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囲炉夜話 / 第百三十八則・大任に當たる者は其の心良に苦し

世之言樂者,但曰讀書樂、田家樂。可知務本業者,其境常安。 古之言憂者,必曰天下憂、廊廟憂。可知當大任者,其心良苦。

新字:世之言楽者,但曰読書楽、田家楽。可知務本業者,其境常安。 古之言憂者,必曰天下憂、廊廟憂。可知当大任者,其心良苦。

書き下し

世の樂しみを言ふ者は、但だ讀書の樂しみ、田家の樂しみと曰ふ。本業を務むる者は、其の境常に安きことを知るべし。 古の憂ひを言ふ者は、必ず天下の憂ひ、廊廟の憂ひと曰ふ。大任に當たる者は、其の心良に苦しきことを知るべし。

現代語訳

世に楽しみを語る人は、ただ読書の楽しみ、農家の楽しみと言います。ここから、本業に励む者は、その境遇がいつも安らかであるとわかります。昔、憂いを語った人は、必ず天下の憂い、朝廷の憂いと言いました。ここから、大任にあたる者は、その心がまことに苦しいものだとわかります。

解説

楽しみと憂いの語られ方から、本業に励む者の安らぎと、大任を負う者の苦しみを読み取った則です。世の人が挙げる楽しみは読書と田園の暮らしで、どちらも自分の本業を務める中にあります。だから本業に励む人の境遇は安らかだと言います。一方、昔の人が挙げた憂いは天下や廊廟、つまり朝廷の憂いで、范仲淹の岳陽楼記の、天下の憂いに先んじて憂う、という言葉が思い出されます。前半は小さな持ち場の安らぎ、後半は大きな責任の重さで、立場の大きさと心の苦しさが比例するという対比になっています。今日でも、自分の仕事に打ち込める人には静かな充実がありますが、組織や社会を背負う人は、人知れぬ憂いを抱えているものです。上に立つ人の苦労を思いやる目を持ちたくなります。

この章句が説くこと

読書本業責任憂患処世

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