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秘本玉くしげ / 上 由来を忘れた武士

然るに今の武士は、古への定めの分量をも考へず、次第に多くなりぬるわけをも思はずして、ただ本より今の如くに上るべきはづの物と心得居て、みだりに百姓をしへたげ苦しむる國もよそには有ときくは、いかなる事ぞや。

新字:然るに今の武士は、古への定めの分量をも考へず、次第に多くなりぬるわけをも思はずして、ただ本より今の如くに上るべきはづの物と心得居て、みだりに百姓をしへたげ苦しむる国もよそには有ときくは、いかなる事ぞや。

書き下し

然るに今の武士は、古への定めの分量をも考へず、次第に多くなりぬるわけをも思はずして、ただ本より今の如くに上るべきはづの物と心得居て、みだりに百姓をしへたげ苦しむる国もよそには有ときくは、いかなる事ぞや。

現代語訳

それなのに今の武士は、昔の定めの分量をも考えず、次第に多くなってきたわけをも思わずに、ただもとから今のように上納するはずの物と心得ていて、むやみに百姓を虐げ苦しめる国もよそにはあると聞くのは、どういうことか。

解説

年貢の由来をたどった宣長は、ここで今の武士を叱る。昔の定めの分量も、年貢が戦国の必要から膨らんだ経緯も考えず、もとからこれだけ取るのが当然と思い込み、みだりに百姓を虐げる国がよそにはあると聞く、と。「よそには」と他国の話に仕立てるのは献言の作法だが、紀州藩の役人にも向けた戒めであることは明らかである。由来を知らなければ、重い負担も当たり前に見え、取り立てる側に遠慮がなくなる。歴史を学ぶことが、支配する側の驕りを抑える力になるという宣長の考えがよく表れている。取引先や部下に課している負担を、当然の権利と思い込んでいないだろうか。

この章句が説くこと

年貢百姓武士虐げ由来

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