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価原 / 『価原』豊年の余りを蓄える理

誠ニ一得一失ノ理ニテ昔金銀少カリシ世ハ諸貨ノ通利アシカリシカバコレヲ運ビ盡サズシテ凶饑諸災ノ備モ有キ今金銀多ク諸貨ノ通利自由ニナリシカバコレヲ都會ニ運ビ盡シテ舊穀新穀ニ及ブコト能ハズ故ニ今控掣ノ權ヲトル者ハ有金ノ家之ヲ斂聚スレバ上下財盡ク竭クコレヲ以テ名ハ諸侯米粟ヲ有スル者ニシテ其實ハ富商ニ幷セラレテ纔ノ臣民ヲ扶助スルニ難ズ米粟ハモトヨリ滿易キ者ニシテモシ一年豐熟スル時ハ穀ハ食料ニ贏ルモノナリ贏ル所ヲ畜レバ凶年ニ備フベシ是ヲ賣リ盡スニ至リテハ豐年ノ後ノ年凶年ノ後ノ年ニ異ナルコトナシ是天下ノ良民金銀ノ爲ニ游手ノ奴隷トナル所ナリ

新字:誠ニ一得一失ノ理ニテ昔金銀少カリシ世ハ諸貨ノ通利アシカリシカバコレヲ運ビ尽サズシテ凶饑諸災ノ備モ有キ今金銀多ク諸貨ノ通利自由ニナリシカバコレヲ都会ニ運ビ尽シテ旧穀新穀ニ及ブコト能ハズ故ニ今控掣ノ権ヲトル者ハ有金ノ家之ヲ斂聚スレバ上下財尽ク竭クコレヲ以テ名ハ諸侯米粟ヲ有スル者ニシテ其実ハ富商ニ幷セラレテ纔ノ臣民ヲ扶助スルニ難ズ米粟ハモトヨリ満易キ者ニシテモシ一年豊熟スル時ハ穀ハ食料ニ贏ルモノナリ贏ル所ヲ畜レバ凶年ニ備フベシ是ヲ売リ尽スニ至リテハ豊年ノ後ノ年凶年ノ後ノ年ニ異ナルコトナシ是天下ノ良民金銀ノ為ニ游手ノ奴隷トナル所ナリ

書き下し

誠に一得一失の理にて、昔金銀少なかりし世は諸貨の通利悪しかりしかば、これを運び尽くさずして、凶饑諸災の備えもありき。今金銀多く諸貨の通利自由になりしかば、これを都会に運び尽くして、旧穀新穀に及ぶこと能わず。ゆえに今、控掣の権を取る者は、有金の家これを斂聚すれば、上下財ことごとく竭く。これをもって名は諸侯、米粟を有する者にして、その実は富商に併せられて、わずかの臣民を扶助するに難ず。米粟はもとより満ち易き者にして、もし一年豊熟する時は、穀は食料に贏るものなり。贏る所を蓄えれば、凶年に備うべし。これを売り尽くすに至りては、豊年の後の年、凶年の後の年に異なることなし。これ天下の良民、金銀のために游手の奴隷となる所なり。

現代語訳

まことに一得一失の理であって、昔、金銀が少なかった世では、諸々の品物の流通が不便だったため、品物を運び尽くすことなく、凶作・飢饉・諸々の災いへの備えもあった。今は金銀が多く、品物の流通も自由になったので、都会へ運び尽くして、古い穀物や新しい穀物を蓄えるまでには及ばない。そのため今、物を引き寄せ抑える権を握るのは金を持つ家であり、これが集めれば、上も下も財がことごとく尽きる。こうして名目は諸侯で米や粟を持つ者でも、実は富商に併呑され、わずかな家臣や民を扶け養うことさえ難しい。米や粟はもともと満ちやすいもので、一年豊作であれば、穀物は食料を上回って余る。その余りを蓄えれば、凶年に備えられる。それを売り尽くしてしまっては、豊年の翌年も凶年の翌年と変わらない。これこそ、天下の良民が金銀のために遊び人の奴隷となる所以である。

解説

梅園は、金銀が少なく流通が不便だった昔には、かえって物が都会へ運び尽くされず、凶作への備えが残っていたと見ます。金銀が増え流通が自由になった今は、穀物が売り尽くされ、豊年の翌年も凶年の翌年と変わらなくなってしまう。余った米を蓄えるという、当たり前の知恵に立ち返ることを勧めています。現代でも、好調な年の利益を全部使い切らず、不調の年に備えて内部留保や人材育成へ回す経営は、同じ考え方といえるでしょう。余りを残すことが、次の年の安心を生みます。
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この章句が説くこと

一得一失金銀の流通豊年の余り蓄え富商良民

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