝是より大なるはなし。此思ふと思はざるとの二は、国家の治乱存亡の機なり。諸侯の子孫たる人、此二の機を察して、常に慎みて徳を修め孝を行ひ給はゞ、其後栄永く伝はりて、令名限りなかるべし。

書き下し

是始て国を得給ふ先公の心にて、君子業を創め統を垂れて継ぐべきを為すの意なり。其子孫たる人は、其先祖の大なる勲労を以て国を得給ふことの難きをおもひ、其先祖を尊び、其志を継ぎ、其法を守りて永く国土を保ち、人民を治め給はば、是其先祖の志にかなひて、諸侯の孝行是より大なるはなし。もし先祖の国を得給ふことの難き事を思はず、我が身何の辛労もなく、居ながら国を領して、其富貴安楽を受け、恣に驕り、酒宴遊楽を事とし、剰へ我が才智に誇り、先祖を侮り、其定め置き給ひし家法を破り、又国民を苦め、政法を猥にして、終に其臣民に背かれ、国土を失ふに至るは、諸侯の不孝是より大なるはなし。此思ふと思はざるとの二は、国家の治乱存亡の機なり。諸侯の子孫たる人、此二の機を察して、常に慎みて徳を修め孝を行ひ給はば、其後栄永く伝はりて、令名限りなかるべし。

現代語訳

これが初めて国を得られた先代の君の心であり、「君子は事業を始め、後の世に継ぐことのできる筋道を残す」という意味です。その子孫たる人が、先祖が大きな勲功によって国を得られたことの難しさを思い、先祖を尊び、その志を継ぎ、その法を守って長く国土を保ち、人民を治められるなら、それは先祖の志にかない、諸侯の孝行としてこれより大きなものはありません。もし先祖が国を得られたことの難しさを思わず、自分は何の苦労もなく、居ながらにして国を領してその富貴安楽を受け、思うままに驕り、酒宴や遊びを事とし、そのうえ自分の才知を誇って先祖を侮り、先祖が定め置かれた家法を破り、また国民を苦しめ、政治や法をみだりにして、ついにはその臣民に背かれ国土を失うに至るのは、諸侯の不孝としてこれより大きなものはありません。この思うか思わないかの二つが、国家の治乱存亡の分かれ目です。諸侯の子孫たる人は、この二つの分かれ目をよく察し、常に慎んで徳を修め孝を行われるなら、その子孫の繁栄は長く伝わり、よい名声は限りないでしょう。

解説

君子訓の結びの条です。『孟子』の「君子は業を創め統を垂れ、継ぐべきを為す」を引き、先祖の苦労を思って志と家法を継ぎ、民を治めることこそ大名の最大の孝行で、苦労知らずに驕って家法を破り民を苦しめ国を失うことが最大の不孝だと説きます。孝を家の中の親孝行にとどめず、預かった領国と民を守る責任として捉えているのが益軒の特徴です。先代が築いたものの重さを知り、驕らずに次代へ渡すという教えは、今の事業承継や家業の継承にもそのまま当てはまります。

この章句が説くこと

孝継承子孫徳孟子

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