啓発録 / 擇朋友
交友ハ吾連朋友ノ事ニテ擇トハスグリ出ス意ナリ吾同門同里ノ人同年輩ノ人吾ト交リグレ候ヘバ何レモ大切ニスベシ乍去其中ニ損友益友候ヘバ則擇ト申ス事肝要ナリ損友ハ吾ニ得タル道ヲ以テ人其ノ不正ノ事ヲ矯直シ可遣益友ハ吾ヨリ親ミヲ求メ事ヲ詢リ常ニ兄弟ノ如クスベシ
新字:交友ハ吾連朋友ノ事ニテ択トハスグリ出ス意ナリ吾同門同里ノ人同年輩ノ人吾ト交リグレ候ヘバ何レモ大切ニスベシ乍去其中ニ損友益友候ヘバ則択ト申ス事肝要ナリ損友ハ吾ニ得タル道ヲ以テ人其ノ不正ノ事ヲ矯直シ可遣益友ハ吾ヨリ親ミヲ求メ事ヲ詢リ常ニ兄弟ノ如クスベシ
書き下し
交友は吾連朋友の事にて、択とはすぐり出す意なり。吾同門、同里の人、同年輩の人、吾と交りぐれ候へば、何れも大切にすべし。乍去其中に損友益友候へば、則択と申す事肝要なり。損友は吾に得たる道を以て、人其の不正の事を矯直し可遣。益友は吾より親みを求め、事を詢り、常に兄弟の如くすべし。
現代語訳
交友とは、自分とつながりのある友人のことで、択とは、より分けて選び出すという意味です。同じ門下の人、同じ里の人、同年輩の人など、自分と交わる人は、誰であっても大切にするべきです。しかしながら、その中には損になる友と益になる友がいるので、択ぶということが肝要になります。損友に対しては、自分が身につけた道をもって、その不正を正し直してあげるのがよく、益友に対しては、自分のほうから親しみを求め、ことを相談して、いつも兄弟のように接するべきです。
解説
交友の章の入口で、左内はまず友の範囲を、同門、同郷、同年輩へと広く取っています。そのうえで、損友と益友を分ける択という作業が必要だと説きます。択とは、交際を切り捨てることではありません。損友には自分の得た道で不正を矯し直すとあり、見捨てずに働きかける責任を引き受けています。益友には自分から近づき、兄弟のように相談する、と能動的な姿勢を求めています。職場でも、同期や同じ部署の人には自然に親しめますが、自分の成長に役立つ相手には、こちらから頼って近づく行動が要ります。人間関係を選ぶことは冷たいことではなく、誰とどう付き合うかを自覚して決めることだと読めます。
この章句が説くこと
友択損友益友交友啓発録
関連する章句
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啓発録・擇朋友世の中に益友ほど難有難得者はなく候間、一人にても有之ば、何分大切にすべし。総て友に交るに、飲食歓娯の上にて附合、遊山釣魚にて狎合は不宜。学問の講究、武事の練習、士たる志の研究、心合の吟味より交を納れ可申事に候。
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啓発録・擇朋友飲食遊山にて狎合候朋友は、其平生は腕を扼り肩を拍ち、互に知己知己と称し居り候べ共、無事の時吾徳を補ふに足らず、有事の時吾危難を救ひくれ候者にてはなし。これは成り丈屢出会不致、吾身を厳重に致し附合候て、必狎昵致し吾道を褻さぬ様にして、何とか工夫を凝して其者を正道に導き、武道学問の筋に勧め込み候事、友道なり。
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啓発録・擇朋友彼損友は、佞柔善媚、阿諛逢迎を旨として、浮躁弁慧、軽忽粗慢の性質ある者なり。此は何れも心安く成易き人にて、世間の女子小人ども其才智や人品を誉居候者なれども、聖賢豪傑たらんと思ふ者は、其所択自ら在る所あるべし。
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啓発録・擇朋友偖益友と申す兎角気遣な物にて、折々不面白事有之候。夫を篤と了簡致すべし。益友の吾身に補ひあるは、全く其気遣なる処にて候。士有争友、雖無道不失令名と申すこと経に有之候。争友どは即益友也。吾過を告知らせ、我を規弾致しくれ候てこそ、吾気の附ぬ処の落も欠も補ひたし候事相叶候なり。若右の益友の異見を嫌ひ候時は、天子諸侯にして諫臣を御疎みなされ候同様にて、遂には刑戮にも罹り、不測の禍をも招く事あるべきなり。
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啓発録・擇朋友偖て益友の見立方は、其人剛正毅直なるか、温良篤実なるか、豪壮英果なるか、俊邁亮明なるか、闊達大度なるかの五つに出でず。此等は何れも気遣多き人にて、世間の俗人どもは甚しく厭棄致し居候者なり。
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『初学訓』巻之四一友とする人は、尤も択ぶべし。智ありて、わが悪しきを正し、善きをすすむる忠直なる頼しき人あらば、親みて友とすべし。直ならず柔かにして、わが心にかなへる人は、益なし。一わが子弟など、年わかき者の友だちの交り、尤もはやく択ぶべし。友なふ人にうつり易きこと、古人、麪に油の染み易きに譬ふ。わかき人の善悪は、皆その友による。公儀の法をおそれず、親の命をきかず、酒色と淫楽博奕を好み、我身の恥を知らず、わが家の業をつとめざる者を、名づけて無頼の人といふ。年若き子弟を、無頼の人に一日も交らしむべからず。必ずひきそこなはれ、悪におち入り易し。一たびかかる悪友にならへば、善き方へ立ちかへり難し。恐るべし。
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