家道訓 / 巻之三・総論下
是人をつかふ道に、心を用ひざるなり。奴婢も亦、主人の前に出でて、一事をつとめ終らば、又何事ぞあらばつとめんと思ひ、用なくとも、まづそこについゐて、主人の命をうかゞひ、しばし待ちて後用なくんば、立ちてしりぞくべし。
書き下し
是人をつかふ道に、心を用ひざるなり。奴婢も亦、主人の前に出でて、一事をつとめ終らば、又何事ぞあらばつとめんと思ひ、用なくとも、まづそこについゐて、主人の命をうかがひ、しばし待ちて後用なくんば、立ちてしりぞくべし。
現代語訳
これは人を使う道に心を用いていないのです。召使いもまた、主人の前に出て一つの事を務め終えたら、また何事かあれば務めようと思い、用がなくても、まずそこに控えて主人の命をうかがい、しばらく待ってから用がなければ、立って退くべきです。
解説
前の条を受けて、何度も呼び出すのは人を使う道に心を用いていない証拠だと言い、今度は使われる側の心得を述べます。用事を一つ済ませたらすぐ下がるのではなく、ほかに用はないかとしばらく控えて主人の意向をうかがい、なければ退けというのです。主人の側には段取りを、使用人の側には気配りを求めていて、双方の歩み寄りで無駄が減るという発想です。上司に報告した後で「ほかに何かありますか」と一言添えるような、今の仕事の作法にもそのまま通じます。
この章句が説くこと
使用人気配り段取り仕事主従
関連する章句
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『家道訓』巻之一・総論上一凡家人をつかふには、人の心をおしはかり、うれひくるしみを知りて、人のくるしみなきやうにほどこすべし。奴婢は、主人を頼んで身をやしなふ者なり。心を用ひて情あるべし。刻薄にして情なく、彼をくるしむべからず。およそ人をつかふ者は、下人のうれひくるしみを能く思ひはかりて、かんがへ知るべし。
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『家道訓』巻之三・総論下一居る処の室の内にある器物衣服調度をば、年老いたりとも、猶も立居くるしからずば、十たびの内五六度は、みづから立ちて用事をととのふべし。奴婢を用ふべからず。是まづわが身をうごかし労して、生を養ふ道なり。其の上、奴婢も亦しばしば立ちうごかず、労せずしてよし。富貴にして奴婢多くともかくの如くすべし。況や貧家ならば、おほからぬ奴婢を、しばしばよびて労せしめんより、みづから立ちて、心のままに事を調ふるが、心のなやみなくして快し。又奴婢をよんで、一事を言ひつけなさしめば、其の時になほつかふべき事あらば、思ひ出して、退かざる内に、其のついでを以て、二も三も事をなさしむべし。奴婢の我が前にある時は、心を用ひずしてあだに過し、なさしむべき事を言ひつけずして、退きて後おもひ出し、しばしばよんで事を命ずれば、我が身も奴婢も、事しげくいたつがはしくしてひまなし。
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『家道訓』巻之一・総論上一凡、家の主として家ををさむる人は、まづ、父母によくつかふるを第一のつとめとし、次に妻をみちびき、子弟ををしふるを以て要とし、其の次に、下部をつかふに、心を用ひて礼法を正しくすべし。くるしめ侮りて虐ぐべからず。
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『家道訓』巻之三・総論下一家ををさむるにも、下情上に通ずるをよしとす。下情上に通ずとは、下つかたの人のうれひくるしみ、善悪曲直のありさまを聞きて、明かに知るを云ふ。下たる者のうれひくるしみ、よきあしきを知らざるは、愚なり。一権勢ある家の賓客を司るやつこは、必ず主人の権勢にほこり、無礼にして賓客をあなどる。主人より時々心をつけて無礼を戒むべし。其やつこにまかせおくべからず。やつこの無礼なるは責むるに足らず。只其主人をそしる。主人是を知らざるべけんや。一人のいましめは防のごとし。大水をふせがんため、かねて日でりの時つつみを築きおけば、洪水のわざはひなし。人もかねての防ぎなければ、うれひの来ることはかりがたし。人家の内、年わかき子弟婦女奴婢のともがらは、いまだ悪事出来らざる時、かねて礼法を正しく、内外上下のへだてありて、家法をきびしくすべし。
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『家道訓』巻之二・総論中一家を治むるに、奴婢最をさめがたし。これをつかふに尤道あるべし。遠ざけてきびしければうらみそむく。近づけているかせなればおごり怠る。恩愛を以てなつけ、礼法を以て正すべし。如此すれば、うらみなくおごりなし。仁愛と礼法と、二の者ならび行ふべし。
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『家道訓』巻之二・総論中一もし悪性なるしもべありて、不忠をなさば、うちたたき責めはたるべからず。事なくして、はやく追ひ出すべし。一子孫のあらそひを慮りて、年いまだ老いざるに、はやく書置をする人あり。又書置をいつはりて作り出す者あり。是亦遠慮すべし。人の父祖となる者は、死後まで子孫のためを思慮すべし。
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