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家道訓 / 巻之六・用財下

一ひろき家に居ては、むかしの穴に住み野に居りし時と、今のまどしき人の、はにふの小屋のいぶせきをおもひやりて樂しむべし。穀肉を食しては、むかしの人の、木の葉草の根を食とせしと、今の餓になやめる人をあはれむべし。きぬを著てあたゝかにしては、むかしの木の葉をつゞりて著たると、今の衣なくしてこゞゆる者をあはれむべし。わがめしつかふ奴婢あらば、貧しき人の水くみ、みづからかしぐ苦を思ふべし。かくの如くならば、樂多くして、上をねがふ外の求めなかるべし。

新字:一ひろき家に居ては、むかしの穴に住み野に居りし時と、今のまどしき人の、はにふの小屋のいぶせきをおもひやりて楽しむべし。穀肉を食しては、むかしの人の、木の葉草の根を食とせしと、今の餓になやめる人をあはれむべし。きぬを著てあたゝかにしては、むかしの木の葉をつゞりて著たると、今の衣なくしてこゞゆる者をあはれむべし。わがめしつかふ奴婢あらば、貧しき人の水くみ、みづからかしぐ苦を思ふべし。かくの如くならば、楽多くして、上をねがふ外の求めなかるべし。

書き下し

一ひろき家に居ては、むかしの穴に住み野に居りし時と、今のまどしき人の、はにふの小屋のいぶせきをおもひやりて楽しむべし。穀肉を食しては、むかしの人の、木の葉草の根を食とせしと、今の餓になやめる人をあはれむべし。きぬを著てあたたかにしては、むかしの木の葉をつづりて著たると、今の衣なくしてこごゆる者をあはれむべし。わがめしつかふ奴婢あらば、貧しき人の水くみ、みづからかしぐ苦を思ふべし。かくの如くならば、楽多くして、上をねがふ外の求めなかるべし。

現代語訳

広い家に住んでは、昔の人が穴に住み野に寝ていた時と、今の貧しい人の粗末な小屋のむさくるしさを思いやって楽しみなさい。穀物や肉を食べては、昔の人が木の葉や草の根を食べていたことと、今の飢えに苦しむ人を哀れみなさい。着物を着て暖かくしては、昔の人が木の葉をつづって着ていたことと、今の着る物がなく凍える者を哀れみなさい。自分に召し使う者がいるなら、貧しい人が水を汲み、自分で飯を炊く苦労を思いなさい。このようであれば楽しみが多く、上を願う以外の求めもなくなるでしょう。

解説

今ある暮らしのありがたさを、昔の人や今の貧しい人と比べて味わえという条です。住まい、食べ物、着物、手伝う人と、身近な順に一つずつ思いを巡らせる書き方が印象的です。上を見て不足を嘆くのではなく、下を思って足るを知ることで楽しみが増すという考えは、益軒が晩年に著した楽訓にも通じる幸福観です。同時に、貧しい人を哀れむ心を忘れるなという戒めも含んでいます。当たり前の暮らしに感謝することは、今の心の健康を保つ工夫にもなります。

この章句が説くこと

楽しみ感謝足る思いやり質素

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