家道訓 / 巻之一・総論上
一父母につかへて常に力を盡し、時々の見まひ、膝下のつかへおこたらず、古語に、夕にさだめて朝にかへりみるといへるがごとくすべし。ひまなき人も、朝夕の間、時々つとめて父母の前に侍りつかふべし。つねに養をかへりみ、飮食の味よくして、みづから寒溫の節をこゝろみてすゝめ、冬は父母をあたゝかにし、夏は涼しくすべし。外に出づれば、必ず父母に對面し、内にかへれば、必ず父母をかへりみる。父母に對しては、顏色を溫和にして言をあらくすべからず。父母の心をよろこばしめ、父母の身を養ふ、二のつとめ闕くべからず。是皆人の子たる者の定りたる法なり。此の法にそむくべからず。父母の事をつねに思ひ慕ひて、心にかけてわすれざるを孝とす。兄弟にむつまじく、夫婦和して別あり、妻をみちびくに禮を以てし、子弟ををしへいましめて愛を過さず、彼是につきて愛憎の私なく、子弟をみちびき禮をつとめ、書をよみ藝をならふに、おこたりなからしむべし。凡子弟の敎は、必ず嚴正なるべし。
新字:一父母につかへて常に力を尽し、時々の見まひ、膝下のつかへおこたらず、古語に、夕にさだめて朝にかへりみるといへるがごとくすべし。ひまなき人も、朝夕の間、時々つとめて父母の前に侍りつかふべし。つねに養をかへりみ、飲食の味よくして、みづから寒温の節をこゝろみてすゝめ、冬は父母をあたゝかにし、夏は涼しくすべし。外に出づれば、必ず父母に対面し、内にかへれば、必ず父母をかへりみる。父母に対しては、顔色を温和にして言をあらくすべからず。父母の心をよろこばしめ、父母の身を養ふ、二のつとめ闕くべからず。是皆人の子たる者の定りたる法なり。此の法にそむくべからず。父母の事をつねに思ひ慕ひて、心にかけてわすれざるを孝とす。兄弟にむつまじく、夫婦和して別あり、妻をみちびくに礼を以てし、子弟ををしへいましめて愛を過さず、彼是につきて愛憎の私なく、子弟をみちびき礼をつとめ、書をよみ芸をならふに、おこたりなからしむべし。凡子弟の教は、必ず厳正なるべし。
書き下し
一父母につかへて常に力を尽し、時々の見まひ、膝下のつかへおこたらず、古語に、夕にさだめて朝にかへりみるといへるがごとくすべし。ひまなき人も、朝夕の間、時々つとめて父母の前に侍りつかふべし。つねに養をかへりみ、飲食の味よくして、みづから寒温の節をこころみてすすめ、冬は父母をあたたかにし、夏は涼しくすべし。外に出づれば、必ず父母に対面し、内にかへれば、必ず父母をかへりみる。父母に対しては、顔色を温和にして言をあらくすべからず。父母の心をよろこばしめ、父母の身を養ふ、二のつとめ闕くべからず。是皆人の子たる者の定りたる法なり。此の法にそむくべからず。父母の事をつねに思ひ慕ひて、心にかけてわすれざるを孝とす。兄弟にむつまじく、夫婦和して別あり、妻をみちびくに礼を以てし、子弟ををしへいましめて愛を過さず、彼是につきて愛憎の私なく、子弟をみちびき礼をつとめ、書をよみ芸をならふに、おこたりなからしむべし。凡子弟の教は、必ず厳正なるべし。
現代語訳
父母に仕えて常に力を尽くし、折々の見舞いや、膝元での仕えを怠らず、古語に「夕べに寝床を整え、朝に様子をうかがう」とあるようにすべきです。暇のない人も、朝夕の間に時々努めて父母の前に侍って仕えるべきです。常に食事の世話を気にかけ、飲食の味をよくし、自分で寒暖の加減を確かめて勧め、冬は父母を暖かくし、夏は涼しくすべきです。外に出るときは必ず父母に顔を合わせ、内に帰れば必ず父母の様子をうかがいます。父母に対しては顔色を穏やかにして、言葉を荒くしてはいけません。父母の心を喜ばせることと、父母の身を養うことの二つの務めは欠かしてはいけません。これは皆人の子たる者の定まった法です。この法に背いてはいけません。父母のことを常に思い慕い、心にかけて忘れないのを孝とします。兄弟と睦まじくし、夫婦は和して別があり、妻を導くのに礼をもってし、子弟を教え戒めて愛に溺れず、あれこれについて愛憎の私心なく、子弟を導いて礼を務めさせ、書を読み芸を習うのに怠りがないようにさせるべきです。およそ子弟の教えは、必ず厳正であるべきです。
解説
この章句が説くこと
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論語・為政篇孟武伯孝を問う。子曰く、「父母は唯其の疾(やまい)を之憂う。」
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『慎思録』巻之六家に居て孝ならず、君に事へて忠ならざるは、厥の罪惟れ鈞し。不忠の人は、君得て之を斥く。不孝の人は、父忍びて之を容る。惟だ幸ひにして免るるのみ。人の子たる者、父の忍び容るる所と為るは、此れ不孝の甚だしきなり。父の譴責を被らずと雖も、豈に恥づる心あらざるべけんや。
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史記 五帝本紀堯乃ち舜に絺衣と琴とを賜ひ、為に倉廩を築き、牛羊を予ふ。瞽叟尚ほ復た之を殺さんと欲し、舜をして上りて廩を塗らしめ、瞽叟下より火を縦ちて廩を焚く。舜乃ち両笠を以て自ら扞ぎて下り、去りて、死せざるを得たり。後に瞽叟又舜をして井を穿たしむ。舜井を穿ちて匿空を為り旁らに出づ。舜既に入りて深きに、瞽叟・象共に土を下して井を実む。舜匿空より出でて、去る。瞽叟・象喜び、舜を以て已に死せりと為す。
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