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価原 / 『価原』雨宿りの木陰と本業の願い

タトヒ惡年ニアフトモミダリニ本業ヲバ失フマジ本業ヲ失ハザレバ價ニ貴賤ナキコト能ハズトモ又格別ノコトモアラジ是故ニ國家ノ乏シキト云者ハ金銀通利ノ快キニ布粟ヲツムノ人ナケレバナリ布粟ヲ積ム人ナキ者ハ金銀ヲ借ル人多クシテ金銀ノ利布粟ニ倍スレバナリ利布粟ニ倍シテ運輸畜藏布粟ヨリ便リナリタトヒ嚴刑ヲ以テコレニ臨ムトモコノ勢ニアタルベカラズ今ノ世ノ態ヲミルニ庸作ヲハジメ其他ノ營ニツケテモ多クハ皆其人ノ本業ニアラズ困苦ノ爲ニ金銀ニセメラレテ己コトヲ得ズシテ姑クココニ雨ヤドリヲシ雨ノ晴間ヲ待ツナリ空少ク晴レ行ケバヤガテフルベキ空トテモイカデ久シク其木陰ニハ留ルベキサル程ニ少シク衣食ニ休息アレバ女子ハ嫁シ男子ハ本業ヲ求メ其務メニ服センコトヲ願フナリ

新字:タトヒ悪年ニアフトモミダリニ本業ヲバ失フマジ本業ヲ失ハザレバ価ニ貴賤ナキコト能ハズトモ又格別ノコトモアラジ是故ニ国家ノ乏シキト云者ハ金銀通利ノ快キニ布粟ヲツムノ人ナケレバナリ布粟ヲ積ム人ナキ者ハ金銀ヲ借ル人多クシテ金銀ノ利布粟ニ倍スレバナリ利布粟ニ倍シテ運輸畜蔵布粟ヨリ便リナリタトヒ厳刑ヲ以テコレニ臨ムトモコノ勢ニアタルベカラズ今ノ世ノ態ヲミルニ庸作ヲハジメ其他ノ営ニツケテモ多クハ皆其人ノ本業ニアラズ困苦ノ為ニ金銀ニセメラレテ己コトヲ得ズシテ姑クココニ雨ヤドリヲシ雨ノ晴間ヲ待ツナリ空少ク晴レ行ケバヤガテフルベキ空トテモイカデ久シク其木陰ニハ留ルベキサル程ニ少シク衣食ニ休息アレバ女子ハ嫁シ男子ハ本業ヲ求メ其務メニ服センコトヲ願フナリ

書き下し

たとい悪年にあうとも、みだりに本業をば失うまじ。本業を失わざれば、価に貴賤なきこと能わずとも、また格別のこともあらじ。この故に国家の乏しきという者は、金銀通利の快きに、布粟を積むの人なければなり。布粟を積む人なき者は、金銀を借る人多くして、金銀の利、布粟に倍すればなり。利、布粟に倍して、運輸畜蔵、布粟より便りなり。たとい厳刑をもってこれに臨むとも、この勢いに当たるべからず。今の世の態を見るに、庸作をはじめ、その他の営みにつけても、多くはみなその人の本業にあらず。困苦のため金銀に責められて、已むことを得ずして、しばらくここに雨宿りをし、雨の晴間を待つなり。空少なく晴れ行けば、やがて降るべき空とても、いかでか久しくその木陰には留まるべき。さる程に少しく衣食に休息あれば、女子は嫁し、男子は本業を求め、その務めに服せんことを願うなり。

現代語訳

たとえ悪い年に遭っても、むやみに本業を失ってはならない。本業を失わなければ、価格に高低がないわけにはいかなくても、特別なことにもならないであろう。このため、国家が乏しいというのは、金銀の流通の快さのなかで、布や粟を積む人がいないからである。布や粟を積む人がいないのは、金銀を借りる人が多く、金銀の利が布や粟の利を倍するからである。利が布や粟に倍し、運搬も貯蔵も、布や粟より便利になっている。たとえ厳しい刑罰で臨んでも、この勢いにはかなわない。今の世の様子を見ると、日雇いをはじめ、その他の営みも、多くは皆その人の本業ではない。困窮のために金銀に責められ、やむを得ずしばらくここで雨宿りをして、雨の晴れ間を待っているのである。空が少し晴れてくれば、いずれまた降り出しそうな空であっても、どうして長くその木陰にとどまっていようか。そのうちに衣食に少し息がつけるようになれば、女子は嫁ぎ、男子は本業を求め、その務めに就くことを願うのである。

解説

梅園は、たとえ不作の年に遭っても本業を手放さないことが大切だと述べ、国が乏しいのは金銀の便利さのなかで布や粟を積む人がいなくなったからだと見ます。そして日雇いなど今の営みの多くは、困窮のため仕方なく選んだ「雨宿り」で、衣食に少し余裕ができれば皆が本業に戻りたがると、人々の本心に寄り添います。現代の転職や副業の場面でも、一時の選択を責めず、安定した足場ができれば本来の仕事へ向かう気持ちが戻る、という見方は、人を支える際の参考になるでしょう。
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人生を、一行の式にしてみた。

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この章句が説くこと

本業雨宿り庸作金銀の利布粟を積む困窮

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