和俗童子訓 / 巻之五・教女子法
唯人間の勤をもはらになすべし。目に見えぬ鬼神の方に、心を迷はすべからず。九曰、人の妻となりては、其家を能く保つべし。妻の行惡しく放逸なれば、家を破る。財を用ふるに、儉約にして費をなすべからず。おごりを戒むべし。衣服、飮食、器物など、其分に隨ひて、あひ似合ひたるを用ふべし。みだりに飾をなし、分限に過ぎたるを好むべからず。妻おごりて財を費せば、其家かならず貧窮に苦めり。夫たるもの、是に打任せて、其是非を察せざるは、愚なりと云ふべし。十曰、若き時は、夫の兄弟親戚朋友、或は下部などの若き男來らんに、なづさひて近づきまつはれ、打とけ物語すべからず。愼みて男女の隔を固くすべし。如何なるとみの用あるとも、若き男にふみなどかよはする事は、必あるべからず。
新字:唯人間の勤をもはらになすべし。目に見えぬ鬼神の方に、心を迷はすべからず。九曰、人の妻となりては、其家を能く保つべし。妻の行悪しく放逸なれば、家を破る。財を用ふるに、倹約にして費をなすべからず。おごりを戒むべし。衣服、飲食、器物など、其分に随ひて、あひ似合ひたるを用ふべし。みだりに飾をなし、分限に過ぎたるを好むべからず。妻おごりて財を費せば、其家かならず貧窮に苦めり。夫たるもの、是に打任せて、其是非を察せざるは、愚なりと云ふべし。十曰、若き時は、夫の兄弟親戚朋友、或は下部などの若き男来らんに、なづさひて近づきまつはれ、打とけ物語すべからず。慎みて男女の隔を固くすべし。如何なるとみの用あるとも、若き男にふみなどかよはする事は、必あるべからず。
書き下し
唯人間の勤をもはらになすべし。目に見えぬ鬼神の方に、心を迷はすべからず。九曰、人の妻となりては、其家を能く保つべし。妻の行悪しく放逸なれば、家を破る。財を用ふるに、倹約にして費をなすべからず。おごりを戒むべし。衣服、飲食、器物など、其分に随ひて、あひ似合ひたるを用ふべし。みだりに飾をなし、分限に過ぎたるを好むべからず。妻おごりて財を費せば、其家かならず貧窮に苦めり。夫たるもの、是に打任せて、其是非を察せざるは、愚なりと云ふべし。十曰、若き時は、夫の兄弟親戚朋友、或は下部などの若き男来らんに、なづさひて近づきまつはれ、打とけ物語すべからず。慎みて男女の隔を固くすべし。如何なるとみの用あるとも、若き男にふみなどかよはする事は、必あるべからず。
現代語訳
ただ人間としての勤めをもっぱら行いなさい。目に見えない鬼神の方に心を迷わせてはなりません。九に言う。人の妻となったら、その家をよく保ちなさい。妻の行いが悪く放逸であれば、家を破ります。財を用いるのに倹約にして、むだな費えをしてはなりません。驕りを戒めなさい。衣服・飲食・器物などは、その分に従って、ふさわしいものを用いなさい。むやみに飾りをし、分限を超えたものを好んではなりません。妻が驕って財を費やせば、その家は必ず貧窮に苦しみます。夫である者が、これを妻任せにして、その是非を見極めないのは、愚かと言うべきです。十に言う。若い時は、夫の兄弟・親戚・友人、あるいは召使いなどの若い男が来ても、なれなれしく近づきまとわりついて、打ち解けて話し込んではなりません。慎んで男女の隔てを固くしなさい。どのような急な用があっても、若い男に手紙などを通わせることは、決してあってはなりません。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一およそ此十三ヶ条を、女子のいまだ嫁せざる前に、能く教ふべし。又書きつけて与へ、をりをり読ましめ、忘るることなく、これを守らしむべし。凡世の人の女子を嫁せしむるに、必、其家の分限に過ぎて、甚おごり、花美をなし、多くの財を費し用ひ、衣服器物などを、いくらも買ひととのへ、其余の饗応贈答のつひえも亦夥し、これ世の習はしなり。されど女子をいましめ教へて、其身を慎み治めしむること、衣服器物をかざれるより、女子のため甚利益ある事を知らず、幼き時より嫁して後に至るまで、何の教もなくて、唯其生れつきに任せぬれば、身を慎み家を治る道を知らず、夫の家に行きて、おごり怠り、しうと夫に順はずして、人に疎まれ、夫婦和順ならず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法一女は人につかふるものなれば、父の家富貴なりとても、夫の家に行きては、其親の家に在りし時より、身をひきくして、舅姑にへりくだり、慎み仕へて、朝夕のつとめ怠るべからず。舅姑のために衣を縫ひ、食を調へ、我が家にては、夫に仕へて高ぶらず、自ら衣をたたみ、席をはき、食を調へ、うみ、つむぎ、縫物し、子を育て、けがれを洗ひ、婢多くとも、万の事に自ら辛労をこらへて勤むる、是婦人の職分なれば、我が位と身に応ぜぬほど、引きさがり勤むべし。斯のごとくすれば、しうと夫の心に叶ひ、家人の心を得て、能く家を保つ。又我が身に高ぶりて人をさし使ひ、勤むべき事に怠りて、身を安楽に置くは、しうとに憎まれ、下人に謗られて、人の心を失ひ、其家を能く治むる事なし。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法六曰、言を慎みて多くすべからず。仮にも人をそしり、偽を言ふべからず。人の謗を聞くことあらば、心にをさめて、人に伝へ語るべからず。謗を言ひ伝ふるより、父子、兄弟、夫婦、一家の間も不和になり、家内治まらず。七曰、女は常に心遣ひして、其身をかたく慎み守るべし。夙におき夜半にいね、昼はいねずして家事に心を用ひ、怠なく勤めて、家を治め、織り、縫ひ、うみ、つむぎ怠るべからず。又酒茶など多く好みて、癖とすべからず。淫声を聞くことを好みて、淫楽を習ふべからず。是女子の心をとらかすもの也。たはぶれ遊を好むべからず。宮寺などすべて人の多く遊ぶ所に、四十歳より内は、妄に行くべからず。八曰、巫覡などのわざにまよひて、神仏を穢し近づき、みだりに祈り諂ふべからず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法下部を閨門の内に入るべからず。凡男女の隔、軽々しからず、身を堅く慎むべし。十一曰、身のかざりも、衣服の染色模様も、目に立たざるをよしとす。身と衣服との、穢れずしてきよげなるはよし。衣服と身のかざりに、すぐれてきよらを好み、人の目に立つ程なるはあしし。衣服の模様は、其年よりはくすみておいらかなるが、尋常にしてらうたく見ゆ。すぐれてはなやかに、大なる模様は、目にたちて賤し。我が家の分限に過ぎて、衣服にきよらを好み、身をかざるべからず。唯我が身にかなひ似合ひたる衣服を著るべし。心は身の主なり、尊ぶべし。衣服は身の外にあるものなり、軽し。衣服をかざりて人にほこるは、衣服より尊ぶべき其心を失へるなり。凡人は其心ざま、身の振舞をこそ、潔くせまほしけれ。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法慎んで讒を信ずべからず。甚恐るべし。又賤しき者を使ふには、我が思ふにかなはぬ事のみ多し。夫を怒りのりて止まざれば、せはしく腹立つ事多く、家の内静ならず。悪しき事は、時々言ひ教へて、誤を正すべし、怒りのるべからず。少しの過は、こらへて怒るべからず。心の内にはあはれみ深くして、外には行儀堅く、いましめて怠らざるやうに使ふべし。いるがせなれば、必行儀乱れ怠りがちにて、礼義を背き、とがを犯すに至る。与へ恵むべき事あらば、財を惜むべからず。但我が気に入りたるとて、忠なきものに、みだりに財物を与ふべからず。
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『和俗童子訓』巻之五・教女子法故に女は常に夫を敬ひ畏れて、慎み事ふべし。夫に賤められ責めらるるは、我が心より出でたる恥なり。三曰、こじうとこじうとめは、夫の兄弟なれば、情深くすべし。又こじうと、こじうとめに謗られ悪まるれば、しうとの心に背きて、我が身の為にもよからず。睦じく和睦すれば、しうとの心にかなふ。然ればこじうとの心も亦失ふべからず。又あひよめを親しみ睦じくすべし。殊に夫の兄嫁はあつく敬ふべし。あひよめは我が姉と同じくすべし。座につくも、道を行くも、へり下り後れて行くべし。四曰、嫉妬の心、ゆめゆめおこすべからず。夫淫行あらば諫むべし、怒り恨むべからず。嫉妬甚しければ、其気色言葉もおそろしく、すさまじくして、かへりて夫に疎まれ、すさめらるるものなり。
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