家道訓 / 巻之五・用財中
一家をよく保つとよく保たざるとは、夫の德不德のみにあらず、又妻の行の善惡によれり。古人、家貧しうして良妻を思ふといひけんもむべなり。夫は外ををさめ、妻は内ををさむるが職分なり。夫よく勤儉なれども、妻もし放逸におこたりてつとめず、驕りて儉約ならざれば、家をたもちがたし。殊に貧賤なり。家はひとへに妻のちからによつて盛えおとろふ。夫はつねに内に居ずして、妻のしわざを知らず、只妻にまかせ置きぬ。しかるに妻不德なれば、財を失ひて必家をやぶる。故に上士以下、庶人の家をほろぼすは、多くは妻のとがなり。いましむべし。妻の德はつゝしみておごらず、夫と姑にうけしたがひてわがまゝならず、もはら家事に心を用ひて身をへりくだり、女工をよくつとめておこたらざる、是婦人の德なり。かくのごとくにしてよく家をたもつべし。夫となれる者は愛におぼれず、必ず婦に敎へて家を治めしむべし。
新字:一家をよく保つとよく保たざるとは、夫の徳不徳のみにあらず、又妻の行の善悪によれり。古人、家貧しうして良妻を思ふといひけんもむべなり。夫は外ををさめ、妻は内ををさむるが職分なり。夫よく勤倹なれども、妻もし放逸におこたりてつとめず、驕りて倹約ならざれば、家をたもちがたし。殊に貧賤なり。家はひとへに妻のちからによつて盛えおとろふ。夫はつねに内に居ずして、妻のしわざを知らず、只妻にまかせ置きぬ。しかるに妻不徳なれば、財を失ひて必家をやぶる。故に上士以下、庶人の家をほろぼすは、多くは妻のとがなり。いましむべし。妻の徳はつゝしみておごらず、夫と姑にうけしたがひてわがまゝならず、もはら家事に心を用ひて身をへりくだり、女工をよくつとめておこたらざる、是婦人の徳なり。かくのごとくにしてよく家をたもつべし。夫となれる者は愛におぼれず、必ず婦に教へて家を治めしむべし。
書き下し
一家をよく保つとよく保たざるとは、夫の徳不徳のみにあらず、又妻の行の善悪によれり。古人、家貧しうして良妻を思ふといひけんもむべなり。夫は外ををさめ、妻は内ををさむるが職分なり。夫よく勤倹なれども、妻もし放逸におこたりてつとめず、驕りて倹約ならざれば、家をたもちがたし。殊に貧賤なり。家はひとへに妻のちからによつて盛えおとろふ。夫はつねに内に居ずして、妻のしわざを知らず、只妻にまかせ置きぬ。しかるに妻不徳なれば、財を失ひて必家をやぶる。故に上士以下、庶人の家をほろぼすは、多くは妻のとがなり。いましむべし。妻の徳はつつしみておごらず、夫と姑にうけしたがひてわがままならず、もはら家事に心を用ひて身をへりくだり、女工をよくつとめておこたらざる、是婦人の徳なり。かくのごとくにしてよく家をたもつべし。夫となれる者は愛におぼれず、必ず婦に教へて家を治めしむべし。
現代語訳
家をよく保つか保てないかは、夫の徳と不徳だけでなく、妻の行いの善し悪しにもよります。昔の人が「家が貧しいときには良い妻を思う」と言ったのももっともです。夫は外を治め、妻は内を治めるのが役目です。夫がよく勤勉で倹約でも、妻がもし気ままに怠けて勤めず、驕って倹約しなければ、家は保ちがたいのです。とくに貧しい身分の家ではそうです。家はひとえに妻の力によって栄えたり衰えたりします。夫はいつも家の内にいないので、妻のすることを知らず、ただ妻に任せておきます。それなのに妻が不徳であれば、財を失って必ず家を滅ぼします。ですから上士以下、庶民の家が滅びるのは、多くは妻の過ちです。戒めなさい。妻の徳とは、慎んで驕らず、夫と姑に従ってわがままをせず、もっぱら家事に心を用いてへりくだり、女の仕事をよく勤めて怠らないことです。これが婦人の徳です。このようにしてよく家を保ちなさい。夫となった者は、愛におぼれず、必ず妻を教えて家を治めさせなさい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『家道訓』巻之五・用財中一我が家をたもつ道に、富貴の人もみづから心を用ひ、微細のこともよくはかり知りてつづまやかに行ふべし。むかしの人は、大名高家も、家事をみづからつとめ、微細のことにもよく心を用ひて、おろそかならざりしゆゑ、貧困に至らざるのみならず、余財多かりしなり。今の人大家にあらざれども、我が家事をむづかしとて、財用をみづからはからず、入ることも出すことも多少を知らず。只家のやつこにまかせてみづから知らざれば、家の計おろそかにして、分外の費多く、且やつこにかすめ取らるること多し。如此なれば、家産足らずして終に貧困にいたる。小身の人にもかやうの家事におろそかなるもの多し。一生貧窮にくるしむといへども、我が家計にうとくおろそかなる故なることを知らず。只世の成行あしきと、我が不幸とのみ思へるはあやまりなり。我が身困窮にくるしむのみならず、人の妨となり、はては子孫の災となる。かなしむべし。
-
『家道訓』巻之五・用財中一家ををさむるは、国ををさむるに同じ。財を用ひ人を用ふ、此二事をつつしむべし。質実にして盗まざるやつこをえらびてつかひ、財をつかさどらしむべし。財をつかさどるやつこかだましければ、我が利慾のみいとなみて、主君をあざむきて主人の家をやぶる。財を用ふると人を用ふるとの二は、家ををさむるの要なり。心を用ふべし。一およそ、人家の必ず貧しくなる事、天の禍にもあらず、人の不徳によれり。まづ後のうれひをおもんぱからずして、堪忍の心なく、只今の口腹耳目の欲をほしいままにし、倹約をきらひ、分限よりおごりてつひえをいとはず、このんで人の財を借り、おひめ多けれどもうれへず、買へる物のあたひをつぐのはず。それを乞ひもとむれば、いかりていよいよあたへず。
-
『和俗童子訓』巻之五・教女子法唯人間の勤をもはらになすべし。目に見えぬ鬼神の方に、心を迷はすべからず。九曰、人の妻となりては、其家を能く保つべし。妻の行悪しく放逸なれば、家を破る。財を用ふるに、倹約にして費をなすべからず。おごりを戒むべし。衣服、飲食、器物など、其分に随ひて、あひ似合ひたるを用ふべし。みだりに飾をなし、分限に過ぎたるを好むべからず。妻おごりて財を費せば、其家かならず貧窮に苦めり。夫たるもの、是に打任せて、其是非を察せざるは、愚なりと云ふべし。十曰、若き時は、夫の兄弟親戚朋友、或は下部などの若き男来らんに、なづさひて近づきまつはれ、打とけ物語すべからず。慎みて男女の隔を固くすべし。如何なるとみの用あるとも、若き男にふみなどかよはする事は、必あるべからず。
-
『和俗童子訓』巻之五・教女子法一女は人につかふるものなれば、父の家富貴なりとても、夫の家に行きては、其親の家に在りし時より、身をひきくして、舅姑にへりくだり、慎み仕へて、朝夕のつとめ怠るべからず。舅姑のために衣を縫ひ、食を調へ、我が家にては、夫に仕へて高ぶらず、自ら衣をたたみ、席をはき、食を調へ、うみ、つむぎ、縫物し、子を育て、けがれを洗ひ、婢多くとも、万の事に自ら辛労をこらへて勤むる、是婦人の職分なれば、我が位と身に応ぜぬほど、引きさがり勤むべし。斯のごとくすれば、しうと夫の心に叶ひ、家人の心を得て、能く家を保つ。又我が身に高ぶりて人をさし使ひ、勤むべき事に怠りて、身を安楽に置くは、しうとに憎まれ、下人に謗られて、人の心を失ひ、其家を能く治むる事なし。
-
『家道訓』巻之二・総論中一婦人女子の、しばしば外に出でて礼節をつとめ、遊観をこのむはいまいまし。婦人は内に居て、家を治むるを職とす。外に出づることしげきはよろしからず。親戚の間も、只使を以て音信を通ずべし。一婦女は、うまれつき陰柔にして智なく、多くは姦邪なり。正道にしたがひがたし。奴僕はならはし卑しくして、義理にうつりがたし。ともに愚にして道をさとしがたし。故に道理を以て、其過を一々にたださんとせば、うらみそむき、不順にして家道和睦しがたかるべし。只つねに家法を正しくし、礼を以て相対せば、おのづからひが事すくなかるべし。
-
『家道訓』巻之四・用財上一家ををさむる主人は、日夜家事をよくつとめて怠らず、おろそかならず、財を用ふるにおごらずつひやさず、もはら倹約を行ふべし。勤と倹との二は、家ををさむる要道なり。此の二の道行はるれば貧窮にいたらず、我が用に乏しからず。勤と倹と二の道を行ふに、心を小にしておろそかならざるをよしとす。是勤倹を行ふ心法なり。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る