古事記 / 上巻・死と蘇り、木の国へ
爾追下。取時。即於其石所燒著而死。爾其御祖命(刺國若比賣)哭患而。參上于天。請神產巢日之命時。乃遣蚶貝比賣與蛤貝比賣。令作活。爾蚶貝比賣岐佐宜(此三字以音)集而。蛤貝比賣持水而。塗母乳汁者。成麗壯夫(訓壯夫云袁等古)而出遊行。於是。八十神見。且欺率入山而。切伏大樹。茹矢打立其木。令入其中。即打離其冰目矢而拷殺也。爾亦其御祖命哭乍求者。得見。即拆其木而。取出活。告其子言。汝有此間者。遂爲八十神所滅。乃速遣於木國之大屋毘古神之御所。
新字:爾追下。取時。即於其石所焼著而死。爾其御祖命(刺国若比売)哭患而。参上于天。請神産巣日之命時。乃遣蚶貝比売与蛤貝比売。令作活。爾蚶貝比売岐佐宜(此三字以音)集而。蛤貝比売持水而。塗母乳汁者。成麗壮夫(訓壮夫云袁等古)而出遊行。於是。八十神見。且欺率入山而。切伏大樹。茹矢打立其木。令入其中。即打離其冰目矢而拷殺也。爾亦其御祖命哭乍求者。得見。即拆其木而。取出活。告其子言。汝有此間者。遂為八十神所滅。乃速遣於木国之大屋毘古神之御所。
書き下し
ここに追ひ下して取る時、すなはちその石に焼き著(つ)かえて死にき。ここにその御祖(みおや)の命(刺国若比売)哭き患ひて、天に参上り、神産巣日之命に請ひたまふ時、すなはち蚶貝比売と蛤貝比売とを遣はして、作り活(い)けしめたまひき。ここに蚶貝比売、きさげ集めて、蛤貝比売、待ち承けて、母の乳汁(ちしる)と塗りしかば、麗しき壮夫(をとこ)(壮夫を訓みて袁等古といふ)に成りて出で遊び行きき。ここに八十神見て、また欺きて山に率入りて、大樹を切り伏せ、茹矢(くさびや)をその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはちその氷目矢(ひめや)を打ち離ちて、拷(う)ち殺しき。ここにまたその御祖の命、哭きつつ求ぎしかば、見得て、すなはちその木を拆(さ)きて、取り出でて活けて、その子に告りて言ひしく、「汝ここにあらば、遂に八十神に滅ぼさえなむ」といひて、すなはち速やかに木国の大屋毘古神の御所に遣はしき。
現代語訳
大穴牟遅神が追い下ろされた大石を受け止めると、その石に焼きつけられて死んでしまいました。母の刺国若比売は泣き悲しんで天に上り、神産巣日之命に頼みました。すると神産巣日之命は蚶貝比売と蛤貝比売を遣わし、蘇生させました。蚶貝比売が貝の殻の粉を削り集め、蛤貝比売が水を持って待ち受け、母の乳汁のようにして塗ると、大穴牟遅神は立派な若者になって元気に歩き回りました。これを見た八十神は、また彼をだまして山に連れて入り、大木を切り倒して楔を打ち込み、その割れ目の中に入らせ、楔を打ち外して挟み殺しました。母はふたたび泣きながら探し、見つけ出すと、その木を裂いて取り出し、生き返らせて、子に言いました。「おまえはここにいたら、ついに八十神に滅ぼされてしまう」。そしてすぐに、木国の大屋毘古神のもとへ遣わしました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『古事記』上巻・兎の癒やしと八十神の迫害ここに吾(われ)その上を蹈(ふ)み、走りつつ読み度らむ。ここに吾が族と孰(いづれ)か多きを知らむ』と、かく言ひしかば、欺かえて列み伏せりし時、吾その上を蹈み、読み度り来て、今地(つち)に下りむとせし時、吾云ひしく、『汝は我に欺かえつ』と、言ひ竟(を)はるすなはち、最端(いやはし)に伏せる和邇、我を捕へて、ことごとに我が衣服(きもの)を剥ぎき。これによりて泣き患ひしかば、先に行きし八十神の命もちて、誨(をし)へ告りたまひしく、『海塩を浴み、風に当りて伏せれ』とのりたまひき。故、教へのごとくせしかば、我が身ことごとに傷(そこな)はえつ」とまをしき。ここに大穴牟遅神、その兎に教へ告りたまひしく、「今急(と)く、この水門(みなと)に往き、水もちて汝が身を洗ひて、すなはちその水門の蒲黄(かまのはな)を取りて、敷き散らして、その上に輾転(こいまろ)べば、汝が身、本の膚(はだ)のごと必ず差(い)えむ」とのりたまひき。故、教へのごとくせしかば、その身本の如くになりき。これ稲羽の素兎(しろうさぎ)なり。今には兎神と謂ふ。故、その兎、大穴牟遅神に白ししく、「この八十神は、必ず八上比売を得じ。袋を負ひたまへども、汝が命獲たまはむ」とまをしき。ここに八上比売、八十神に答へて言ひしく、「吾は汝等の言を聞かじ。大穴牟遅神に嫁(あ)はむ」といひき。故ここに八十神怒りて、大穴牟遅神を殺さむと欲ひて、共に議りて、伯伎国の手間の山本に至りて云ひけらく、「赤き猪、この山にあり。故、われ共に追ひ下しなば、汝待ち取れ。もし待ち取らずは、必ず汝を殺さむ」と云ひて、火もちて猪に似たる大き石を焼きて、転(まろ)ばし落しき。
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『古事記』上巻・大国主神と稲羽の素兎また名は大穴牟遅神と謂ひ、また名は葦原色許男神と謂ひ、また名は八千矛神と謂ひ、また名は宇都志国玉神と謂ひて、并せて五つの名あり。故、この大国主神の兄弟(はらから)八十神坐しき。然れども皆国は大国主神に避(さ)りき。避りし所以(ゆゑ)は、その八十神、各稲羽の八上比売を婚(よば)はむ心ありて、共に稲羽に行きし時、大穴牟遅神に袋を負ほせ、従者(ともびと)として率て往きき。ここに気多の前に到りし時、裸の兎伏せりき。ここに八十神、その兎に謂ひけらく、「汝為(せ)むは、この海塩を浴み、風の吹くに当りて、高山の尾の上に伏せれ」といひき。故、その兎、八十神の教へに従ひて伏しき。ここにその塩の乾くまにまに、その身の皮ことごとに風に吹き拆(さ)かえき。故、痛み苦しみて泣き伏せれば、最後に来し大穴牟遅神、その兎を見て、「何由(なにゆゑ)か汝が泣き伏せる」と言ひき。兎答へ言さく、「僕は淤岐島にありて、この地に度らむとすれども、度る因(よし)なかりき。故、海の和邇(わに)を欺きて言ひけらく、『吾と汝と競ひて、族(うから)の多き少なきを計らむと欲ふ。故、汝は、その族のありのまにまに、ことごとに率て来て、この島より気多の前まで、皆列み伏し度れ。
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『古事記』上巻・国作りの始まりまた河の瀬に追ひ撥(はら)ひて、意礼(おれ)、大国主神となり、また宇都志国玉神となりて、その我が女須世理毘売を嫡妻(むかひめ)として、宇迦の山の山本に、底つ石根に宮柱ふとしり、高天原に氷椽(ひぎ)たかしりて居れ。この奴(やつこ)」とのりたまひき。故、その大刀・弓を持ちて、その八十神を追ひ避(さ)くる時、坂の御尾ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに追ひ撥ひて、始めて国を作りたまひき。故、その八上比売は、先の期(ちぎり)のごとく、美刀阿多波志つ。故、その八上比売は率て来ましつれども、その嫡妻須世理毘売を畏みて、その生める子をば、木の俣に刺し挟みて返りき。故、その子を名づけて木俣神と云ひ、また名は御井神と謂ふ。
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『古事記』上巻・根の堅州国の試練ここに八十神覓(ま)ぎ追ひ臻(いた)りて、矢刺す時、木の俣より漏(く)き逃れて去りき。御祖の命、子に告りて云ひしく、「須佐能男命の坐す根堅洲国に参向(まゐむか)ふべし。必ずその大神議(はか)りたまはむ」といひき。故、詔命のまにまに須佐之男命の御所に参到れば、その女須勢理毘売出で見て、目合(まぐはひ)して相婚(あ)ひたまひき。還り入りてその父に白ししく、「甚(いと)麗しき神来ましつ」とまをしき。ここにその大神出で見て告りたまひしく、「こは葦原色許男と謂ふぞ」とのりたまひて、すなはち喚び入れて、その蛇の室に寝しめたまひき。ここにその妻須勢理毘売命、蛇の比礼(ひれ)を、その夫に授けて云ひしく、「その蛇咋(く)はむとせば、この比礼を三たび挙りて打ち払ひたまへ」といひき。故、教へのごとくせしかば、蛇自ら静まりぬ。故、平らけく寝て出でたまひき。また来る日の夜は、呉公(むかで)と蜂との室に入れたまひき。また呉公・蜂の比礼を授けて、教ふること先の如し。故、平らけく出でたまひき。また鳴鏑(なりかぶら)を大野の中に射入れて、その矢を採らしめたまひき。故、その野に入りし時、すなはち火もちてその野を廻り焼きき。ここに出づる所を知らぬ間に、鼠来て云ひしく、「内はほらほら、外はすぶすぶ」と、かく言ひき。故、そこを蹈みしかば、落ち隠り入りし間に、火は焼け過ぎき。
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『古事記』上巻・須世理毘売と根の国脱出ここにその鼠、その鳴鏑を咋(く)ひ持ちて出で来て奉りき。その矢の羽は、その鼠の子ども皆喫(く)ひたりき。ここにその妻須世理毘売は、喪具(はぶりつもの)を持ちて哭きつつ来、その父の大神は、已に死にぬと思ほして、その野に出で立ちたまひき。ここにその矢を持ちて奉る時、家に率て入りて、八田間(やたま)の大室に喚び入れて、その頭の虱(しらみ)を取らしめたまひき。故、その頭を見れば、呉公(むかで)多(さは)にあり。ここにその妻、牟久(むく)の木の実と赤土とを、その夫に授けき。故、その木の実を咋ひ破り、赤土を含みて唾き出だしたまへば、その大神、呉公を咋ひ破りて唾き出だすと以為(おも)ほして、心に愛(は)しと思ひて寝(みね)ましき。ここにその大神の髪を握りて、その室の椽(たるき)ごとに結ひ著けて、五百引(いほびき)の石をその室の戸に取り塞(さ)へ、その妻須世理毘売を負ひて、すなはちその大神の生大刀と生弓矢と、またその天の詔琴を取り持ちて逃げ出でたまふ時、その天の詔琴、樹に拂(ふ)れて地動み鳴りき。故、その寝ねたまへる大神聞き驚きて、その室を引き仆(たふ)したまひき。然れども椽に結へる髪を解く間に遠く逃げたまひき。故ここに黄泉比良坂に追ひ至りて、遥かに望みて、大穴牟遅神を呼びて曰(のたま)ひしく、「その汝が持てる生大刀・生弓矢をもちて、汝が庶兄弟(ままあにおと)をば、坂の御尾に追ひ伏せ、
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『古事記』上巻・追放と大気津比売故、天照大御神出で坐す時、高天原及び葦原中国自ら照り明かりき。ここに八百万の神共に議(はか)りて、速須佐之男命に千位(ちくら)の置戸(おきと)を負せ、また鬚(ひげ)と手足の爪とを切り、祓へしめて、神夜良比(かむやらひ)夜良比岐(やらひき)。また食物(をすもの)を大気津比売神に乞ひき。ここに大気都比売、鼻・口及び尻より種々の味物(ためつもの)を取り出だして、種々作り具へて進(たてまつ)る時、速須佐之男命その態を立ち伺ひて、穢汚(けが)して奉進(たてまつ)ると為(おも)ひて、すなはちその大宜津比売神を殺しき。故、殺さえし神の身に生れる物は、頭に蚕生り、二つの目に稲種生り、二つの耳に粟生り、鼻に小豆生り、陰(ほと)に麦生り、尻に大豆生りき。故、ここに神産巣日御祖命、これを取らしめて、種と成しき。故、避(やら)はえて、出雲国の肥の河上、名は鳥髪(とりかみ)といふ地に降りたまひき。この時、箸その河より流れ下りき。ここに須佐之男命、人その河上にありと以為ひて、尋ね覓(ま)ぎ上り往けば、老夫(おきな)と老女(おみな)と二人ありて、童女(をとめ)を中に置きて泣けり。ここに問ひたまひしく、「汝等は誰ぞ」ととひたまひき。故、その老夫答へて言しけらく、「僕は国つ神、大山津見神の子ぞ。僕が名は足名椎と謂ひ、妻の名は手名椎と謂ひ、女(むすめ)の名は櫛名田比売と謂ふ」といひき。

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