家道訓 / 巻之二・総論中
一親戚をば、時々まねきて饗應すべし。しからざれば情意うとくなる。食品はうすくし、情意は厚かるべし。一家ををさむるに、法なくいるかせにして、家道みだりなれば、其の家の奴婢もおこたり、無禮にしてわがまゝになるゆゑに、身のならはし、惡しくなる事をば知らで、其の家風のいるかせなるをよろこぶ。又主人儉約ならざれば、奴婢のためゆたかなるやうに思ひてよろこぶ。此の二は、無道にして却ていやしき愚なる者の、ほまれを得るものなり。故に奴婢のほまれを得る人は、却て其家法みだりなる事多し。しかれば、いやしき者と愚人とのほまれをよろこぶべからず。そしりをくるしむべからず。又、いやしきものと愚なる者のほめそしりを聞かば、信ずべからず。是を信ずれば、あやまりてひが事あり。
新字:一親戚をば、時々まねきて饗応すべし。しからざれば情意うとくなる。食品はうすくし、情意は厚かるべし。一家ををさむるに、法なくいるかせにして、家道みだりなれば、其の家の奴婢もおこたり、無礼にしてわがまゝになるゆゑに、身のならはし、悪しくなる事をば知らで、其の家風のいるかせなるをよろこぶ。又主人倹約ならざれば、奴婢のためゆたかなるやうに思ひてよろこぶ。此の二は、無道にして却ていやしき愚なる者の、ほまれを得るものなり。故に奴婢のほまれを得る人は、却て其家法みだりなる事多し。しかれば、いやしき者と愚人とのほまれをよろこぶべからず。そしりをくるしむべからず。又、いやしきものと愚なる者のほめそしりを聞かば、信ずべからず。是を信ずれば、あやまりてひが事あり。
書き下し
一親戚をば、時々まねきて饗応すべし。しからざれば情意うとくなる。食品はうすくし、情意は厚かるべし。一家ををさむるに、法なくいるかせにして、家道みだりなれば、其の家の奴婢もおこたり、無礼にしてわがままになるゆゑに、身のならはし、悪しくなる事をば知らで、其の家風のいるかせなるをよろこぶ。又主人倹約ならざれば、奴婢のためゆたかなるやうに思ひてよろこぶ。此の二は、無道にして却ていやしき愚なる者の、ほまれを得るものなり。故に奴婢のほまれを得る人は、却て其家法みだりなる事多し。しかれば、いやしき者と愚人とのほまれをよろこぶべからず。そしりをくるしむべからず。又、いやしきものと愚なる者のほめそしりを聞かば、信ずべからず。是を信ずれば、あやまりてひが事あり。
現代語訳
親戚は時々招いてもてなすべきです。そうしなければ情が疎くなります。料理は簡素にし、情は厚くあるべきです。家を治めるのに法がなく、なおざりで家の道が乱れていると、その家の召使いも怠けて無礼になり、わがままになるので、身の習いが悪くなることを知らずに、その家風のなおざりなのを喜びます。また主人が倹約でなければ、召使いのために豊かなように思って喜びます。この二つは、無道であるのにかえって賤しく愚かな者の褒め言葉を得るものです。ですから召使いの褒め言葉を得る人は、かえってその家の法が乱れていることが多いのです。そうであれば、賤しい者や愚かな人の褒め言葉を喜んではいけません。そしりを苦にしてもいけません。また賤しい者や愚かな者の褒めそしりを聞いても、信じてはいけません。これを信じれば、誤ってひがごとがあります。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『家道訓』巻之三・総論下一家ををさむるにも、下情上に通ずるをよしとす。下情上に通ずとは、下つかたの人のうれひくるしみ、善悪曲直のありさまを聞きて、明かに知るを云ふ。下たる者のうれひくるしみ、よきあしきを知らざるは、愚なり。一権勢ある家の賓客を司るやつこは、必ず主人の権勢にほこり、無礼にして賓客をあなどる。主人より時々心をつけて無礼を戒むべし。其やつこにまかせおくべからず。やつこの無礼なるは責むるに足らず。只其主人をそしる。主人是を知らざるべけんや。一人のいましめは防のごとし。大水をふせがんため、かねて日でりの時つつみを築きおけば、洪水のわざはひなし。人もかねての防ぎなければ、うれひの来ることはかりがたし。人家の内、年わかき子弟婦女奴婢のともがらは、いまだ悪事出来らざる時、かねて礼法を正しく、内外上下のへだてありて、家法をきびしくすべし。
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『家道訓』巻之二・総論中一下人利口にして、我心にかなひたりとも、愛し過すべからず。愛過ぐれば、必ずおごりおこたりて家法をみだし、私を行ひて主人の禍となり、其身もほろぶ。凡利口なる者は、必ず佞奸なる故、却て主人の心にかなひやすし。是を愛すればわざはひとなる。おそるべし、このむべからず。
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『家道訓』巻之二・総論中一家を治むるに、奴婢最をさめがたし。これをつかふに尤道あるべし。遠ざけてきびしければうらみそむく。近づけているかせなればおごり怠る。恩愛を以てなつけ、礼法を以て正すべし。如此すれば、うらみなくおごりなし。仁愛と礼法と、二の者ならび行ふべし。
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『家道訓』巻之一・総論上一先祖をたふとび、時節の祭礼おこたるべからず。親戚をあつくしたしむべし。親戚にうとくして、外人に親しきは逆なり。国法をおそれ守り、上たる人の行、国家の政をそしるべからず。上をそしり国政をそしるは、是大なる不忠不敬のいたりなり。つつしむべし。そしる人ありとも雷同せず、口をつぐんで言ふべからず。凡わが身をかへりみ修めて、常にわが過を責むべし。人を責め人の不善をいふを、戒とすべし。
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『家道訓』巻之二・総論中一客をまねきて饗せば、只真実に客の心にかなふをむねとすべし。かざるべからず。食品すくなくいさぎよくし、味をよくしてすすむべし。酒をすすむるに心得あるべし。多少は、のむ人の分量にしたがふべし。少し強ふるはよし。しひても猶辞せば、其心に任すべし。酒をこのんでのむ人にも、分量の多少あり。其量を知らずしてたらざるは害なし。みだりにしひ過して、人をくるしむべからず。大に酔ひぬれば、礼義を失ひ、乱に及ぶ。放言を発し病を生ず。古人酒を狂薬と名づけしことむべなり。酒をこのむ人はあながちに辞せず、大かたは、其の人の心にまかせたらんこそ、客の心にかなひて宜しかるべけれ。酒は以てよろこびを合すといへば、只人の心をよろこばしめ、興をやるほどにすすむべし。
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『家道訓』巻之二・総論中一富貴の家に、貧賤なる親戚の出入するは、主人の仁愛のあつきことあらはれて、其家の面目とすべし。かかる人の来るを恥づべからず。一我が身の大事ありて、思慮決しがたきことあり、又おほやけに申すこと、皆思慮ある人に問ひはかり、其人の評論にしたがふべし。我が身のことは、私慾あるゆゑ、才ある人も心くらくなりて、善悪の理見えがたし。我が思慮する所、十分によしとおもへど、傍より見ればあしきこと多し。人の上のよきもあしきも、わきよりは明らかに見えやすし。碁をかこむものは、まよひて手見えず、かたはらより見る者は眼あるが如し。すべて人は、一世の内大事ありて、我が思案にていかがせんと、独り決定しがたき事多し。知慮ありてよく是非を分別する朋友を平生もとめて、常にしたしく交り、大事ある時、其の人の思慮をかり用ふべし。我が身、又は子弟などの身に大事あらば、われひとりはからひて、決定することなかれ。知慮ありて其の事をよく心得たらん人に問ひはかるべし。
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