韓非子 / 八經第四十八
是以事至而結智,一聽而公會。聽不一則後悖於前,後悖於前則愚智不分;不公會則猶豫而不斷,不斷則事留。自取一,則毋墮壑之累。故使之諷,諷定而怒。是以言陳之日,必有筴籍。結智者事發而驗,結能者功見而謀成敗。成敗有徵,賞罰随之。事成則君收其功,規敗則臣任其罪。君人者合符猶不親,而況於力乎?事智猶不親,而況於懸乎?故其用人也不取同,同則君怒。使人相用則君神,君神則下盡。下盡,則臣上不因君,而主道畢矣。三。
新字:是以事至而結智,一聴而公会。聴不一則後悖於前,後悖於前則愚智不分;不公会則猶予而不断,不断則事留。自取一,則毋堕壑之累。故使之諷,諷定而怒。是以言陳之日,必有筴籍。結智者事発而験,結能者功見而謀成敗。成敗有徴,賞罰随之。事成則君収其功,規敗則臣任其罪。君人者合符猶不親,而況於力乎?事智猶不親,而況於懸乎?故其用人也不取同,同則君怒。使人相用則君神,君神則下尽。下尽,則臣上不因君,而主道畢矣。三。
書き下し
是を以て事至りて智を結び、一たび聽きて公會す。聽くこと一ならざれば則ち後前に悖り、後前に悖れば則ち愚智分かれず。公會せざれば則ち猶豫して斷ぜず、斷ぜざれば則ち事留まる。自ら一を取れば、則ち壑に墮つるの累毋し。故に之をして諷せしめ、諷定まりて怒る。是を以て言陳ぶるの日、必ず筴籍有り。智を結ぶ者は事發して驗し、能を結ぶ者は功見はれて成敗を謀る。成敗に徵有れば、賞罰之に随ふ。事成れば則ち君其の功を收め、規敗るれば則ち臣其の罪に任ず。君人者は符を合するすら猶ほ親らせず、而るを況んや力に於てをや。事智すら猶ほ親らせず、而るを況んや懸に於てをや。故に其の人を用ふるや同を取らず、同なれば則ち君怒る。人をして相用ひしむれば則ち君神なり、君神なれば則ち下盡くす。下盡くせば、則ち臣上君に因らずして、主道畢る。三。
現代語訳
だから事が起これば臣下の智恵を集め、一人ずつ聞いたうえで公の場で突き合わせる。一人ずつ聞かなければ、後の言葉が前の言葉と食い違い、食い違えば愚者と智者の区別がつかない。公の場で突き合わせなければ、ためらって決断できず、決断できなければ事が滞る。君主が自ら一つを選び取れば、谷底に落ちるような失敗の累はない。だから臣下に意見を述べさせ、意見が定まったらその言葉に照らして責任を問う。それゆえ意見を述べる日には、必ず記録の帳簿を作る。智恵を出した者は事が起こってから検証し、能力を出した者は成果が現れてから成否を量る。成否に証拠があれば、賞罰はそれに従う。事が成れば君主がその功を収め、計画が失敗すれば臣下がその罪を負う。人の君たる者は、割符を合わせる程度のことすら自分ではしない。まして力仕事などするだろうか。智恵を使う仕事すら自分ではしない。まして当て推量などするだろうか。だから人を用いるには、意見が皆同じになるのを取らない。皆が同じなら君主は責める。臣下どうしを互いに用いさせれば君主は神のように測り知れず、君主が測り知れなければ臣下は力を尽くす。臣下が力を尽くせば、臣下は君主に頼って事を運ぶことなく、君主の道は完成する。第三。
解説
関連する章句
-
『韓非子』八經第四十八一。凡そ天下を治むるは、必ず人情に因る。人情なる者は、好惡有り、故に賞罰用ふべし。賞罰用ふべければ、則ち禁令立つべくして治道具はる。君柄を執りて以て勢に處る、故に令行はれ禁止む。柄なる者は、殺生の制なり。勢なる者は、衆に勝つの資なり。廢置度無ければ則ち權瀆れ、賞罰下と共にすれば則ち威分かる。是を以て明主は愛を懷きて聽かず、說を留めて計らず。故に言を聽きて參せざれば、則ち權姦に分かれ、智力用ひざれば、則ち君臣に窮す。故に明主の制を行ふや天、其の人を用ふるや鬼。天なれば則ち非られず、鬼なれば則ち困しまず。勢行はれ教へ嚴にして、逆らへども違はず、毁譽一に行はれて議せず。故に賢を賞し暴を罰するは、善を舉ぐるの至りなる者なり。暴を賞し賢を罰するは、惡を舉ぐるの至りなる者なり。是れを賞同罰異と謂ふ。賞は厚きに如くは莫し、民をして之を利とせしむ。譽は美なるに如くは莫し、民をして之を榮とせしむ。誅は重きに如くは莫し、民をして之を畏れしむ。毁は惡しきに如くは莫し、民をして之を恥ぢしむ。然る後に一に其の法を行ひ、誅を私家に禁じ、功罪を害せず。賞罰必ず之を知る、之を知れば、道盡く。二。力は衆に敵せず、智は物を尽くさず。其の一人を用ふるよりは、一國を用ふるに如かず、故に智力敵して羣物勝つ。揣りて中れば則ち私に勞し、中らざれば則ち過を任ふ。
-
『韓非子』八經第四十八事に任ずる者知治職に足らざれば、則ち官收めらる。說大にして誇れば則ち端を窮め、故に姦得られて怒る。故無くして當らざるを誣と爲し、誣なれば臣を罪す。言必ず報有り、說必ず用を責む、故に朋黨の言上聞せず。凡そ聽くの道は、人臣忠論して以て姦を聞かせ、博論して以て一を内る、人主智ならざれば則ち姦資を得。明主の道は、己喜べば則ち其の納るる所を求め、己怒れば則ち其の搆ふる所を察し、已に變ずるの後に論じて、以て毁譽公私の徵を得。衆諫して以て智故を效し、君をして自ら一を取りて以て罪を避けしむ、故に衆の諫むるや敗る。君の取るや、副言を上に無くして以て將に然らんとするを設け、言を後に符せしめて以て謾誠の語を知る。明主の道は、臣兩諫するを得ず、必ず其の一語に任ず。擅に行ふを得ず、必ず其の參に合す、故に姦進むに道無し。七。官の重きや、法毋ければなり。法の息むや、上闇ければなり。上闇くして度無ければ、則ち官擅に爲す。官擅に爲す、故に奉重くして前無し。奉重くして前無ければ、則ち徵多く、徵多し故に富む。官の富重なるは、亂功の生ずる所なり。明主の道は任に取り、官に賢とし、功に賞す。言程にして、主喜べば、俱に必ず利あり。當らずして、主怒れば、俱に必ず害あり、則ち人父兄に私せずして其の仇讎を進む。勢以て法を行ふに足り、奉以て事に給するに足りて、私生ずる所無し、故に民勞苦して官を輕んず。事に任ずる者重き毋く、其の寵をして必ず爵に在らしめ、官に處る者私毋く、其の利をして必ず禄に在らしむ、故に民爵を尊びて禄を重んず。爵禄は賞する所以なり、民賞する所以を重んずれば、則ち國治まる。刑の煩はしきは、名の繆れるなり。賞譽當らざれば則ち民疑ふ、民の名を重んずると其の賞を重んずるとは均しければなり。賞せらるる者に誹有れば、以て勸むるに足らず。罰せらるる者に譽有れば、以て禁ずるに足らず。明主の道は、賞は必ず公利に出で、名は必ず上の爲にするに在り。賞譽軌を同じくし、非誅俱に行はる。然らば則ち民賞の内に榮とする無し。重罰有る者は必ず惡名有り、故に民畏る。罰は禁ずる所以なり、民禁ずる所以を畏るれば、則ち國治まる。八。
-
『韓非子』八經第四十八有道の主は言を聽きて、其の用を督し、其の功を課し、功課して賞罰生ず、故に無用の辯朝に留まらず。
-
『韓非子』主道第五旧を去り智を去れば、臣乃ち自ら備ふ。故に智有りて以て慮らず、万物をして其の処を知らしむ。賢有りて以て行はず、臣下の因る所を観る。勇有りて以て怒らず、群臣をして其の武を尽くさしむ。是の故に智を去りて明有り、賢を去りて功有り、勇を去りて強有り。群臣職を守り、百官常有り、能に因りて之を使ふ、是を習常と謂ふ。故に曰く、寂乎として其れ位無くして処り、漻乎として其の所を得る莫し。明君上に無為にして、群臣下に竦懼す。明君の道は、智者をして其の慮を尽くさしめて、君因りて以て事を断ず、故に君は智に窮せず。賢者は其の材を勅め、君因りて之に任ず、故に君は能に窮せず。功有れば則ち君其の賢を有し、過ち有れば則ち臣其の罪を任ふ、故に君は名に窮せず。是の故に賢ならずして賢者の師と為り、智ならずして智者の正と為る。
-
『韓非子』八經第四十八廢置の事、内に生ずれば則ち治まり、外に生ずれば則ち亂る。是を以て明主は功を以て之を内に論じ、而して利を以て之を外に資す、故に其の國治まりて敵亂る。亂に即くの道は、臣憎めば則ち外より起こすこと眩の若く、臣愛すれば則ち内より起こすこと藥の若し。四。參伍の道は、參を行ひて以て多きを謀り、伍を揆りて以て失を責む。參を行ふは必ず拆き、伍を揆るは必ず怒る。拆かざれば則ち上を瀆し、怒らざれば則ち相和す。拆くの徵は以て多寡を知るに足り、怒るの前は其の衆に及ばず。觀聽の勢は、其の徵比周に在りて異を賞するなり、謁する毋きを誅して罪同じくす。言衆端に會すれば、必ず之を揆るに地を以てし、之を謀るに天を以てし、之を驗するに物を以てし、之を叄するに人を以てす。四徵なる者符すれば、乃ち以て觀るべし。言を參して以て其の誠を知り、視を易へて以て其の澤を改め、見を執りて以て非常を得。一たび用ひて以て近習を務め、言を重ねて以て遠使を懼れしむ。往を舉げて以て其の前を悉くし、邇に即きて以て其の内を知り、䟽置して以て其の外を知る。明を握りて以て闇き所を問ひ、詭使して以て黷泄を絶つ。言を倒にして以て疑ふ所を嘗み、反を論じて以て陰姦を得。諫を設けて以て獨爲を綱し、錯を舉げて以て姦動を觀る。說を明らかにして以て過を避くるを誘ひ、卑適して以て直諂を觀る。聞を宣べて以て未だ見ざるを通じ、鬬を作して以て朋黨を散ず。一を深くして以て衆心を警め、異を泄らして以て其の慮を易へしむ。似類なれば則ち其の參を合はせ、過を陳ぶれば則ち其の固を明らかにす。罪を知りて罪を辟けて以て威を止め、陰使時に循ひて以て衷を省み、漸く更めて以て通比を離す。下約して以て其の上を侵さしむ。相室は其の廷臣を約し、廷臣は其の官屬を約し、軍吏は其の兵士を約し、遣使は其の行介を約し、縣令は其の辟吏を約し、郎中は其の左右を約し、后姬は其の宮媛を約す。此れを之れ條達の道と謂ふ。言通じ事泄るれば、則ち術行はれず。五。明主は、其の務め周密に在り。是を以て喜見はるれば則ち德償はれ、怒見はるれば則ち威分かる。
-
『韓非子』八經第四十八民制を以て上を畏るるに、上勢を以て下に卑し、故に下肆很觸して君を輕んずるの俗を榮とす、則ち主威分かる。民法を以て上を犯すを難しとするに、上法を以て慈仁に撓む、故に下愛施を明らかにして賕納の政を務む、是を以て法令隳る。私行を尊びて以て主威を貳にし、賕納を行ひて以て法を疑はしむ、之を聽けば則ち治を亂し、聽かざれば則ち主を謗る、故に君位に輕く法官に亂る、此れを之れ無常の國と謂ふ。明主の道は、臣行義を以て榮を成すを得ず、家利を以て功と爲すを得ず。功名の生ずる所は、必ず官法に出づ。法の外なる所は、難行有りと雖も、以て顯はさず、故に民以て名を私する無し。法度を設けて以て民を齊しくし、賞罰を信にして以て民能を盡くし、誹譽を明らかにして以て勸沮す。名號・賞罰・法令の三隅なり。故に大臣行有れば則ち君を尊び、百姓功有れば則ち上を利す、此れを之れ有道の國と謂ふなり。