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君子訓 / 巻之上

又通鑑は漢土歴代の記錄にして、古人の行ひし善惡の跡を記し、評論を載せたれば、尤政治の道、倫理綱常の敎に益ある事、四書六經に次げり。古人のなせる善惡の跡を考へて、今日行ふ所の是非を辨ふべし。聖人の經は萬世の則なり、通鑑は萬世の鏡なり。聖人の書は、譬へば醫書の病論のごとし。病の因緣を知り、療治の法を知る。通鑑は、古人の療治せし醫案を考へ、其藥法を知るが如し。古人のなせる跡を考へ、今の病人に對して療治するは今日に於て甚切要なり。通鑑を考へて今の鏡とするは、端的にして切なる事なり。政事を執行ふ人は、是を考へずんばあるべからず。上天道にかなひ、下義理にかなひ、中義理にかなふ道一あり、其名いかん、公と言ふ。

新字:又通鑑は漢土歴代の記録にして、古人の行ひし善悪の跡を記し、評論を載せたれば、尤政治の道、倫理綱常の教に益ある事、四書六経に次げり。古人のなせる善悪の跡を考へて、今日行ふ所の是非を弁ふべし。聖人の経は万世の則なり、通鑑は万世の鏡なり。聖人の書は、譬へば医書の病論のごとし。病の因縁を知り、療治の法を知る。通鑑は、古人の療治せし医案を考へ、其薬法を知るが如し。古人のなせる跡を考へ、今の病人に対して療治するは今日に於て甚切要なり。通鑑を考へて今の鏡とするは、端的にして切なる事なり。政事を執行ふ人は、是を考へずんばあるべからず。上天道にかなひ、下義理にかなひ、中義理にかなふ道一あり、其名いかん、公と言ふ。

書き下し

又通鑑は漢土歴代の記録にして、古人の行ひし善悪の跡を記し、評論を載せたれば、尤政治の道、倫理綱常の教に益ある事、四書六経に次げり。古人のなせる善悪の跡を考へて、今日行ふ所の是非を弁ふべし。聖人の経は万世の則なり、通鑑は万世の鏡なり。聖人の書は、譬へば医書の病論のごとし。病の因縁を知り、療治の法を知る。通鑑は、古人の療治せし医案を考へ、其薬法を知るが如し。古人のなせる跡を考へ、今の病人に対して療治するは今日に於て甚切要なり。通鑑を考へて今の鏡とするは、端的にして切なる事なり。政事を執行ふ人は、是を考へずんばあるべからず。上天道にかなひ、下義理にかなひ、中義理にかなふ道一あり、其名いかん、公と言ふ。

現代語訳

また通鑑は中国の歴代の記録で、昔の人の行った善悪の跡を記し、評論も載せているので、政治の道や人倫の教えに益があることは、四書六経に次ぎます。昔の人のなした善悪の跡を考えて、今日行うことの是非をわきまえるべきです。聖人の経書は万世の法則であり、通鑑は万世の鏡です。聖人の書は、たとえば医学書の病論のようなものです。病気の原因を知り、治療の方法を知ります。通鑑は、昔の人が治療した医案(診療記録)を考えて、その処方を知るようなものです。昔の人のなした跡を考えて、今の病人に対して治療するのは、今日においてはなはだ大切です。通鑑を考えて今の鏡とするのは、直接的で切実なことです。政治を執り行う人は、これを考えなければなりません。上は天道にかない、下は義理にかない、中も義理にかなう道が一つあります。その名は何かといえば、公といいます。

解説

資治通鑑を「万世の鏡」と呼び、経書と歴史書の役割の違いを医学にたとえて説明しています。経書は病の理屈を説く病論、通鑑は実際の治療記録である医案だというのです。医学にも通じた益軒ならではの的確なたとえです。資治通鑑は北宋の司馬光が編んだ編年体の通史で、政治の参考とするために書かれました。原則を学ぶだけでなく、過去の事例から具体的な判断を学べという教えは、今でいうケーススタディの考え方そのものです。条の終わりは次の公私の論へつながっています。

この章句が説くこと

通鑑歴史経書鏡政治

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