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甲陽軍鑑 / 品第十一

箇樣の家は上より下に至る迄悉く不直なり、不直とても相手道理に究れば、俄に非におとすこともならすして、諸奉行目と目を見あはせかなたこなたへぬりまはり、ことをながうして相手に退窟さする相手も機根つようして諸奉行へ廻れば、今日は余所への饗應、今日は又御大將にて大事の御談合といふて、其人を推返す、適内に有時も機嫌あしうて、臥られたるなどゝ內の者申して、終に相手のことの理を持ても、くたびれて無し事にいたすか、若しは彼人公事理なる故、各々仕形に腹を立て、雜言など申せばそこにて負にさばく、是只出頭人の不直成故ぞかし、

新字:箇様の家は上より下に至る迄悉く不直なり、不直とても相手道理に究れば、俄に非におとすこともならすして、諸奉行目と目を見あはせかなたこなたへぬりまはり、ことをながうして相手に退窟さする相手も機根つようして諸奉行へ廻れば、今日は余所への饗応、今日は又御大将にて大事の御談合といふて、其人を推返す、適内に有時も機嫌あしうて、臥られたるなどゝ内の者申して、終に相手のことの理を持ても、くたびれて無し事にいたすか、若しは彼人公事理なる故、各々仕形に腹を立て、雑言など申せばそこにて負にさばく、是只出頭人の不直成故ぞかし、

書き下し

箇様の家は上より下に至る迄悉く不直なり、不直とても相手道理に究れば、俄に非におとすこともならすして、諸奉行目と目を見あはせかなたこなたへぬりまはり、ことをながうして相手に退窟さする相手も機根つようして諸奉行へ廻れば、今日は余所への饗応、今日は又御大将にて大事の御談合といふて、其人を推返す、適内に有時も機嫌あしうて、臥られたるなどゝ内の者申して、終に相手のことの理を持ても、くたびれて無し事にいたすか、若しは彼人公事理なる故、各々仕形に腹を立て、雑言など申せばそこにて負にさばく、是只出頭人の不直成故ぞかし、

現代語訳

このような家は上から下に至るまで悉く不直である。不直とはいっても、相手の道理が極まっていれば、にわかに非に落とすこともできず、諸奉行は目と目を見合わせてあちらこちらへ塗り回し、事を長引かせて相手を退屈させる。相手も根気強く諸奉行へ廻れば、今日はよそへの饗応、今日はまた御大将のもとで大事の御談合と言って、その人を追い返す。たまたま家に居る時も、機嫌が悪くて臥せっておられるなどと内の者が申して、ついには相手が理を持っていても、くたびれて無しにしてしまうか、もしくはその人の公事が理であるゆえに、各々の仕方に腹を立てて雑言など申せば、そこで負けに裁く。これはただ出頭人が不直であるゆえである。

解説

筋の通った訴えを正面から退けられない時、不直な役人は引き延ばしで相手を疲れさせる。饗応だ、重要会議だ、体調が悪いと言っては門前払いにし、相手が怒って暴言を吐けば、それを理由に負けにする。高坂はこれを出頭人の不直のせいだと断じている。現代の組織でも、決めない、会わない、たらい回しにするという形で同じことが起こる。理のある訴えほど早く裁くことが、上に立つ者の誠実さである。

この章句が説くこと

不直奉行公事引き延ばし側近裁定

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