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家道訓 / 巻之三・総論下

一居る處の室の内にある器物衣服調度をば、年老いたりとも、猶も立居くるしからずば、十たびの内五六度は、みづから立ちて用事をとゝのふべし。奴婢を用ふべからず。是まづわが身をうごかし勞して、生を養ふ道なり。其の上、奴婢も亦しばしば立ちうごかず、勞せずしてよし。富貴にして奴婢多くともかくの如くすべし。況や貧家ならば、おほからぬ奴婢を、しばしばよびて勞せしめんより、みづから立ちて、心のまゝに事を調ふるが、心のなやみなくして快し。又奴婢をよんで、一事を言ひつけなさしめば、其の時になほつかふべき事あらば、思ひ出して、退かざる内に、其のついでを以て、二も三も事をなさしむべし。奴婢の我が前にある時は、心を用ひずしてあだに過し、なさしむべき事を言ひつけずして、退きて後おもひ出し、しばしばよんで事を命ずれば、我が身も奴婢も、事しげくいたつがはしくしてひまなし。

新字:一居る処の室の内にある器物衣服調度をば、年老いたりとも、猶も立居くるしからずば、十たびの内五六度は、みづから立ちて用事をとゝのふべし。奴婢を用ふべからず。是まづわが身をうごかし労して、生を養ふ道なり。其の上、奴婢も亦しばしば立ちうごかず、労せずしてよし。富貴にして奴婢多くともかくの如くすべし。況や貧家ならば、おほからぬ奴婢を、しばしばよびて労せしめんより、みづから立ちて、心のまゝに事を調ふるが、心のなやみなくして快し。又奴婢をよんで、一事を言ひつけなさしめば、其の時になほつかふべき事あらば、思ひ出して、退かざる内に、其のついでを以て、二も三も事をなさしむべし。奴婢の我が前にある時は、心を用ひずしてあだに過し、なさしむべき事を言ひつけずして、退きて後おもひ出し、しばしばよんで事を命ずれば、我が身も奴婢も、事しげくいたつがはしくしてひまなし。

書き下し

一居る処の室の内にある器物衣服調度をば、年老いたりとも、猶も立居くるしからずば、十たびの内五六度は、みづから立ちて用事をととのふべし。奴婢を用ふべからず。是まづわが身をうごかし労して、生を養ふ道なり。其の上、奴婢も亦しばしば立ちうごかず、労せずしてよし。富貴にして奴婢多くともかくの如くすべし。況や貧家ならば、おほからぬ奴婢を、しばしばよびて労せしめんより、みづから立ちて、心のままに事を調ふるが、心のなやみなくして快し。又奴婢をよんで、一事を言ひつけなさしめば、其の時になほつかふべき事あらば、思ひ出して、退かざる内に、其のついでを以て、二も三も事をなさしむべし。奴婢の我が前にある時は、心を用ひずしてあだに過し、なさしむべき事を言ひつけずして、退きて後おもひ出し、しばしばよんで事を命ずれば、我が身も奴婢も、事しげくいたつがはしくしてひまなし。

現代語訳

いる所の部屋の内にある器物・衣服・調度については、年老いても、なお立ち居が苦しくなければ、十回のうち五、六回は自分で立って用事を整えるべきです。召使いを用いてはいけません。これはまず自分の身を動かし労して、生を養う道です。そのうえ、召使いもたびたび立ち動かずに済み、労しなくてよいのです。富貴で召使いが多くても、このようにすべきです。まして貧しい家ならば、多くない召使いをたびたび呼んで労させるより、自分で立って思いのままに事を整えるほうが、心の悩みがなくて快いのです。また召使いを呼んで一つの事を言いつけてさせるときは、その時にほかに使うべき事があれば、思い出して、下がらないうちに、そのついでに二つも三つも事をさせるべきです。召使いが自分の前にいるときは、心を用いずに無駄に過ごし、させるべき事を言いつけずに、下がった後に思い出してたびたび呼んで事を命じれば、自分の身も召使いも事が多く煩わしくて暇がありません。

解説

年老いても立ち居に不自由がなければ、身の回りの用事は十回に五、六回は自分で立って済ませよと勧めます。体を動かすことが養生になり、使用人の労も減らせるからです。さらに、人に用を頼むときは、そのついでに二つ三つまとめて言いつけよ、何度も呼び出すなという助言は、実に具体的です。養生訓の著者らしい健康法であると同時に、人を使う側の段取りの大切さを説いています。仕事の指示をまとめて出すことで、相手の時間を無駄にしないという心配りは、今の職場にも通じます。

この章句が説くこと

養生使用人段取り労働思いやり

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