啓発録 / 擇朋友
彼損友ハ佞柔善媚阿諛逢迎ヲ旨トシテ浮躁辯慧輕忽粗慢ノ性質アル者ナリ此ハ何レモ心安ク成易キ人ニテ世間ノ女子小人ドモ其才智ヤ人品ヲ譽居候者ナレドモ聖賢豪傑タラント思フ者ハ其所擇自ラ在ル所アルベシ
新字:彼損友ハ佞柔善媚阿諛逢迎ヲ旨トシテ浮躁弁慧軽忽粗慢ノ性質アル者ナリ此ハ何レモ心安ク成易キ人ニテ世間ノ女子小人ドモ其才智ヤ人品ヲ誉居候者ナレドモ聖賢豪傑タラント思フ者ハ其所択自ラ在ル所アルベシ
書き下し
彼損友は、佞柔善媚、阿諛逢迎を旨として、浮躁弁慧、軽忽粗慢の性質ある者なり。此は何れも心安く成易き人にて、世間の女子小人ども其才智や人品を誉居候者なれども、聖賢豪傑たらんと思ふ者は、其所択自ら在る所あるべし。
現代語訳
あの損友は、口先がうまく柔らかい態度で媚び、おべっかを使って相手に合わせることを旨とし、軽はずみで落ち着きがなく、口が達者で小利口、軽率で粗雑で傲慢な性質の者です。こうした人はいずれも打ち解けやすく、世間の女性や小人たちがその才智や人柄をほめている者ですが、聖賢や豪傑になろうと思う者は、自然と選び分ける所があるはずです。
解説
前の句の益友と対になる損友の描写です。佞柔、善媚、阿諛、逢迎と、相手に合わせて取り入る性質が並び、さらに浮躁や軽忽といった落ち着きのなさが加わります。ここでも左内は、心安くなりやすいことと、世間にほめられることを、見分けの手がかりとして挙げています。居心地のよさに引き込まれるのを警戒しているわけです。なお、女子小人という言い方は当時の語感で、現代の感覚では使いにくい表現です。仕事の場では、いつも同意して場を和ませる人が、結果として判断を甘くする側に回る場合があります。誰が自分にとって耳に心地よいのかを点検することは、組織の長に欠かせない習慣です。
この章句が説くこと
損友阿諛逢迎人物眼聖賢啓発録
関連する章句
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啓発録・擇朋友交友は吾連朋友の事にて、択とはすぐり出す意なり。吾同門、同里の人、同年輩の人、吾と交りぐれ候へば、何れも大切にすべし。乍去其中に損友益友候へば、則択と申す事肝要なり。損友は吾に得たる道を以て、人其の不正の事を矯直し可遣。益友は吾より親みを求め、事を詢り、常に兄弟の如くすべし。
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啓発録・擇朋友偖て益友の見立方は、其人剛正毅直なるか、温良篤実なるか、豪壮英果なるか、俊邁亮明なるか、闊達大度なるかの五つに出でず。此等は何れも気遣多き人にて、世間の俗人どもは甚しく厭棄致し居候者なり。
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啓発録・擇朋友世の中に益友ほど難有難得者はなく候間、一人にても有之ば、何分大切にすべし。総て友に交るに、飲食歓娯の上にて附合、遊山釣魚にて狎合は不宜。学問の講究、武事の練習、士たる志の研究、心合の吟味より交を納れ可申事に候。
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啓発録・擇朋友飲食遊山にて狎合候朋友は、其平生は腕を扼り肩を拍ち、互に知己知己と称し居り候べ共、無事の時吾徳を補ふに足らず、有事の時吾危難を救ひくれ候者にてはなし。これは成り丈屢出会不致、吾身を厳重に致し附合候て、必狎昵致し吾道を褻さぬ様にして、何とか工夫を凝して其者を正道に導き、武道学問の筋に勧め込み候事、友道なり。
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啓発録・擇朋友偖益友と申す兎角気遣な物にて、折々不面白事有之候。夫を篤と了簡致すべし。益友の吾身に補ひあるは、全く其気遣なる処にて候。士有争友、雖無道不失令名と申すこと経に有之候。争友どは即益友也。吾過を告知らせ、我を規弾致しくれ候てこそ、吾気の附ぬ処の落も欠も補ひたし候事相叶候なり。若右の益友の異見を嫌ひ候時は、天子諸侯にして諫臣を御疎みなされ候同様にて、遂には刑戮にも罹り、不測の禍をも招く事あるべきなり。
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啓発録・勉學且又世間には愚俗多く候故、学問を致し候と兎角驕謾の心起り、浮調子に成て、或は功名富貴に念動き、才気聡明に伐り度病折々出来候ものにて候。これを自ら慎み可申は勿論に候へども、茲には良友の規箴至て肝要に候間、何分交友を択み、吾仁を輔け吾徳を足し候工夫可有之候。
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