啓発録 / 擇朋友
偖益友ト申ス兎角氣遣ナ物ニテ折々不面白事有之候夫ヲ篤ト了簡致スベシ益友ノ吾身ニ補ヒアルハ全ク其氣遣ナル處ニテ候士有爭友雖無道不失令名ト申スコト經ニ有之候爭友ドハ即益友也吾過ヲ告知ラセ我ヲ規彈致シク、レ候テコソ吾氣ノ附ヌ處ノ落モ欠モ補ヒタシ候事相叶候ナリ若右ノ益友ノ異見ヲ嫌ヒ候時ハ 天子諸侯ニシテ諫臣ヲ御踈ミナサレ候同樣ニテ遂ニハ刑戮ニモ罹リ不測ノ禍ヲモ招ク事アルベキナリ
新字:偖益友ト申ス兎角気遣ナ物ニテ折々不面白事有之候夫ヲ篤ト了簡致スベシ益友ノ吾身ニ補ヒアルハ全ク其気遣ナル処ニテ候士有争友雖無道不失令名ト申スコト経ニ有之候争友ドハ即益友也吾過ヲ告知ラセ我ヲ規弾致シク、レ候テコソ吾気ノ附ヌ処ノ落モ欠モ補ヒタシ候事相叶候ナリ若右ノ益友ノ異見ヲ嫌ヒ候時ハ 天子諸侯ニシテ諫臣ヲ御疎ミナサレ候同様ニテ遂ニハ刑戮ニモ罹リ不測ノ禍ヲモ招ク事アルベキナリ
書き下し
偖益友と申す兎角気遣な物にて、折々不面白事有之候。夫を篤と了簡致すべし。益友の吾身に補ひあるは、全く其気遣なる処にて候。士有争友、雖無道不失令名と申すこと経に有之候。争友どは即益友也。吾過を告知らせ、我を規弾致しくれ候てこそ、吾気の附ぬ処の落も欠も補ひたし候事相叶候なり。若右の益友の異見を嫌ひ候時は、天子諸侯にして諫臣を御疎みなされ候同様にて、遂には刑戮にも罹り、不測の禍をも招く事あるべきなり。
現代語訳
さて、益友というものは、とかく気づまりなもので、ときどき面白くないことがあります。そこをよくよく心得なければなりません。益友が自分を補ってくれるのは、まさにその気づまりな点にあります。士に諫めてくれる友がいれば、道に外れたことをしても良い名を失わない、ということが経書にあります。争友とはすなわち益友のことです。自分の過ちを告げ知らせ、厳しく責めただしてくれてこそ、自分では気づかない落ち度や欠けを補うことができます。もしこうした益友の意見を嫌うならば、天子や諸侯が諫める臣下を遠ざけるのと同じで、ついには刑に処せられ、思いもよらない災いを招くこともあるでしょう。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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啓発録・擇朋友世の中に益友ほど難有難得者はなく候間、一人にても有之ば、何分大切にすべし。総て友に交るに、飲食歓娯の上にて附合、遊山釣魚にて狎合は不宜。学問の講究、武事の練習、士たる志の研究、心合の吟味より交を納れ可申事に候。
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啓発録・擇朋友交友は吾連朋友の事にて、択とはすぐり出す意なり。吾同門、同里の人、同年輩の人、吾と交りぐれ候へば、何れも大切にすべし。乍去其中に損友益友候へば、則択と申す事肝要なり。損友は吾に得たる道を以て、人其の不正の事を矯直し可遣。益友は吾より親みを求め、事を詢り、常に兄弟の如くすべし。
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啓発録・擇朋友偖て益友の見立方は、其人剛正毅直なるか、温良篤実なるか、豪壮英果なるか、俊邁亮明なるか、闊達大度なるかの五つに出でず。此等は何れも気遣多き人にて、世間の俗人どもは甚しく厭棄致し居候者なり。
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啓発録・擇朋友彼損友は、佞柔善媚、阿諛逢迎を旨として、浮躁弁慧、軽忽粗慢の性質ある者なり。此は何れも心安く成易き人にて、世間の女子小人ども其才智や人品を誉居候者なれども、聖賢豪傑たらんと思ふ者は、其所択自ら在る所あるべし。
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啓発録・擇朋友飲食遊山にて狎合候朋友は、其平生は腕を扼り肩を拍ち、互に知己知己と称し居り候べ共、無事の時吾徳を補ふに足らず、有事の時吾危難を救ひくれ候者にてはなし。これは成り丈屢出会不致、吾身を厳重に致し附合候て、必狎昵致し吾道を褻さぬ様にして、何とか工夫を凝して其者を正道に導き、武道学問の筋に勧め込み候事、友道なり。
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啓発録・勉學且又世間には愚俗多く候故、学問を致し候と兎角驕謾の心起り、浮調子に成て、或は功名富貴に念動き、才気聡明に伐り度病折々出来候ものにて候。これを自ら慎み可申は勿論に候へども、茲には良友の規箴至て肝要に候間、何分交友を択み、吾仁を輔け吾徳を足し候工夫可有之候。
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