抱朴子外篇 / 酒誡
以少淩長,則鄉黨加重責矣;辱人父兄,則子弟將推刃矣;發人所諱,則壯士不能堪矣;計數深克,則醒者不能恕矣。起眾患於須臾,結百疒阿於膏肓。奔駟不能追既往之悔,思改而無自反之蹊。蓋智者所深防,而愚人所不免也。其為禍敗,不可勝載。然而歡集,莫之或釋,舉白盈耳,不論於能否。計瀝雨留於小余,以稽遲為輕己。傾匡註於所敬,殷勤變而成薄。勸之不持,督之不盡,怨色醜音所由而發也。
新字:以少淩長,則郷党加重責矣;辱人父兄,則子弟将推刃矣;発人所諱,則壮士不能堪矣;計数深克,則醒者不能恕矣。起衆患於須臾,結百疒阿於膏肓。奔駟不能追既往之悔,思改而無自反之蹊。蓋智者所深防,而愚人所不免也。其為禍敗,不可勝載。然而歓集,莫之或釈,舉白盈耳,不論於能否。計瀝雨留於小余,以稽遅為軽己。傾匡註於所敬,殷勤変而成薄。勧之不持,督之不尽,怨色醜音所由而発也。
書き下し
少を以て長を淩げば、則ち郷党は重き責めを加え、人の父兄を辱むれば、則ち子弟は将に刃を推さんとし、人の諱む所を発けば、則ち壮士も堪うる能わず、計数深く克すれば、則ち醒めたる者も恕す能わず。衆患を須臾に起こし、百疒阿を膏肓に結ぶ。奔駟も既往の悔いを追う能わず、改めんことを思えども自ら反る蹊無し。蓋し智者の深く防ぐ所にして、愚人の免れざる所なり。其の禍敗を為すこと、載するに勝う可からず。然れども歓集すれば、之を釈くもの或る莫く、挙白耳に盈ち、能否を論ぜず。瀝雨の小余に留まるを計り、稽遅を以て己を軽んずと為す。匡註を敬する所に傾け、殷勤変じて薄と成る。勧むるも持せず、督するも尽くさざれば、怨色・醜音の由りて発する所なり。
現代語訳
年少者が年長者を凌げば、郷里の人々は重い責めを加え、他人の父や兄を辱めれば、その子弟は刃を向けようとし、人の忌み嫌うことを暴けば、壮士でも堪えられず、細かい計算で厳しく責めれば、酔っていない者でも許せない。多くの災いが一瞬のうちに起こり、数々の病が体の奥深くに結ばれる。疾走する四頭立ての馬でも過ぎ去った後悔には追いつけず、改めようと思っても引き返す道がない。これは智者が深く警戒するところだが、愚かな者は免れない。その禍いと敗れは、書き尽くせない。それでも宴が盛り上がると、これを止める者は誰もなく、杯を挙げる声が耳に満ち、飲める者かどうかも問わない。杯に雫のようなわずかな余りが残るのを数え、飲むのが遅いと自分を軽んじていると見なす。杯を捧げる相手に傾け、丁寧だったものが変じて薄情となる。勧めても飲み干さず、促しても飲み尽くさなければ、怨みの顔色や醜い言葉が発する原因となる。
解説
この章句が説くこと
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抱朴子外篇・酒誡夫れ酒醴の近味は、病を生ずる毒物にして、毫分の細益無く、丘山の巨損有り。君子は以て徳を敗り、小人は以て罪を速くす。之に耽り之に惑えば、禍に及ばざること鮮し。世の士人も、亦其の然るを知れども、既に絶つ能わず、又節するを肯んぜず、心口の近欲を縦にし、災いを召く根源を軽んず。熱渇の冷を恣にするが似く、己に適うと雖も身危うし。小大の乱喪も、亦酒に非ざる罔し。然れども俗人は是れ酣し是れ湎し、其の初筵や、抑抑済済として、言希に容整い、《湛露》の「厭厭」を詠じ、「在鎬」の「愷楽」を歌い、「万寿」の觴を挙げ、「温克」の義を育う。日未だ晷を移さずして、体軽く耳熱し。夫れ琉璃・海螺の器並び用い、満酌・罰余の令遂に急なり。醉いて止まず、轄を拔きて井に投ず。
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抱朴子外篇・酒誡精濁り神乱れ、臧否顛倒す。或いは車を奔らせ馬を走らせ、阬谷に赴くを憚らず、九折の阪を以て蟲豈の封と為す。或いは危うきに登り頽るるを蹋み、墮墜すと雖も覚えず、呂梁の淵を以て牛跡と為す。或いは仇を器物に肆にし、或いは妻子に酗醟す。枉酷を臣仆に加え、剡鋒を六畜に用い、火烈を室廬に熾し、宝玩を淵流に掊つ。威怒を路人に遷し、暴害を士友に加う。嚴主を褻して以て夷戮せらるる者有り、兇人を犯して困しめらるる者有り。言は辞を尚ぶと雖も、煩わしくして理に叛き、拝伏徒に多く、労悲は敬に非ず。臣子は君親の前に礼を失い、幼賤は耆宿の坐に悖慢す。清談を謂いて詆詈と為し、忠告を以て己を侵すと為す。是に於いて白刃抽かれて難を思うの慮りを忘れ、棒杖奮いて前後を顧みる罔し。漉血の讎を構え、大辟の禍を招く。
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抱朴子外篇・酒誡是に於いて口は湧き鼻は溢れ、首を濡らして乱に及ぶ。屢ば舞いて躚躚として、其の坐を舍てて遷り、載ち号び載ち呶ぎ、沸くが如く羹の如し。或いは辞を争いて勝つを尚び、或いは啞啞として独り笑い、或いは対無くして談じ、或いは几筵に嘔吐し、或いは厥の足の良き倡に値い、或いは冠脱ぎ帯解く。貞良なる者は華督の顧眄を流し、怯懦なる者は慶忌の蕃捷に效い、遅重なる者は蓬のごとく転じて波のごとく擾れ、整粛なる者は鹿のごとく踴り魚のごとく躍る。寒暑に口訥なる者は、皆掌を搖らして声を譜し、謙卑して競わざる者は、悉く裨瞻して高交す。廉恥の儀毀れ、荒錯の疾発し、阘茸の性露われ、傲佷の態出ず。
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抱朴子外篇・酒誡夫れ風の府藏を経るや、人をして惚怳たらしめ、其の劇しきに及べば、自ら傷つき自ら虞る。或いは斯の疾に遇えば、憂懼せざる莫く、苦しみを吞み痛みを忍び、其の速やかに愈えんことを欲す。醉いの性を病ましむるに至りては、何ぞ茲に異ならん。而るに独り居り密にして以て風を逃れ、情を割きて以て酒を節する能わず。若し酒を畏るること風を畏るるが如く、醉いを憎むこと病を憎むが如くならば、則ち荒沈の咎塞がり、流連の失止まん。夫れ風の疾たる、猶お攻治を展ぶ。酒の変たる、呼吸に在り。其の悶乱に及べば、存するが若く亡きが若く、泰山を視ること弾丸の如く、滄海を見ること盤盂の如く、仰ぎて天の墮つるを嚾び、俯して地の陥るを呼び、臥して虎狼を待ち、井に投じ火に赴きて、悪と謂わず。夫れ身を用うること此くの如くんば、亦安んぞ能く敬恭の礼を惜しみ、喜怒の失を護らんや。
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抱朴子外篇・疾謬抱樸子曰く、世故継いで有り、礼教漸く頽る。敬譲崇ぶ莫く、傲慢俗と成る。儔類の飲会、或いは蹲り或いは踞す。暑夏の月、首を露わにし体を袒にす。盛務は唯だ摴草捕弾棋に在り、論ずる所は声色の間に極まり、足を挙げて綺繻紈袴の側を離れず、遊歩して勢利酒客の門を去らず。清談講道の言を聞かず、専ら醜辞嘲弄を以て先と為す。此くの如き者を以て高遠と為し、爾らざる者を以て騃野と為す。是に於いて馳逐の庸民、偶俗の近人、之を慕う者は猶お宵虫の明燭に赴くがごとく、之を学ぶ者は猶お軽毛の飈風に応ずるがごとし。嘲戯の談、或いは上は祖考に及び、或いは下は婦女に逮ぶ。往く者は其の必ず深からんことを務め、報ずる者は其の重からざらんことを恐る。倡うる者は答えらるる後の患を慮らず、和する者は軽きを言いて塞がざるを恥ず。周禾の芟、温麦の刈は、実に報恨に由りて、已む能わざるなり。利口の者は強を扶けて勢に党し、弁給の者は鍒を借りて瞂を刺す。応えざる者を以て拙劣と為し、先に止む者を以て負敗と為す。此くの如くんば、交悪の辞、焉んぞ黙す能わんや。
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抱朴子外篇・酒誡管輅は年少にして、劇談に当たるを希い、故に酒勢を仮りて以て胆気を助く。若し其の量を過ぐれば、亦た必ず迷い錯る。其の毫厘を爻卦に刺し、鬼神の変化を索め、気色を占いて盛衰を決し、鳴鳥を聆きて方に来たるを知り、風雲を候いて吉凶に克ち、碑柏を観て禍福を識るに及びては、豈に復た酒を須ちて、然る後に之を審らかにせんや。揚雲は通人にして、才高く思い遠く、英贍の富は、天より稟く、豈に外物を藉りて、以て著述を助けんや。其の数ば飲むに及びては、偶ま好むに由る。亦或いは疾有り、薬勢に宜しきを以てのみ。子圉の志を肆にするは、蓋し已に素より定まる。復た醉わずと雖も、亦た終に果たす。瓶醪の衆を悦ばすは、寓言の喩えなり。誠に能く賞罰允当、威恩所を得、長算縦横、機に応じて方無くんば、則ち士は果毅を思い、人は命を奮うを楽しむ。其れ然らざれば、酒を淵に流すと雖も、何ぞ勝負を補わん。繆公の盗に飲ましむるは、造次の権、法を舍て悪を長ずる、何ぞ多とするに足らんや。豈に之を慎むに如かんや。
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