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甲陽軍鑑 / 品第十三

是れに罷り在り御前にて心ばせを仕りたけれども、それは兩上杉を一度に討取りたるより、今夜の行を城內へあぶなげもなくしらせ申すか、屋形の御爲にはましかと存候とて、能き馬にのつて舍人をもつれず、河越城内へ何の造作もなく敵のやうにたばかりて乘り籠む、氏康公寵愛の若衆なれば一入名残りをおしみ給ふもことわりなり、さても其夜の夜半に合戰ありて、氏康公伐りかち給ふ、上杉家悉くしまけ敗軍して、

新字:是れに罷り在り御前にて心ばせを仕りたけれども、それは両上杉を一度に討取りたるより、今夜の行を城内へあぶなげもなくしらせ申すか、屋形の御為にはましかと存候とて、能き馬にのつて舎人をもつれず、河越城内へ何の造作もなく敵のやうにたばかりて乗り籠む、氏康公寵愛の若衆なれば一入名残りをおしみ給ふもことわりなり、さても其夜の夜半に合戦ありて、氏康公伐りかち給ふ、上杉家悉くしまけ敗軍して、

書き下し

是れに罷り在り御前にて心ばせを仕りたけれども、それは両上杉を一度に討取りたるより、今夜の行を城内へあぶなげもなくしらせ申すか、屋形の御為にはましかと存候とて、能き馬にのつて舎人をもつれず、河越城内へ何の造作もなく敵のやうにたばかりて乗り籠む、氏康公寵愛の若衆なれば一入名残りをおしみ給ふもことわりなり、さても其夜の夜半に合戦ありて、氏康公伐りかち給ふ、上杉家悉くしまけ敗軍して、

現代語訳

ここにおりまして御前で心ばせをいたしたいのですが、それは両上杉を一度に討ち取るよりも、今夜の行動を城内へ危なげなく知らせ申すほうが、屋形の御ためにはまさるかと存じます、と言って、よい馬に乗って舎人も連れず、河越城内へ何の造作もなく、敵のように謀って乗り込む。氏康公寵愛の若衆なので、ひとしお名残を惜しまれるのも道理である。さてもその夜の夜半に合戦があって、氏康公は伐り勝ちなさる。上杉家はことごとく負けて敗軍して、

解説

弁千世は、目の前で手柄を立てるより城内への伝達のほうが主君のためになると言い、ただ一騎で敵を装って城に入る。氏康は寵愛の若者を送り出すのを惜しんだが、その夜の夜襲で大勝を得た。自分の手柄より全体の勝利に必要な役目を選ぶことが、本当の忠節である。華やかな持ち場ではなく、勝敗を分ける地味な仕事を引き受ける人を正しく評価したい。その判断が、夜襲の大勝を支えたのである。

この章句が説くこと

忠節役割伝達若手夜襲北条

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