碧巌録 / 第五十七則
似海之深 如山之固蚊虻弄空裏猛風螻蟻撼於鐵柱 揀兮擇兮當軒布鼓
新字:似海之深 如山之固蚊虻弄空裏猛風螻蟻撼於鉄柱 揀兮択兮当軒布鼓
書き下し
海の深きに似、山の固きが如し。蚊虻空裏の猛風を弄し、螻蟻鉄柱を撼かす。揀びや択びや、当軒の布鼓。
現代語訳
海のように深く、山のように固い。蚊や虻が空に吹く猛風をもてあそび、オケラや蟻が鉄の柱を揺り動かそうとする。選ぶの選ばないのと言っても、軒先の布の太鼓のように鳴りはしない。
解説
雪竇が第五十七則に付けた頌である。冒頭の「海の深きに似、山の固きが如し」は、揀択を超えた趙州の境地、あるいは至道そのものの揺るがなさを讃えている。その前で「此れ猶ほ是れ揀択」と挑んだ僧は、蚊や虻が猛風をもてあそび、虫けらが鉄柱を揺さぶろうとするようなものだと詠む。最後の「当軒の布鼓」は、布を張った太鼓は打っても鳴らないことから、選ぶ選ばないの議論は空しいと示す。理屈で大きな相手に挑む勇気は買えても、立っている場所が違えば響かないことを知る必要がある。
この章句が説くこと
雪竇頌揀択趙州布鼓不動
関連する章句
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『碧巌録』第五十七則雪竇両句を注して云く、「海の深きに似、山の固きが如し」と。僧云く、「此れ猶ほ是れ揀択」。雪竇道ふ、這の僧は一に蚊虻の空裏の猛風を弄し、螻蟻の鉄柱を撼かすに似たりと。雪竇は他の胆の大なるを賞す。何が故ぞ。此れは是れ上頭の人の用ふる底なるに、他敢へて恁麼に道ふ。趙州作ち他を放さず、便ち云く、「田厙奴、什麼の処か是れ揀択」。豈に是れ猛風鉄柱ならずや。「揀びや択びや、当軒の布鼓」。雪竇末後に提起して活せしむ。若し識得して明白ならば、十分に爾自ら将ち来たり了れり。何が故ぞ。見ずや道ふ、「親切を得んと欲せば、問を将つて来たり問ふこと莫かれ」と。是の故に当軒の布鼓なり。
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『碧巌録』第五十二則孤危立せずして道方に高し、海に入つては還た須らく巨鼇を釣るべし。笑ふに堪へたり同時の灌渓老、解く劈箭と云ふも亦た徒労。
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『碧巌録』第五十二則「孤危立せずして道方に高し」。雪竇、趙州の尋常人の為にする処を頌す。玄妙を立せず、孤危を立せず。諸方の、虚空を打破し、須弥を撃砕し、海底に塵を生じ、須弥に浪を鼓して、方に他の祖師の道に称ふと道ふに似ず。所以に雪竇道ふ、「孤危立せずして道方に高し」と。壁立万仞は、仏法の奇特霊験を顕す。孤危峭峻なりと雖も、孤危を立せざるには如かず。但だ平常自然に転轆轆地にして、立せずして自ら立し、高からずして自ら高し。機、孤危を出でて方に玄妙を見る。所以に雪竇云く、「海に入つては還た須らく巨鼇を釣るべし」と。看よ他の具眼の宗師、等閑に一語を垂れ一機を用ふるに、鰕蜆螺蚌を釣らず、直に巨鼇を釣る。也た妨げず是れ作家なることを。
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『碧巌録』第五十七則僧、趙州に問ふ、「至道無難、唯嫌揀択」。三祖の信心銘、劈頭に便ち這の両句を道ふ。多少の人有りて錯会す。何が故ぞ。至道は本と難無く、亦た難からざるも無し。只だ是れ唯だ揀択を嫌ふのみ。若し恁麼に会せば、一万年も也た未だ夢にも見ざること在り。趙州常に此の語を以て人に問ふ。這の僧此の語を将つて、倒に去いて他に問ふ。若し語上に向かつて覓めば、此の僧却つて天を驚かし地を動かす。若し語句の上に在らずんば、又た且く如何。更に参ぜよ三十年。這箇些子の関捩子、須らく是れ転得して始めて解すべし。虎鬚を捋づるも也た須らく是れ本分の手段にして始めて得べし。這の僧も也た危亡を顧みず、敢へて虎鬚を捋でて便ち道ふ、「此れ猶ほ是れ揀択」。趙州劈口に便ち塞いで道ふ、「田厙奴、什麼の処か是れ揀択」。若し別底に問著せば、便ち脚忙手乱を見ん。争奈せん這の老漢是れ作家なることを。動き得ざる処に向かつて動き、転じ得ざる処に向かつて転ず。爾若し一切の悪毒の言句を透得せば、乃至千差万状、世間の戯論も、皆是れ醍醐の上味なり。若し著実の処に到らば、方に趙州の赤心片片なることを見ん。田厙奴は、乃ち福唐の人の郷語にて人を罵る、意智無きに相似たり。這の僧「此れ猶ほ是れ揀択」と道ひ、趙州「田厙奴、什麼の処か是れ揀択」と道ふ。宗師の眼目、須らく恁麼に至るべし。金翅鳥の海を擘いて直に竜を取つて呑むが如し。雪竇頌して云く。
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