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神皇正統記 / 巻一 序

又象・馬・珠・玉女・居士・主兵等の宝あり。此七宝成就するを金輪王となづく。次々に銀・銅・鉄の転輪王あり。福力不同によりて果報も次第に劣れる也。寿量も百年に一年を減じ、身のたけも同く一尺を減てけり。百二十歳にあたれりし時、釈迦仏出で給。十歳に至らん比ほひに小三災と云ことあるべし。人種ほと〳〵尽てたゞ一万人をあます。その人善を行て、又寿命も増し、果報もすゝみて二万歳にいたらん時、鉄輪王出て南一州を領すべし。四万歳の時、銅輪王出て東・南二州を領す。六万歳の時、銀輪王出て東・西・南三州を領し、八万四千歳の時金輪王出て四天下を統領す。其報上に云るが如し。かの時又減にむかひて弥勒仏出給べし。此後十八けの減増あるべし。かくて大火災と云ことおこりて、色界の初禅梵天までやけぬ。三千大千世界同時に滅尽する、これを壊劫と云ふ。かくて世界虚空黒穴のごとくなるを空劫と云ふ。かくの如すること七けの火災をへて大水災あり。このたびは第二禅まで壊す。

書き下し

又象・馬・珠・玉女・居士・主兵等の宝あり。此七宝成就するを金輪王となづく。次々に銀・銅・鉄の転輪王あり。福力不同によりて果報も次第に劣れる也。寿量も百年に一年を減じ、身のたけも同く一尺を減てけり。百二十歳にあたれりし時、釈迦仏出で給。十歳に至らん比ほひに小三災と云ことあるべし。人種ほとほと尽てたゞ一万人をあます。その人善を行て、又寿命も増し、果報もすゝみて二万歳にいたらん時、鉄輪王出て南一州を領すべし。四万歳の時、銅輪王出て東・南二州を領す。六万歳の時、銀輪王出て東・西・南三州を領し、八万四千歳の時金輪王出て四天下を統領す。其報上に云るが如し。かの時又減にむかひて弥勒仏出給べし。此後十八けの減増あるべし。かくて大火災と云ことおこりて、色界の初禅梵天までやけぬ。三千大千世界同時に滅尽する、これを壊劫と云ふ。かくて世界虚空黒穴のごとくなるを空劫と云ふ。かくの如すること七けの火災をへて大水災あり。このたびは第二禅まで壊す。

現代語訳

また象・馬・珠・玉女・居士・主兵などの宝がある。この七宝がそろうのを金輪王と名づける。次々に銀・銅・鉄の転輪王がある。福の力が同じでないので果報も次第に劣るのである。寿命も百年ごとに一年ずつ減り、身の丈も同じく一尺ずつ減っていった。寿命が百二十歳にあたったとき、釈迦仏が世に出られた。十歳に至る頃に小三災というものがあるだろう。人の種はほとんど尽きて、ただ一万人を残す。その人々が善を行って、また寿命も増し、果報も進んで二万歳に至るとき、鉄輪王が出て南の一州を治めるだろう。四万歳のとき銅輪王が出て東・南の二州を治める。六万歳のとき銀輪王が出て東・西・南の三州を治め、八万四千歳のとき金輪王が出て四天下を統べ治める。その果報は上に言ったとおりである。そのときまた減る方へ向かって、弥勒仏が世に出られるだろう。この後十八の減増があるはずだ。こうして大火災というものが起こって、色界の初禅の梵天まで焼ける。三千大千世界が同時に滅び尽きる。これを壊劫という。こうして世界が虚空の黒い穴のようになるのを空劫という。このようにして七度の火災を経て大水災がある。このたびは第二禅まで壊す。

解説

仏典の劫の説の続きで、転輪王の衰えと世界の滅びまでを語る。金・銀・銅・鉄と王の格が下がり、寿命も身の丈も少しずつ縮んでいく。釈迦が出たのは人の寿命が百二十歳のときで、やがて十歳まで縮んで小三災が起こり、人はほとんど尽きる。ところがそこで話は終わらない。生き残った一万人が善を行うと、寿命はふたたび延び、鉄輪王から金輪王へと世は回復していく。下降の果てに上昇があり、その転換の鍵は人が善を行うことに置かれている。親房の時代は末法の世と観念されていたが、この書が世の衰えを嘆くだけで終わらないのは、こうした回復の筋道を世界観の土台に持っていたからでもあろう。どん底からの立て直しは外から与えられるのではなく、残った者の行いから始まる。その構図は組織の再建にもそのまま当てはまる。

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