碧巌録 / 第三十五則
無著遊五臺。至中路荒僻處。文殊化一寺。接他宿。遂問。近離甚處。著云。南方。殊云。南方佛法。如何住持。著云。末法比丘。少奉戒律。殊云。多少眾。著云。或三百或五百。無著却問文殊。此間如何住持。殊云。凡聖同居龍蛇混雜。著云。多少眾。殊云。前三三後三三。却喫茶。文殊舉起玻璃盞子云。南方還有這箇麼。著云。無。殊云。尋常將什麼喫茶。著無語遂辭去。文殊令均提童子。送出門首。無著問童子云。適來道前三三後三三。是多少。童子云。大德著應喏。童子云。是多少。又問此是何寺。童子指金剛後面。著回首。化寺童子。悉隱不見。只是空谷。彼處後來謂之金剛窟。
新字:無著遊五台。至中路荒僻処。文殊化一寺。接他宿。遂問。近離甚処。著云。南方。殊云。南方仏法。如何住持。著云。末法比丘。少奉戒律。殊云。多少衆。著云。或三百或五百。無著却問文殊。此間如何住持。殊云。凡聖同居竜蛇混雑。著云。多少衆。殊云。前三三後三三。却喫茶。文殊舉起玻璃盞子云。南方還有這箇麼。著云。無。殊云。尋常将什麼喫茶。著無語遂辞去。文殊令均提童子。送出門首。無著問童子云。適来道前三三後三三。是多少。童子云。大徳著応喏。童子云。是多少。又問此是何寺。童子指金剛後面。著回首。化寺童子。悉隠不見。只是空谷。彼処後来謂之金剛窟。
書き下し
無著五台に遊び、中路の荒僻の処に至る。文殊一寺を化して、他を接して宿せしむ。遂に問ふ、近離甚れの処ぞ。著云く、南方。殊云く、南方の仏法、如何が住持す。著云く、末法の比丘、少しく戒律を奉ず。殊云く、多少の衆ぞ。著云く、或いは三百、或いは五百。無著却つて文殊に問ふ、此間は如何が住持す。殊云く、凡聖同居し、龍蛇混雑す。著云く、多少の衆ぞ。殊云く、前三三後三三。却つて茶を喫す。文殊玻璃の盞子を挙起して云く、南方還た這箇有りや。著云く、無し。殊云く、尋常什麼を将てか茶を喫す。著無語、遂に辞し去る。文殊均提童子をして、送りて門首に出でしむ。無著童子に問うて云く、適来前三三後三三と道ふ、是れ多少ぞ。童子云く、大徳と。著応喏す。童子云く、是れ多少ぞと。又問ふ、此れは是れ何の寺ぞ。童子金剛の後面を指す。著首を回らせば、化寺童子、悉く隠れて見えず、只だ是れ空谷なり。彼処後来之を金剛窟と謂ふ。
現代語訳
無著は五台山に参ろうとして、途中の荒れた人里離れたところに来た。文殊は一つの寺を化現させて、彼を迎え入れて泊めた。そして問うた、「どこから来たのか」。無著は言った、「南方からです」。文殊は言った、「南方の仏法は、どのように保たれているか」。無著は言った、「末法の比丘たちが、少しばかり戒律を守っております」。文殊は言った、「人数はどれほどか」。無著は言った、「三百人のところもあれば、五百人のところもあります」。無著が逆に文殊に問うた、「こちらではどのように保たれていますか」。文殊は言った、「凡夫と聖者がともに住み、龍と蛇が入り混じっている」。無著は言った、「人数はどれほどですか」。文殊は言った、「前に三三、後ろに三三」。そこで茶を飲んだ。文殊は玻璃の茶碗を持ち上げて言った、「南方にもこれがあるか」。無著は言った、「ありません」。文殊は言った、「ふだんは何で茶を飲んでいるのか」。無著は答えられず、そのまま辞去した。文殊は均提童子に門口まで送らせた。無著は童子に問うた、「さきほど前に三三後ろに三三と言われたが、いくつのことですか」。童子は「大徳」と呼びかけた。無著が「はい」と応じると、童子は言った、「これはいくつですか」。無著がまた問うた、「ここは何という寺ですか」。童子は金剛力士像の後ろを指さした。無著が振り返ると、化現した寺も童子もすべて消えて見えず、ただ空っぽの谷があるだけだった。そこはのちに金剛窟と呼ばれた。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『碧巌録』第三十五則挙す。文殊無著に問ふ、近離什麼の処ぞ。無著云く、南方。殊云く、南方の仏法、如何が住持す。著云く、末法の比丘、少しく戒律を奉ず。殊云く、多少の衆ぞ。著云く、或いは三百、或いは五百。無著文殊に問ふ、此間は如何が住持す。殊云く、凡聖同居し、龍蛇混雑す。著云く、多少の衆ぞ。殊云く、前三三後三三。
-
『碧巌録』第三十五則雪竇只だ明招底を改めて用ゐる。却つて針線有り。千峰盤屈して色藍の如し。更に鋒を傷つけ手を犯さず。句中に権有り実有り、理有り事有り。誰か謂ふ文殊是れ対談すと。一夜対談して、是れ文殊なることを知らず。後来無著、五台山に在りて典座と作る。文殊毎に粥鍋上に現ず。無著に粥を攪ぜる篦を拈じて便ち打たる。是の如くなりと雖然も、也た是れ賊過ぎて後に弓を張る。当時他が南方の仏法如何が住持すと道ふを等ちて、脊を劈いて便ち棒せば、猶ほ些子に較れり。笑ふに堪へたり清涼多少の衆。雪竇は笑中に刀有り。若し這の笑ふ処を会得せば、便ち他の前三三と後三三とを道ふことを見ん。
-
『碧巌録』第三十五則後に僧有りて風穴に問ふ、如何なるか是れ清涼山中の主。穴云く、一句無著の問ふに遑あらず、迄今猶ほ野盤の僧と作ると。若し参透せんと要せば、平平実実、脚実地を踏みて、無著の言下に向いて薦得せよ。自然に鑊湯炉炭の中に居るも、亦た熱を聞かず。寒氷の上に居るも亦た冷を聞かず。若し参透せんと要せば、孤危峭峻にして、金剛王宝剣の如くならしめ、文殊の言下に向いて薦取せよ。自然に水灑げども著かず、風吹けども入らず。見ずや、漳州の地蔵僧に問ふ、近離甚れの処ぞ。僧云く、南方。蔵云く、彼中の仏法如何。僧云く、商量浩浩地。蔵云く、争でか似かん我が這裏に田を種ゑ飯を博して喫せんにはと。且く道へ、文殊の答ふる処と、是れ同か是れ別か。有る底は道ふ、無著の答ふる処は不是、文殊の答ふる処は也た龍有り蛇有り、凡有り聖有りと。什麼の交渉か有らん。還た前三三後三三を辨明し得るや。前箭は猶ほ軽く後箭は深し。且く道へ、是れ多少ぞ。若し這裏に向いて透得せば、千句万句も、只だ是れ一句。若し此の一句の下に向いて、截得断し把得住せば、相次いで這の境界に到らん。
-
『碧巌録』第三十五則千峰盤屈して色藍の如し、誰か謂ふ文殊是れ対談すと。笑ふに堪へたり清涼多少の衆、前三三と後三三と。
-
『碧巌録』第三十五則千峰盤屈して色藍の如し、誰か謂ふ文殊是れ対談すと。有る者は道ふ、雪竇は只だ是れ重ねて拈ずること一遍、曾て頌著せずと。只如ば僧法眼に問ふ、如何なるか是れ曹源の一滴水。眼云く、是れ曹源の一滴水と。又僧瑯琊の覚和尚に問ふ、清浄本然、云何ぞ忽ちに山河大地を生ずる。覚云く、清浄本然、云何ぞ忽ちに山河大地を生ずると。喚んで重ねて拈ずること一遍と作すべからず。明招独眼龍も亦た其の意を頌す。蓋天蓋地の機有りて道ふ、廓周沙界勝伽藍、満目の文殊是れ対談す。言下に知らず仏眼を開くことを、頭を回らせば只だ見る翠山の巌と。廓周沙界勝伽藍とは、此れ草窟の化寺を指す。所謂権実双行の機有り。満目の文殊是れ対談す、言下に知らず仏眼を開くことを、頭を回らせば只だ見る翠山の巌。正当恁麼の時、喚んで文殊・普賢・観音の境界と作して得んや。要且つ是れ這箇の道理にあらず。
-
『碧巌録』第三十六則因みに一日遊山して帰る。首座も亦た是れ他の会下の人なり。便ち問ふ、和尚什麼の処にか去来す。沙云く、遊山し来る。座云く、什麼の処にか到り去来す。沙云く、始めは芳草に随ひて去り、又落花を逐うて回る。須らく是れ十方を坐断する底の人にして始めて得べし。古人の出入、未だ嘗て此の事を以て念と為さずんばあらず。看よ他の賓主互換し、当機直截にして、各相饒さざることを。既に是れ遊山す、什麼としてか却つて問うて道ふ、什麼の処にか到り去来すと。若し是れ如今の禅和子ならば、便ち道はん、夾山亭に到り来ると。看よ他の古人は、糸毫の道理計較無く、亦た住著の処無し。所以に道ふ、始めは芳草に随ひて去り、又落花を逐うて回ると。首座便ち他の意に随ひて、他に向かつて道ふ、大いに春意に似たりと。沙云く、也た秋露の芙蕖に滴るに勝れりと。雪竇云く、答語を謝すと。末後の語に代ふるなり。也た両辺に落つ。畢竟這の両辺に在らず。昔張拙秀才有り、千仏名経を看て、乃ち問ふ、百千の諸仏、但だ其の名を聞くのみ、未審し何れの国土にか居る、還た物を化するや也た無しや。沙云く、黄鶴楼に崔顥詩を題して後、秀才曾て題するや也た未だしや。拙云く、未だ曾て題せず。沙云く、閑を得ば一篇を題取するも也た好しと。岑大虫は平生人の為にするに、直に珠回り玉転ずることを得て、人の当面に便ち会せんことを要す。頌に云く、
人生の答えは、ぜんぶ古典に書いてあった。
古典の入門書『人生の教科書』(PDF)と、師導の全機能1か月がセットで700円。二十四の悩みに、論語・老子・孫子から徒然草・五輪書までが答えます。
本の中身を見る