家道訓 / 巻之三・総論下
一常に居る處は、陽に向ひ陰に背くべし。如此なれば、日の光明かに、月に向ひ、夏すゞしく冬あたゝかにして、身を養ふに宜し。又居室も庭中もつねに掃除していさぎよくすべし。かくの如くすれば、氣を養ひ心をいさぎよくす。くらくけがらはしければ、心氣の養とならず。又、居る處暗ければ元氣をふさぐ。甚明らか過ぐれば精神を破る。居る處かざりを好めば慾を生ず。
新字:一常に居る処は、陽に向ひ陰に背くべし。如此なれば、日の光明かに、月に向ひ、夏すゞしく冬あたゝかにして、身を養ふに宜し。又居室も庭中もつねに掃除していさぎよくすべし。かくの如くすれば、気を養ひ心をいさぎよくす。くらくけがらはしければ、心気の養とならず。又、居る処暗ければ元気をふさぐ。甚明らか過ぐれば精神を破る。居る処かざりを好めば慾を生ず。
書き下し
一常に居る処は、陽に向ひ陰に背くべし。如此なれば、日の光明かに、月に向ひ、夏すずしく冬あたたかにして、身を養ふに宜し。又居室も庭中もつねに掃除していさぎよくすべし。かくの如くすれば、気を養ひ心をいさぎよくす。くらくけがらはしければ、心気の養とならず。又、居る処暗ければ元気をふさぐ。甚明らか過ぐれば精神を破る。居る処かざりを好めば慾を生ず。
現代語訳
常にいる所は、日の当たるほうに向き、陰に背を向けるべきです。このようであれば、日の光が明るく、月にも向かい、夏は涼しく冬は暖かで、身を養うのによいのです。また居室も庭も常に掃除して清らかにすべきです。このようにすれば、気を養い心を清らかにします。暗く汚れていれば、心と気の養いになりません。また、いる所が暗ければ元気をふさぎます。あまりに明るすぎれば精神を損ないます。いる所に飾りを好めば欲を生じます。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『養生訓』巻第五・五官一つねに居る処は、南に向ひ、戸に近く明なるべし。陰欝にしてくらき処に、常に居るべからず、気をふさぐ。又輝き過ぎたる陽明の処も、常に居ては精神をうばふ。陰陽の中にかなひ、明暗相半すべし。甚だ明ければ簾をおろし、暗ければ簾をかかぐべし。一臥すには必ず東首して生気をうくべし、北首して死気をうくべからず。もし君父近きにあらば、あとにすべからず。
-
『家道訓』巻之一・総論上一わが身朝夕飲食の俸養はかろくして、身をば労動すべし。奢りて酒食の美をこのみ、怠りて身を安逸にすべからず。おごらず怠らず、かくの如くすれば、第一徳を養ひ、次に身を養ひ、次に財をやしなふ、三の益あり。飲食淡薄にして身を労動すれば、食気滞らず、気血めぐり、脾胃やぶれずして生を養ふによろし。又身を労すれば、艱難労苦にたへて、忠孝の行、学問芸術を習ふにつとめよし。もし身体を労動せずして安逸にならへば、艱難に不堪して、忠孝のつとめをくるしみ、学問技芸におこたり、殊に士は武勇のたしなみなく、軍陣にて艱苦にたへず、病おこり身よわりて用にたたず、武勇をはげみがたし。およそ心は安静にし、身は労動せしむべし。
-
『家道訓』巻之三・総論下一人の家居は、貧富によらず、身の分より少しせばきがよし。せばければつひえすくなく、事すくなくして住みよし。富貴なりとも無用の屋作ひろくすべからず。ひろ過ぎては通行なやみあり。掃除に家人のつとめしげく、修理もむづかしく、財の費多し。されど又、無用の用とて、常に用なき所少しありてよし。事ある時のためなり。家居は、只堅くいさぎよくして飾なきが、心を養ひ、目を養ふによし。
-
『養生訓』巻第五・五官一坐するには正坐すべし、かたよるべからず。燕居には安坐すべし、膝をかがむべからず。又よりより牀几にこしかけ居れば、気めぐりてよし。中夏の人は常にかくのごとくす。一常に居る室も、常に用ふる器も、かざりなく質朴にして、けがれなく潔かるべし。居室は風寒をふせぎ、身をおくに安からしむべし。器は用をかなへて、事欠けざれば事足りぬ。華美を好めばくせとなり、おごりむさぼりの心おこりて、心を苦しめ、事多くなる。養生の道に害あり。坐する処、臥す処、少しも透間あらば塞ぐべし。すき間の風と、吹き通す風は、人のはだへに通りやすくして病おこる。おそるべし。夜臥して、耳辺に風の来る穴あらば、ふさぐべし。
-
『養生訓』巻第二・総論下一夜書を読み人とかたるに、三更をかぎりとすべし。一夜を五更にわかつに、三更は国俗の時鼓の四半過、九の間なるべし。深更までねぶらざれば、精神しづまらず。一外境いさぎよければ、中心も亦是にふれて清くなる。外より内を養ふ理あり。故に居室は常に塵埃をはらひ、前庭も家僕に命じて日々いさぎよく掃はしむべし。みづからも時々机上の埃をはらひ、庭に下りて帚をとりて塵をはらふべし。心をきよくし、身をうごかす、皆養生の助なり。
-
『家道訓』巻之三・総論下一居る処の室の内にある器物衣服調度をば、年老いたりとも、猶も立居くるしからずば、十たびの内五六度は、みづから立ちて用事をととのふべし。奴婢を用ふべからず。是まづわが身をうごかし労して、生を養ふ道なり。其の上、奴婢も亦しばしば立ちうごかず、労せずしてよし。富貴にして奴婢多くともかくの如くすべし。況や貧家ならば、おほからぬ奴婢を、しばしばよびて労せしめんより、みづから立ちて、心のままに事を調ふるが、心のなやみなくして快し。又奴婢をよんで、一事を言ひつけなさしめば、其の時になほつかふべき事あらば、思ひ出して、退かざる内に、其のついでを以て、二も三も事をなさしむべし。奴婢の我が前にある時は、心を用ひずしてあだに過し、なさしむべき事を言ひつけずして、退きて後おもひ出し、しばしばよんで事を命ずれば、我が身も奴婢も、事しげくいたつがはしくしてひまなし。
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る