実武一家言抄録 / 芸を試し親しむ
(四)主將の諸士と遠々敷は、撫御愛育の恩慮行屆かずして諸士の勵みの薄き者也、此を親くするに道あり、先諸番頭、物頭に令を召して、每月其配下の諸士の藝能を書上さすべし、其頭により書出したるを主將より日を定めて呼出し自親に此を試み、其巧拙に從て褒期を爲し、儒學の者には對策を出て、和學の者には古典を講ぜしめ、或は詩を作らしめ歌を詠ぜしめ、或は弓馬刀鎗者勿論、何れの藝にても主將自ら此を試み其甲乙を匡すべし、其考試みの終たる後に濁酒の宴を催し物を賜るべし、若其配下に藝者のなき頭には能諸藝を取立べき旨を急度申付る也、又は城內に當番にて詰たる外樣の諸士を急に徵して弓馬刀鎗鐵砲等の藝を試み、或は角力などを取らせて物を賜りて樂みながら親みを厚くすべし、又は鷹野猪狩漁獵等に出たる時にも外樣の士を近く徵して時宜に從ひ早業勇力等を見分し盃抔を賜りて其意氣を勵也、
新字:(四)主将の諸士と遠々敷は、撫御愛育の恩慮行届かずして諸士の励みの薄き者也、此を親くするに道あり、先諸番頭、物頭に令を召して、毎月其配下の諸士の芸能を書上さすべし、其頭により書出したるを主将より日を定めて呼出し自親に此を試み、其巧拙に従て褒期を為し、儒学の者には対策を出て、和学の者には古典を講ぜしめ、或は詩を作らしめ歌を詠ぜしめ、或は弓馬刀鎗者勿論、何れの芸にても主将自ら此を試み其甲乙を匡すべし、其考試みの終たる後に濁酒の宴を催し物を賜るべし、若其配下に芸者のなき頭には能諸芸を取立べき旨を急度申付る也、又は城内に当番にて詰たる外様の諸士を急に徴して弓馬刀鎗鉄砲等の芸を試み、或は角力などを取らせて物を賜りて楽みながら親みを厚くすべし、又は鷹野猪狩漁猟等に出たる時にも外様の士を近く徴して時宜に従ひ早業勇力等を見分し盃抔を賜りて其意気を励也、
書き下し
(四)主將の諸士と遠々敷は、撫御愛育の恩慮行屆かずして諸士の勵みの薄き者也、此を親くするに道あり、先諸番頭、物頭に令を召して、每月其配下の諸士の藝能を書上さすべし、其頭により書出したるを主將より日を定めて呼出し自親に此を試み、其巧拙に從て褒期を爲し、儒學の者には對策を出て、和學の者には古典を講ぜしめ、或は詩を作らしめ歌を詠ぜしめ、或は弓馬刀鎗者勿論、何れの藝にても主將自ら此を試み其甲乙を匡すべし、其考試みの終たる後に濁酒の宴を催し物を賜るべし、若其配下に藝者のなき頭には能諸藝を取立べき旨を急度申付る也、又は城內に當番にて詰たる外樣の諸士を急に徵して弓馬刀鎗鐵砲等の藝を試み、或は角力などを取らせて物を賜りて樂みながら親みを厚くすべし、又は鷹野猪狩漁獵等に出たる時にも外樣の士を近く徵して時宜に從ひ早業勇力等を見分し盃抔を賜りて其意氣を勵也、
現代語訳
(四)主将と家臣との間が疎遠なのは、撫御愛育の思いやりが行き届かず、家臣の励みが薄いからである。これを親しくするには方法がある。まず諸番頭・物頭に命じて、毎月配下の武士の芸能を書き上げさせる。頭によって書き出されたものをもとに、主将が日を定めて呼び出し、自ら親しくこれを試し、その巧拙に従って褒美を与える。儒学の者には対策の問いを出し、和学の者には古典を講義させ、あるいは詩を作らせ歌を詠ませ、あるいは弓馬・刀・槍はもちろん、どんな芸でも主将自らこれを試してその優劣を正すべきである。その試みが終わった後に濁り酒の宴を催して物を与える。もし配下に芸者のいない頭には、よく諸芸を取り立てるよう厳しく申し付ける。また、城内に当番で詰めている外様の武士を急に呼び出し、弓馬・刀槍・鉄砲などの芸を試し、あるいは相撲などを取らせて物を与え、楽しみながら親しみを厚くする。また、鷹狩り、猪狩り、漁などに出たときも、外様の士を近くに呼び、状況に応じて早業や勇力などを見分け、杯などを与えてその意気を励ますのがよい。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『実武一家言抄録』・頭分は学び、将は愛育す(三)凡頭分の者には務て書を讀しむ事、人を扱ふ身分は不學にては諸事に損多し、吳の孫權が呂蒙に三史を讀しめて名將に仕立たるとを以證とすべし、又總軍士は各其頭の下知を承て働く者なれば右のみ强て務しむるに及ず、只戰塲に臨で勇壯成を專一とす、總軍士をして悉く勇壯ならしむるとは即ち主將一人の撫御に在者なるが故に、兵法の大事は此撫御に置、誠懇別を盡して諸士を愛育するより緊要なるはなし、故に予が此一家言の開卷第一に此を論ず、讀者心を盡さずんばあるべからず、而其諸士を土着せしめたる上は、每月一兩度も猪狩漁獵等に出て、總軍水陸の兵法を敎、且軍令の嚴に用なるを知しめ、諸士の勇氣を引立べし、或は時々頭分の宅に遊で濁酒の宴などを催し、物を賜り恩を施して厚く親みを結べし、然れども嚴敷奢侈を戒め、若其家作等の度に越て廣大美麗成をば軍士に命じて即座に打毀させ、別に入用を賜りて質朴に造り直さしむべし、
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『実武一家言抄録』・武士を土着させる利(一)人數を撫御して武備を精銳にせん事を欲せば諸士の風俗を質朴にするには山林草野に土着せしむるを良とす、諸士自身に農業にも從事する時は小給にても馬を持るゝ者にて、居家衣服等の奢侈を爲ざる時は心次第に武具も持られ、且耕作を勤むる時は手足も自然に丈夫に成、時に猪狩等を樂みとし、弓鐵砲の早業を勵むを以武藝も自ら上達し、險阻を走り廻りて遠行するが故に筋骨も健に成、力らを用る事有共速に疲勞する事なく、常に粗食を喰雨雷を犯して、或は野宿し或は飢を凌ぎ、艱難に馴るゝを以、軍役に出て奔走すると雖も、さまで苦とも思はざる也、大身の武士も奢を絶て農を本とする時は、年毎に財用餘りて內證富饒と成て數多の家士を扶持する事も出來る者也、古の領主は僅に五千石歟一萬石程の知行高にて五百人も千人も人數を出す事を得たる者は只是故の次第なりしが故也、今は天下一統に武士をば悉く城下に集置事に古來二百餘年續しに因て、人々皆繁華の風俗に習ひ馴れ、競て家宅を壯嚴に衣服に美麗を究極し安居して、共に珍味を喰飽て老の將に至らんとするを知らず、故に邇近に武備を論ずる者有を見れば後に山間の猿なりと罵り、國家を保護し不虞を警衛すべき軍役の爲に收納する租稅を、
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『実武一家言抄録』・頭分の人選と一芸の組(二)凡庶多の人數を扶持する者は、先番頭物頭の其任に當る人を得るを要とす、頭分といふ者は各一組の人數を預置て一方を任せる者なれば、若し其人にあらざる時は、主將の撫御の恩或は行屆ざる所ありて其武備精銳を極る事能はざる者也、故に頭分は勇壯にして物に動ぜざる人を撰ぶべし、又諸士は勿論下賤の者にても軍理に通じ物見等に用ふべき者を撰て一組と成置べし、又多力にして勇有者を一組に、頓智頓才ありて能辨なる者を一組に、博學にして和漢の事跡に明なるを一組にし、大銃火術砲術に鍛練なるを一組とし、早道早業の者一組とし、天文地理算數の達人を一組とし、弓馬の上手水練を學びたるを一組とし、都て一藝に勝れたる者を皆撰で一組とし置て、軍事ある時には本陣は勿論の事、諸手の兩頭にも分預けて、肝要成る時の用に備ふべし、我父玄明窩翁の門弟に仙臺人林子平なる者あり、海國兵談十六卷を著して當世の武備を論ずる事頗る其理を得たり、彼書に記載する所は大半我家の兵法より出る、宜く此書と參校すべし、大に軍事に益ある說多し、
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『実武一家言抄録』・武芸の心得と組打ち(一)諸士既に土着したる上は常に心懸べき事あり、先武藝は數多有事なれども、何れにても己が好所の一藝を熟練すべし、多藝に渡りたるは善事なれども、多藝を心懸る時は熟達し難事有、然共太刀は誰人も帶する者なれば何れ劒術を學ぶべし、別して太刀は拔打の强さを貴ぶ、居合も學ぶべし、(二)柔術も身を固むるの要法也、然ども戰塲にての組打は悉く角力の業也、宜く夜々角力の會を取立て師を請て稽古すべし、角力は武士の肝要の藝也、但し組打の時は早く右手刺を用て組ながら胸脇を突べし、是別して大事の早業也、兼て能心得居るべし、斯くて組打は高く組は損也、ひくゝ下手に組を良とす、且上組に成ても組敷れても早く右手刺を拔て二刀三刀も敵の胸脇を突通す事專一とすべし、大事の所を突れては如何なる敵も直に弱る事也、漢尺にも六尺にも製し用べし、
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『告志篇』・文武の枝葉に流れず本旨を守る太平の久しき、風俗浮華に赴き、文武ともに衰弊し、講釋等辯舌よく申述、詩文等達者に取廻し候を、文道と心得、弓馬槍刀等見事に取廻し候を、武道と心得候樣成行候處、是は文武の枝葉にて文武の本旨とはいふべからず候、然るに文武の枝葉さへ心懸候者少くして、無學文盲、人の人たる道をもしらず、柔弱游惰にて、士たるわけをも忘るゝ類あるは誠にあさましきことならずや、近來又一種の弊風を生じて、われは學問をも勤ずして、人の論を勸說し、武藝は勵ずして、身形刀劔をいかめしくし、或は孝悌忠信の道をば指置て、權謀術數を旨とし、人物の評論政事の批判等に日を費し、身を脩め家を齊る事に至りてはこれを度外に置候類、以の外なる風儀なきにしもあらず、君子欲訥於言而敏於行とさへ承候に、如此行跡は、抑如何なる心ぞや、是皆眞實の心薄くして、己を省るの心なきゆゑなるべし、仍ては正心誠意の學を本とし、恭敬の義を取失はず、武藝の義も表を飾るの意を止て、沈勇を尙び、篤實律義の士と成候樣可心懸候、古語にも、人各有能有不能といひ、又大臣小臣の差別も有事なれば、藝能に至りては家中一樣にせよといふにはあらず、經說史子の學をはじめ、射御書數の類に至る迄志し候て、必これを學び學び候はゞ、必これを遂候樣心懸、ともに國家の用に立候樣可致候、集て是を大成し、これを國家の用に供せば其益亦廣大ならずや、しかるに前ゝにも述る通り、我慢の心より面々の業をば勤ずして、空論の上にて、彼弊矯ん此弊を除んとせば、一弊を除けば一弊を生る道理なれば、申迄は無之候へども、指南の者は勿論、壯年脩業のものは心を用ゐて、とかく正心誠意の道を目當と可致事に候、
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『武士訓』卷四・第1段さふらひの出あひには。禮法たゞしくすべし。數年したしくまじはるとも。ことばをいやしくすべからず。ことばをいやしくすれば。奴僕の參會のごとし。かりそめのはなしにも。前後を勘辨し忠孝の沙汰。文武の吟味。あるひは古書に所載歴代の治亂興亡。かゝることは義にあたるか。あたらざるかなどゝ談ずべし。武士は。文武のほかの藝は。つたなくてもくるしからず。萬事をさし置て。まづ文武を講ずべし。

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