古事記 / 上巻・兎の癒やしと八十神の迫害
爾吾蹈其上。走乍讀度。於是。知與吾族孰多。如此言者。見欺而。列伏之時。吾蹈其上讀度來。今將下地時。吾云。汝者我見欺。言竟。即伏最端和邇。捕我。悉剝我衣服。因此泣患者。先行八十神之命。以誨告。浴海鹽。當風伏。故爲如敎者。我身悉傷。於是。大穴牟遲神。敎告其莬。今急往此水門。以水洗汝身。即取其水門之蒲黃。敷散而輾轉其上者。汝身如本膚必差。故爲如敎。其身如本也。此稻羽之素莬者也。於今者謂莬神也。故其莬白大穴牟遲神。此八十神者。必不得八上比賣。雖負帒。汝命獲之。於是八上比賣答八十神言。吾者不聞汝等之言。將嫁大穴牟遲神。故爾八十神怒。欲殺大穴牟遲神。共議而。至伯伎國之手間山本云。赤猪在此山。故和禮(此二字以音、下效此)共追下者。汝待取。若不待取者。必將殺汝云而。以火燒似猪大石而轉落。
新字:爾吾蹈其上。走乍読度。於是。知与吾族孰多。如此言者。見欺而。列伏之時。吾蹈其上読度来。今将下地時。吾云。汝者我見欺。言竟。即伏最端和邇。捕我。悉剥我衣服。因此泣患者。先行八十神之命。以誨告。浴海塩。当風伏。故為如教者。我身悉傷。於是。大穴牟遅神。教告其莬。今急往此水門。以水洗汝身。即取其水門之蒲黄。敷散而輾転其上者。汝身如本膚必差。故為如教。其身如本也。此稲羽之素莬者也。於今者謂莬神也。故其莬白大穴牟遅神。此八十神者。必不得八上比売。雖負帒。汝命獲之。於是八上比売答八十神言。吾者不聞汝等之言。将嫁大穴牟遅神。故爾八十神怒。欲殺大穴牟遅神。共議而。至伯伎国之手間山本云。赤猪在此山。故和礼(此二字以音、下効此)共追下者。汝待取。若不待取者。必将殺汝云而。以火焼似猪大石而転落。
書き下し
ここに吾(われ)その上を蹈(ふ)み、走りつつ読み度らむ。ここに吾が族と孰(いづれ)か多きを知らむ』と、かく言ひしかば、欺かえて列み伏せりし時、吾その上を蹈み、読み度り来て、今地(つち)に下りむとせし時、吾云ひしく、『汝は我に欺かえつ』と、言ひ竟(を)はるすなはち、最端(いやはし)に伏せる和邇、我を捕へて、ことごとに我が衣服(きもの)を剥ぎき。これによりて泣き患ひしかば、先に行きし八十神の命もちて、誨(をし)へ告りたまひしく、『海塩を浴み、風に当りて伏せれ』とのりたまひき。故、教へのごとくせしかば、我が身ことごとに傷(そこな)はえつ」とまをしき。ここに大穴牟遅神、その兎に教へ告りたまひしく、「今急(と)く、この水門(みなと)に往き、水もちて汝が身を洗ひて、すなはちその水門の蒲黄(かまのはな)を取りて、敷き散らして、その上に輾転(こいまろ)べば、汝が身、本の膚(はだ)のごと必ず差(い)えむ」とのりたまひき。故、教へのごとくせしかば、その身本の如くになりき。これ稲羽の素兎(しろうさぎ)なり。今には兎神と謂ふ。故、その兎、大穴牟遅神に白ししく、「この八十神は、必ず八上比売を得じ。袋を負ひたまへども、汝が命獲たまはむ」とまをしき。ここに八上比売、八十神に答へて言ひしく、「吾は汝等の言を聞かじ。大穴牟遅神に嫁(あ)はむ」といひき。故ここに八十神怒りて、大穴牟遅神を殺さむと欲ひて、共に議りて、伯伎国の手間の山本に至りて云ひけらく、「赤き猪、この山にあり。故、われ共に追ひ下しなば、汝待ち取れ。もし待ち取らずは、必ず汝を殺さむ」と云ひて、火もちて猪に似たる大き石を焼きて、転(まろ)ばし落しき。
現代語訳
『そこで私はその上を踏んで、数えながら走り渡ろう。そうして私の仲間とおまえの仲間のどちらが多いかを知ろう』。こう言うと、和邇はだまされて並んで伏しました。私はその上を踏み、数えながら渡って来て、いよいよ地面に下りようとしたとき、『おまえは私にだまされたのだ』と言ってしまいました。言い終わるとすぐ、いちばん端に伏していた和邇が私を捕まえ、身の毛皮をすっかり剥ぎ取ったのです。それで泣き悲しんでいましたら、先に通った八十神が『海水を浴びて、風に当たって伏していなさい』と教えました。教えられたとおりにしたら、体がすっかり傷ついてしまいました」。そこで大穴牟遅神は兎に教えました。「今すぐあの河口へ行って、真水でおまえの体を洗い、河口に生えている蒲の花粉を敷き散らして、その上を転げ回れば、おまえの体は元の肌のように必ず治るだろう」。教えられたとおりにすると、体は元に戻りました。これが稲羽の素兎で、今では兎神といいます。兎は大穴牟遅神に言いました。「あの八十神は、決して八上比売を得られません。袋を背負っておられても、あなたさまが得られるでしょう」。八上比売は八十神に答えました。「私はあなたたちの言うことは聞きません。大穴牟遅神に嫁ぎます」。八十神は怒り、大穴牟遅神を殺そうと相談し、伯伎国の手間の山のふもとに来て言いました。「この山に赤い猪がいる。我々が追い下ろすから、おまえは待ち受けて捕まえろ。もし捕らえそこなえば、必ずおまえを殺す」。そう言って、猪に似た大石を火で焼き、転がし落としました。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『古事記』上巻・大国主神と稲羽の素兎また名は大穴牟遅神と謂ひ、また名は葦原色許男神と謂ひ、また名は八千矛神と謂ひ、また名は宇都志国玉神と謂ひて、并せて五つの名あり。故、この大国主神の兄弟(はらから)八十神坐しき。然れども皆国は大国主神に避(さ)りき。避りし所以(ゆゑ)は、その八十神、各稲羽の八上比売を婚(よば)はむ心ありて、共に稲羽に行きし時、大穴牟遅神に袋を負ほせ、従者(ともびと)として率て往きき。ここに気多の前に到りし時、裸の兎伏せりき。ここに八十神、その兎に謂ひけらく、「汝為(せ)むは、この海塩を浴み、風の吹くに当りて、高山の尾の上に伏せれ」といひき。故、その兎、八十神の教へに従ひて伏しき。ここにその塩の乾くまにまに、その身の皮ことごとに風に吹き拆(さ)かえき。故、痛み苦しみて泣き伏せれば、最後に来し大穴牟遅神、その兎を見て、「何由(なにゆゑ)か汝が泣き伏せる」と言ひき。兎答へ言さく、「僕は淤岐島にありて、この地に度らむとすれども、度る因(よし)なかりき。故、海の和邇(わに)を欺きて言ひけらく、『吾と汝と競ひて、族(うから)の多き少なきを計らむと欲ふ。故、汝は、その族のありのまにまに、ことごとに率て来て、この島より気多の前まで、皆列み伏し度れ。
-
『古事記』上巻・死と蘇り、木の国へここに追ひ下して取る時、すなはちその石に焼き著(つ)かえて死にき。ここにその御祖(みおや)の命(刺国若比売)哭き患ひて、天に参上り、神産巣日之命に請ひたまふ時、すなはち蚶貝比売と蛤貝比売とを遣はして、作り活(い)けしめたまひき。ここに蚶貝比売、きさげ集めて、蛤貝比売、待ち承けて、母の乳汁(ちしる)と塗りしかば、麗しき壮夫(をとこ)(壮夫を訓みて袁等古といふ)に成りて出で遊び行きき。ここに八十神見て、また欺きて山に率入りて、大樹を切り伏せ、茹矢(くさびや)をその木に打ち立て、その中に入らしめて、すなはちその氷目矢(ひめや)を打ち離ちて、拷(う)ち殺しき。ここにまたその御祖の命、哭きつつ求ぎしかば、見得て、すなはちその木を拆(さ)きて、取り出でて活けて、その子に告りて言ひしく、「汝ここにあらば、遂に八十神に滅ぼさえなむ」といひて、すなはち速やかに木国の大屋毘古神の御所に遣はしき。
-
『古事記』上巻・根の堅州国の試練ここに八十神覓(ま)ぎ追ひ臻(いた)りて、矢刺す時、木の俣より漏(く)き逃れて去りき。御祖の命、子に告りて云ひしく、「須佐能男命の坐す根堅洲国に参向(まゐむか)ふべし。必ずその大神議(はか)りたまはむ」といひき。故、詔命のまにまに須佐之男命の御所に参到れば、その女須勢理毘売出で見て、目合(まぐはひ)して相婚(あ)ひたまひき。還り入りてその父に白ししく、「甚(いと)麗しき神来ましつ」とまをしき。ここにその大神出で見て告りたまひしく、「こは葦原色許男と謂ふぞ」とのりたまひて、すなはち喚び入れて、その蛇の室に寝しめたまひき。ここにその妻須勢理毘売命、蛇の比礼(ひれ)を、その夫に授けて云ひしく、「その蛇咋(く)はむとせば、この比礼を三たび挙りて打ち払ひたまへ」といひき。故、教へのごとくせしかば、蛇自ら静まりぬ。故、平らけく寝て出でたまひき。また来る日の夜は、呉公(むかで)と蜂との室に入れたまひき。また呉公・蜂の比礼を授けて、教ふること先の如し。故、平らけく出でたまひき。また鳴鏑(なりかぶら)を大野の中に射入れて、その矢を採らしめたまひき。故、その野に入りし時、すなはち火もちてその野を廻り焼きき。ここに出づる所を知らぬ間に、鼠来て云ひしく、「内はほらほら、外はすぶすぶ」と、かく言ひき。故、そこを蹈みしかば、落ち隠り入りし間に、火は焼け過ぎき。
-
『古事記』上巻・嫉妬と別れの歌あやに な恋ひ聞こし 八千矛の 神の命 事の 語り言も こをば。 故、その夜は合はずて、明日の夜御合ひしたまひき。またその神の嫡后(おほきさき)須勢理毘売命、甚(いた)く嫉妬(うはなりねたみ)したまひき。故、その日子遅神(ひこぢのかみ)和備(わび)て、出雲より倭国に上りまさむとして、装束(よそひ)立たす時、片御手は御馬の鞍に繋け、片御足はその御鐙(あぶみ)に蹈み入れて、歌ひたまひしく、 ぬばたまの 黒き御衣(みけし)を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 羽叩(はたた)きも これは適(ふさ)はず 辺つ波 そに脱き棄(う)て そに鳥の 青き御衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 羽叩きも これも適はず 辺つ波 そに脱き棄て 山県(やまがた)に 蒔(ま)きし あたね舂(つ)き 染木(そめき)が汁に 染め衣を まつぶさに 取り装ひ 沖つ鳥 胸見る時 羽叩きも 此(こ)し宜(よろ)し いとこやの 妹の命 群鳥(むらどり)の 我が群れ往なば 引け鳥の 我が引け往なば 泣かじとは 汝は言ふとも 山処(やまと)の 一本薄(ひともとすすき) 項傾(うなかぶ)し 汝が泣かさまく 朝雨の 霧に立たむぞ 若草の 妻の命 事の 語り言も こをば。
-
『古事記』上巻・国作りの始まりまた河の瀬に追ひ撥(はら)ひて、意礼(おれ)、大国主神となり、また宇都志国玉神となりて、その我が女須世理毘売を嫡妻(むかひめ)として、宇迦の山の山本に、底つ石根に宮柱ふとしり、高天原に氷椽(ひぎ)たかしりて居れ。この奴(やつこ)」とのりたまひき。故、その大刀・弓を持ちて、その八十神を追ひ避(さ)くる時、坂の御尾ごとに追ひ伏せ、河の瀬ごとに追ひ撥ひて、始めて国を作りたまひき。故、その八上比売は、先の期(ちぎり)のごとく、美刀阿多波志つ。故、その八上比売は率て来ましつれども、その嫡妻須世理毘売を畏みて、その生める子をば、木の俣に刺し挟みて返りき。故、その子を名づけて木俣神と云ひ、また名は御井神と謂ふ。
-
『古事記』上巻・木花之佐久夜毘売との婚姻ここに天宇受売命、海鼠に謂ひて云ひしく、「この口や答へせぬ口」といひて、紐小刀を以ちてその口を拆きき。故、今に海鼠の口拆けたり。ここを以ちて御世御世、島の速贄献る時に、猨女君らに給ふなり。ここに天津日高日子番能邇邇芸能命、笠沙の御前に、麗しき美人に遇ひたまひき。ここに問ひたまひしく、「誰が女ぞ」ととひたまひき。答へ白ししく、「大山津見神の女、名は神阿多都比売、(この神の名は音を以ちてす)またの名は木花之佐久夜毘売(この五字は音を以ちてす)と謂ふ」とまをしき。また問ひたまひしく、「汝の兄弟ありや」。答へ白ししく、「我が姉、石長比売在り」とまをしき。ここに詔りたまひしく、「吾、汝と目合せむと欲ふ。いかに」とのりたまひき。答へ白ししく、「僕は白すこと得じ。僕が父大山津見神、白さむ」とまをしき。故、その父大山津見神に乞ひに遣はしし時、大きに歓喜びて、その姉石長比売を副へ、百取の机代の物を持たしめて奉り出しき。故、ここにその姉は、いと凶醜きに因りて、見畏みて返し送り、ただその弟木花之佐久夜毘売を留めて、一宿婚為たまひき。ここに大山津見神、石長比売を返したるに因りて、大きに恥ぢ、白し送りて言ひしく、「我が女二並べて立て奉りし由は、石長比売を使はば、天つ神の御子の命、雪降り風吹くとも、恒に石の如くして常に堅く動かず坐さむ、

人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る