秘本玉くしげ / 上 一度御目に
さて又、我我ごとき者の申事、百千に一つも取用ひさせ玉はんことなどは思ひもかけ奉らず、ただ願はくは、かりにも一たび御目にふれさせられて、御咎だになくば僕が大幸也。
書き下し
さて又、我我ごとき者の申事、百千に一つも取用ひさせ玉はんことなどは思ひもかけ奉らず、ただ願はくは、かりにも一たび御目にふれさせられて、御咎だになくば僕が大幸也。
現代語訳
さてまた、私どものような者の申すことを、百千に一つでもお取り用いくださるなどとは思いもかけ申し上げない。ただ願わくは、かりにも一度お目に触れさせていただき、お咎めさえなければ、私にとって大いなる幸いである。
解説
献言の序の続きで、宣長は自分の意見が採用されることを期待していないと断る。「百千に一つも」取り用いられるとは思わない、一度目に触れて咎めがなければ幸いだ、という。謙遜の定型ではあるが、ここには献言する者の覚悟も見える。採用を当てにしないからこそ、相手の機嫌をうかがわずに書ける。実際、続く本文では、大名の身分の重さや年貢の重さ、一揆の責任が上にあることまで、藩主にとって耳の痛いことを遠慮なく述べていく。聞き入れられることを条件にしない進言は強い。聞き入れられたいばかりに言葉を丸めていないか、進言する側もまた問われている。
この章句が説くこと
献言謙遜進言覚悟藩主
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