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神皇正統記 / 巻四 第六十二代 村上天皇

寛平の御記にそのはしのみえはべりし也。後をもよくかゞみさせ給けるにこそ。皇胤は誠に也にことなるべきことなれど、我国は神代よりの誓にて、君は天照太神の御すゑ国をたもち、臣は天児屋の御流君をたすけ奉るべき器となれり。源氏はあらたに出たる人臣なり。徳もなく、功もなく、高官にのぼりて人におごらば二神の御とがめ有ぬべきことぞかし。なか〳〵上古には皇子皇孫もおほくて、諸国にも封ぜられ、将相にも任ぜられき。崇神天皇十年に始て四人の将軍を任じて四道へつかはされしも皆これ皇族なり。景行天皇五十一年始て棟梁の臣を置て武内の宿禰を任ず。成務天皇三年に大臣とす。六代の朝につかへて執政たり。此大臣も孝元の曾孫なりき。しかれど、大織冠氏をさかやかし、忠仁公政を摂せられしより、もはら輔佐の器として、立かへり、神代の幽契のまゝに成ぬるにや。閑院の大臣冬嗣氏の衰たることをなげきて、善をつみ功をかさね、神にいのり仏に帰せられける、其しるしも相くはゝり侍けんかし。

新字:寛平の御記にそのはしのみえはべりし也。後をもよくかゞみさせ給けるにこそ。皇胤は誠に也にことなるべきことなれど、我国は神代よりの誓にて、君は天照太神の御すゑ国をたもち、臣は天児屋の御流君をたすけ奉るべき器となれり。源氏はあらたに出たる人臣なり。徳もなく、功もなく、高官にのぼりて人におごらば二神の御とがめ有ぬべきことぞかし。なか〳〵上古には皇子皇孫もおほくて、諸国にも封ぜられ、将相にも任ぜられき。崇神天皇十年に始て四人の将軍を任じて四道へつかはされしも皆これ皇族なり。景行天皇五十一年始て棟梁の臣を置て武内の宿祢を任ず。成務天皇三年に大臣とす。六代の朝につかへて執政たり。此大臣も孝元の曽孫なりき。しかれど、大織冠氏をさかやかし、忠仁公政を摂せられしより、もはら輔佐の器として、立かへり、神代の幽契のまゝに成ぬるにや。閑院の大臣冬嗣氏の衰たることをなげきて、善をつみ功をかさね、神にいのり仏に帰せられける、其しるしも相くはゝり侍けんかし。

書き下し

寛平の御記にそのはしのみえはべりし也。後をもよくかゞみさせ給けるにこそ。皇胤は誠に也にことなるべきことなれど、我国は神代よりの誓にて、君は天照太神の御すゑ国をたもち、臣は天児屋の御流君をたすけ奉るべき器となれり。源氏はあらたに出たる人臣なり。徳もなく、功もなく、高官にのぼりて人におごらば二神の御とがめ有ぬべきことぞかし。なかなか上古には皇子皇孫もおほくて、諸国にも封ぜられ、将相にも任ぜられき。崇神天皇十年に始て四人の将軍を任じて四道へつかはされしも皆これ皇族なり。景行天皇五十一年始て棟梁の臣を置て武内の宿禰を任ず。成務天皇三年に大臣とす。六代の朝につかへて執政たり。此大臣も孝元の曾孫なりき。しかれど、大織冠氏をさかやかし、忠仁公政を摂せられしより、もはら輔佐の器として、立かへり、神代の幽契のまゝに成ぬるにや。閑院の大臣冬嗣氏の衰たることをなげきて、善をつみ功をかさね、神にいのり仏に帰せられける、其しるしも相くはゝり侍けんかし。

現代語訳

寛平の御記(御遺誡)にその一端が見えている。後のことまでよく見通しておられたのであろう。皇胤はまことに他と異なるはずのものであるが、わが国は神代からの誓いによって、君は天照大神の御末として国を保ち、臣は天児屋命の御流れとして君をお助けすべき器となっている。源氏は新たに出た人臣である。徳もなく、功もなく、高官に上って人におごれば、二神のお咎めがあるはずのことである。かえって上古には皇子・皇孫も多くて、諸国にも封ぜられ、将軍や大臣にも任ぜられた。崇神天皇十年に初めて四人の将軍を任じて四道へ遣わされたのも、みな皇族である。景行天皇五十一年に初めて棟梁の臣を置いて武内宿禰を任じた。成務天皇三年に大臣とした。六代の朝廷に仕えて執政であった。この大臣も孝元天皇の曾孫であった。けれども、大織冠(鎌足)が氏を栄えさせ、忠仁公(良房)が政を摂せられてから、もっぱら藤原氏が補佐の器となって、神代の幽かな契りのままに立ち返ったのであろうか。閑院の大臣冬嗣が氏の衰えたことを嘆いて、善を積み功を重ね、神に祈り仏に帰依された、そのしるしも加わったのであろう。

解説

源氏が続かなかった理由を、神代の誓いという枠組みから説き直す段である。親房の見取り図では、君は天照大神の子孫として国を保ち、臣は天児屋命の子孫、つまり藤原氏として君を助ける。これが神代からの約束である。源氏は皇族の出ではあるが、臣としては新参であり、徳も功もなく高官に上っておごれば、二神の咎めを受けるだろうと言う。上古には皇族が将軍や大臣を務めた例もある。それでも鎌足と良房以後は、藤原氏が補佐の役を担うという神代の約束どおりの形に戻った、というのが親房の理解である。その上で冬嗣が善を積み功を重ねたことも効いていると付け加える。血筋の尊さは地位を約束しない。地位にふさわしい徳と功を積み続けた家だけが残る。これを源氏の一員である親房が書いていることに、この段の重みがある。

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