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君子訓 / 巻之中

一東坡が曰、治亂は下情の通塞に出づ。凡國家の治亂は、譬へば人身の無病なると病あるが如し。血氣流通すれば無病の人となり、血氣めぐらざれば病人となる。下の言ふ所上に通じ、下の諫を上に用ふれば治する、是を言路通ずといふ。下の人の詞を取擧げざれば亂る、是を言路塞るといふ。言路通すれば國家治まること、血氣運りて無病なるが如し。言路塞れば國家亂るゝこと、血氣運らずして病起るが如し。古語に、上たる人下の諫を聽入れざれば、譬へば聾の如し。如斯なれば、臣下たる者は上を恐れて口を閉づ。譬へば瘖の如し。君は聾となり、臣は瘖となりては、國家の治らんことを願ふとも得べからず。

新字:一東坡が曰、治乱は下情の通塞に出づ。凡国家の治乱は、譬へば人身の無病なると病あるが如し。血気流通すれば無病の人となり、血気めぐらざれば病人となる。下の言ふ所上に通じ、下の諫を上に用ふれば治する、是を言路通ずといふ。下の人の詞を取挙げざれば乱る、是を言路塞るといふ。言路通すれば国家治まること、血気運りて無病なるが如し。言路塞れば国家乱るゝこと、血気運らずして病起るが如し。古語に、上たる人下の諫を聴入れざれば、譬へば聾の如し。如斯なれば、臣下たる者は上を恐れて口を閉づ。譬へば瘖の如し。君は聾となり、臣は瘖となりては、国家の治らんことを願ふとも得べからず。

書き下し

一東坡が曰、治乱は下情の通塞に出づ。凡国家の治乱は、譬へば人身の無病なると病あるが如し。血気流通すれば無病の人となり、血気めぐらざれば病人となる。下の言ふ所上に通じ、下の諫を上に用ふれば治する、是を言路通ずといふ。下の人の詞を取挙げざれば乱る、是を言路塞るといふ。言路通すれば国家治まること、血気運りて無病なるが如し。言路塞れば国家乱るること、血気運らずして病起るが如し。古語に、上たる人下の諫を聴入れざれば、譬へば聾の如し。如斯なれば、臣下たる者は上を恐れて口を閉づ。譬へば瘖の如し。君は聾となり、臣は瘖となりては、国家の治らんことを願ふとも得べからず。

現代語訳

蘇東坡は「治乱は下情が通じるかふさがるかから出る」と言いました。およそ国家の治乱は、たとえば人の体が無病であるか病があるかのようなものです。血気が流れ通じれば無病の人となり、血気がめぐらなければ病人となります。下の言うことが上に通じ、下の諫めを上が用いれば治まります。これを言路が通じるといいます。下の人の言葉を取り上げなければ乱れます。これを言路がふさがるといいます。言路が通じれば国家が治まることは、血気がめぐって無病であるようなものです。言路がふさがれば国家が乱れることは、血気がめぐらずに病が起こるようなものです。古い言葉に、上に立つ人が下の諫めを聞き入れなければ、たとえば耳の聞こえない人のようなものだ、とあります。このようであれば、臣下は上を恐れて口を閉ざします。たとえば口のきけない人のようなものです。君は耳が聞こえず、臣は口がきけなくなっては、国家が治まることを願っても得られません。

解説

蘇東坡(蘇軾)の言葉を引き、国の治乱を人体の血の巡りにたとえています。下の声が上に届き、上がそれを用いるのが「言路が通じる」状態で、血気がめぐる健康な体と同じだと言います。医学に通じた益軒らしいたとえで、後の養生訓にもつながる発想です。上が聞かなければ下は口を閉ざし、君は聾、臣は瘖(口がきけない)となる、という表現は強烈です。情報が上下に流れない組織が病むという見方は、今の組織論でいう風通しのよさの大切さそのものです。

この章句が説くこと

言路諫め上下情報治乱

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