抱朴子外篇 / 詰鮑
是以有聖人作,受命自天,或結罟以畋漁,或瞻辰而鉆燧,或嘗卉以選粒,或構宇以仰蔽。備物致用,去害興利,百姓欣戴,奉而尊之,君臣之道於是乎生,安有詐愚淩弱之理?三五叠興,道教遂隆,辯章勸沮,德盛刑清,明良之歌作,蕩蕩之化成,太階既平,七政遵度,梧禽激響於朝陽,麟虞覿靈而來出,龜龍吐藻於河湄,景老摛耀於天路,皇風振於九域,兇器戢乎府庫,是以禮制則君安,樂作而刑厝也。若夫奢淫狂暴,由乎人己,豈必有君,便應爾乎?而鮑生獨舉衰世之罪,不論至治之義,何也?
新字:是以有聖人作,受命自天,或結罟以畋漁,或瞻辰而鉆燧,或嘗卉以選粒,或構宇以仰蔽。備物致用,去害興利,百姓欣戴,奉而尊之,君臣之道於是乎生,安有詐愚淩弱之理?三五叠興,道教遂隆,弁章勧沮,徳盛刑清,明良之歌作,蕩蕩之化成,太階既平,七政遵度,梧禽激響於朝陽,麟虞覿霊而来出,亀竜吐藻於河湄,景老摛耀於天路,皇風振於九域,兇器戢乎府庫,是以礼制則君安,楽作而刑厝也。若夫奢淫狂暴,由乎人己,豈必有君,便応爾乎?而鮑生独舉衰世之罪,不論至治之義,何也?
書き下し
是を以て聖人の作る有り、命を天に受け、或いは罟を結びて以て畋漁し、或いは辰を瞻て燧を鉆り、或いは卉を嘗めて粒を選び、或いは宇を構えて以て仰蔽す。物を備え用を致し、害を去り利を興し、百姓欣戴して、奉じて之を尊ぶ。君臣の道、是に於いて生ず。安くんぞ愚を詐り弱を凌ぐの理有らんや。三五叠いに興り、道教遂に隆んに、辯章勧沮し、徳盛んに刑清く、明良の歌作り、蕩蕩の化成り、太階既に平らかに、七政度に遵い、梧禽は朝陽に響きを激し、麟虞は霊を覿て来出し、亀龍は藻を河湄に吐き、景老は耀を天路に摛き、皇風九域に振い、兇器は府庫に戢まる。是を以て礼制すれば則ち君安く、楽作れば刑厝かる。若し夫れ奢淫狂暴は、人己に由る、豈に必ずしも君有りて、便ち爾るべけんや。而るに鮑生は独り衰世の罪を挙げて、至治の義を論ぜざるは、何ぞや。
現代語訳
そこで聖人が現れ、天命を受けて、あるいは網を編んで狩りや漁をし、あるいは星を見て火を鑽り出し、あるいは草を嘗めて穀物を選び、あるいは家を構えて仰ぎ見て雨露を覆った。物を備えて用を尽くし、害を除き利を興したので、民は喜んで戴き、これを奉じて尊んだ。君臣の道はこのようにして生まれたのである。どうして愚者を欺き弱者を凌ぐ道理などがあろうか。三皇五帝が代わるがわる興り、道と教えがやがて盛んになり、善を勧め悪を沮み、徳が盛んで刑は清く、君臣が歌い交わし、広大な教化が成り、天の階も平らかになり、七つの星も度に従い、梧桐に棲む鳳は朝日に鳴き声を響かせ、麒麟や騶虞は霊瑞を現して出で来、亀や龍は河のほとりで文様を吐き、景星と老人星は天の道に光を放ち、皇の風は九州に振るい、凶器は倉に納められた。こうして礼で制すれば君は安らぎ、楽が作られれば刑は置かれるのである。奢りや淫らさ、狂暴さは、人自身から出るもので、どうして君主がいるから必ずそうなるといえようか。それなのに鮑生はただ衰えた世の罪だけを挙げて、至治の道理を論じないのは、なぜか。
解説
この章句が説くこと
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抱朴子外篇・詰鮑鮑生敬言は、老荘の書を好み、劇辯の言を治め、以為えらく古者の無君は今世に勝ると。故に其の著論に云う、「儒者曰く『天は烝民を生じて之が君を樹つ』と。豈に其れ皇天の諄諄然として亦た之を欲する者の為に辞せんや。夫れ強き者弱きを凌げば、則ち弱き者之に服す。智ある者愚を詐れば、則ち愚なる者之に事う。之に服す、故に君臣の道起こり、之に事う、故に力寡き民制せらる。然らば則ち隷属役禦は、強弱を争い愚智を校ぶるに由る。彼の蒼天は果たして事無きなり。夫れ混茫は無名を以て貴しと為し、群生は意を得るを以て歓びと為す。故に桂を剥ぎ漆を刻むは、木の願うに非ず。鶡を抜き翠を裂くは、鳥の欲する所に非ず。轡を促し鑣を銜ましむるは、馬の性に非ず。車を荷い重きを運ぶは、牛の楽しみに非ず。詐巧の萌し、力に任せて真に違い、生の根を伐ち、以て無用を飾り、飛禽を捕えて以て華玩に供し、本完の鼻を穿ち、天放の脚を絆す。蓋し万物並び生ずるの意に非ず。夫れ彼の黎烝を役し、此の在官を養い、貴き者は禄厚くして民も亦た困しむ。夫れ死して生を得て、欣喜すること無量なれば、則ち向に死無きに如かず。
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抱朴子外篇・詰鮑「且つ夫れ古に逮びて質樸なるは、蓋し其の未だ変ぜざるなり。民は尚お童蒙にして、機心動かず、夫の嬰孩の、智慧未だ萌さざるに譬う。知りて為さざるに非ず、欲して之を忍ぶに非ざるなり。若し人と人と草莱の利を争い、家と家と巣窟の地を訟え、上に枉を治むるの官無く、下に類を重ぬるの党有らば、則ち私闘は公戦に過ぎ、木石は干戈より鋭く、屍を交え野に布き、血を流して路を絳くす。久しく君無くんば、噍類尽きん。擾龍馴鳳、河図洛書に至りては、或いは麟甲を銜え負い、或いは黄魚波に湧き、或いは丹禽翔り授け、或いは回風三たび集まるも、皆な君有るの世に在りて、無王の時には出でず。夫れ祥瑞の徴は、玄極を指し発し、或いは以て革命の符を表し、或いは以て至治の盛を彰らかにす。若し君有るをして、天意に合わざらしめば、彼の嘉応の来たること、孰か之を使めんや。子若し混冥を以て美と為さば、則ち乾坤は分かつ宜からず。若し無名を以て高しと為さば、則ち八卦は画く当からず。豈に造化に謬り有りて、太昊の暗きならんや。雅論の尚ぶ所は、唯だ自然を貴ぶ。請い問う、母を識りて父を忘るるは、群生の性なり。拜伏の敬は、世の末飾なり。然れども性は任す可からず、必ず父を尊ぶ。飾は廃す可からず、必ず拝有り。之を任せ之を廃す、子は安んずるか。
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抱朴子外篇・詰鮑人主は廟堂の上に憂栗し、百姓は困苦の中に煎擾す。之を閑ぐに礼度を以てし、之を整うるに刑罰を以てするは、是れ猶お滔天の源を辟き、不測の流を激し、之を塞ぐに撮壌を以てし、之を障ぐに指掌を以てするがごとし」と。抱朴子難じて曰く、「蓋し聞く沖昧既に辟け、濁を降し清を升げ、穹隆は仰ぎ燾い、旁泊は俯して停まる。乾坤位を定め、上下以て形る。遠くは諸を物に取れば、則ち天尊く地卑くして、以て人倫の体を著す。近くは諸を身に取れば、則ち元首股肱ありて、以て君臣の序を表し、降殺の軌は、自りて来る有り。若し夫れ太極混沌として、両儀質無くんば、則ち玄黄剖判し、七耀象を垂れ、陰陽陶冶し、万物群分するに若かず。滋より以て言えば、亦た知る鳥の聚まり獣の散じ、巣に棲み穴に竄れ、毛血是れ茹らい、草を結びて斯れ服し、入りては六親の尊卑無く、出でては階級の等威無きは、体を広夏に庇い、稉粱嘉旨、黼黻綺紈、冬を禦ぎ暑に当たるに、明辟物に蒞み、良宰世を匠し、官を設け職を分かち、宇宙穆如たるに若かざるを。貴賤章有らば、則ち賞を慕い罰を畏る。勢い斉しく力均しければ、則ち争奪憚る靡し。
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抱朴子外篇・詰鮑「杪季に降及して、智用い巧生じ、道徳既に衰え、尊卑序有り、升降損益の礼を繁にし、紱冕玄黄の服を飾り、土木を凌霄に起こし、丹緑を棼撩に構え、峻を傾けて宝を捜し、淵に泳ぎて珠を辨ず。玉を聚むること林の如くすれども、以て其の変を極むるに足らず。金を積みて山と成すも、以て其の費を贍すに足らず。淫荒の域に澶漫して、其の大始の本に叛き、宗を去ること日に遠く、樸に背くこと弥いよ増す。賢を尚べば民は名を争い、貨を貴べば盗賊起こり、欲す可きを見れば真正の心乱れ、勢利陳なれば劫奪の途開く。剡鋭の器を造りて侵割の患を長ず。弩は勁からざるを恐れ、甲は堅からざるを恐れ、矛は利からざるを恐れ、盾は厚からざるを恐る。若し凌暴無くんば、此れ皆な棄つ可きなり。故に曰く、白玉毀たれずんば、孰か珪璋を為さん。道徳廃れずんば、安くんぞ仁義を取らん。夫の桀紂の徒をして、人を燔きて諫むる者を辜し、諸侯を脯にし、方伯を菹にし、人の心を剖き、人の脛を破り、驕淫の悪を窮め、炮烙の虐を用いしむるを得しむ。若し斯の人をして並びに匹夫と為さしめば、性は兇奢なりと雖も、安くんぞ之を施すを得ん。彼をして酷を肆にし欲を恣にし、天下を屠割せしむるは、君為るに由り、故に意を縦にするを得るなり。君臣既に立ちて、衆慝日に滋く、而るに臂を桎梏の間に攘い、悉く塗炭の中に労せんと欲す。
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抱朴子外篇・詰鮑大臣は危を扶くる所以なるも、奸臣は主の危からざるを恐る。兵革は難を静むる所以なるも、寇者は之を盗みて以て難を為す。此れ皆な君有るの致す所なり。民に利する所有れば、則ち争心有り。富貴の家は、利する所重し。且つ夫れ細民の争いは、小小に過ぎず。匹夫力を校ぶるも、亦た何の至る所あらん。疆土の貪る可きなく、城郭の利とす可きなく、金宝の欲す可きなく、権柄の競う可きなく、勢は以て徒衆を合わす能わず、威は以て異人を駆るに足らず。孰ぞ王の赫斯として怒り、師を陳べ旅を鞠め、無讎の民を推し、無罪の国を攻め、僵屍は則ち動もすれば万を以て計え、流血は則ち櫓を漂わせ野を丹くするに与らんや。無道の君は、世として有らざる無く、其の虐乱を肆にし、天下に邦無く、忠良は内に害せられ、黎民は外に骨を暴す。豈に徒に小小の争奪の患のみならんや。父を移して君に事え、孝を廃して忠と為し、令を申ねて君無きに至りては、亦た同じく之有るのみ。古の屋を為るや、以て風雨を蔽うに足り、而るに今は則ち被うに朱紫を以てし、飾るに金玉を以てす。古の衣を為るや、以て身形を掩うに足り、而るに今は則ち玄黄黼黻、綿綺紈。古の楽を為るや、以て人情を定むるに足り、而るに今は則ち淫声に煩わしく、魂を驚かし和を傷む。古の飲食は、以て饑虚を充たすに足り、而るに今は則ち林を焚き淵を漉い、群生を宰割す。
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抱朴子外篇・詰鮑然れども士庶は猶お侯服鼎食し、牛馬沢を蓋う、賦斂に節有りて、下を損なうに足らざるに由る。季世に至りては、官は佃課の制を失い、私は浮末の業を務め、穀を生ずるの道広からず、而して遊食の徒滋ます多し。故に上下同じく之にして、非を犯す者衆し。鮑生乃ち咎を有君に帰す。若し夫れ辨擇の限りを過ぐるを譏り、農課の実ならざるを刺り、牛飲の三千を責め、履畝を太半に貶めば、但だ後宮をして周礼に依らしめ、租調横に加えざらしむれば、斯れ則ち可なり。必ず無君ならんや。夫れ一日晏く起くれば、則ち事に所を失う有り。即鹿に虞無くんば、維れ林中に入る、安くんぞ終に已む可けんや。宗統する所靡ければ、則ち君子は仰ぐ所を失い、兇人は其の志を得ん。網疏なるも猶お漏る、都て網無かる可けんや」と。
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