碧巌録 / 第十九則
無業云。祖師觀此土有大乘根器。唯單傳心印。指示迷塗。得之者不揀愚之與智。凡之與聖且多虛不如少實。大丈夫漢。即今直下休歇去。頓息萬緣去。超生死流。逈出常格。縱有眷屬莊嚴。不求自得。無業一生凡有所問。只道莫妄想。所以道。一處透。千處萬處一時透。一機明。千機萬機一時明。如今人總不恁麼。只管恣意情解。不會他古人省要處。他豈不是無機關轉換處。為什麼只用一指頭。須知俱胝到這裏。有深密為人處。要會得省力麼。還他圓明道寒則普天普地寒。熱則普天普地熱。山河大地。通上孤危。萬象森羅。徹下嶮峻什麼處得一指頭禪來。
新字:無業云。祖師観此土有大乗根器。唯単伝心印。指示迷塗。得之者不揀愚之与智。凡之与聖且多虚不如少実。大丈夫漢。即今直下休歇去。頓息万縁去。超生死流。逈出常格。縦有眷属荘厳。不求自得。無業一生凡有所問。只道莫妄想。所以道。一処透。千処万処一時透。一機明。千機万機一時明。如今人総不恁麼。只管恣意情解。不会他古人省要処。他豈不是無機関転換処。為什麼只用一指頭。須知倶胝到這裏。有深密為人処。要会得省力麼。還他円明道寒則普天普地寒。熱則普天普地熱。山河大地。通上孤危。万象森羅。徹下嶮峻什麼処得一指頭禅来。
書き下し
無業云く、祖師此の土に大乗の根器有るを観て、唯だ単に心印を伝へて迷塗を指示す。之を得る者は、愚と智と、凡と聖とを揀ばず。且つ多虚は少実に如かず。大丈夫の漢、即今直下に休歇し去り、頓に万縁を息め去りて、生死の流れを超え、逈かに常格を出づ。縦ひ眷属荘厳有るも、求めずして自ら得んと。無業一生凡そ所問有れば、只だ妄想すること莫かれと道ふ。所以に道ふ、一処透れば、千処万処一時に透る。一機明らかなれば、千機万機一時に明らかなりと。如今の人総て恁麼ならず、只管に恣意に情解して、他の古人の省要の処を会せず。他豈に是れ機関転換の処無からんや。什麼としてか只だ一指頭を用ゐる。須らく知るべし、倶胝這裏に到りて、深密に人の為にする処有ることを。省力を会得せんと要すや。他の円明の道ふを還せ、寒き時は則ち普天普地寒く、熱き時は則ち普天普地熱し。山河大地、上に通じて孤危、万象森羅、下に徹して嶮峻と。什麼の処にか一指頭の禅を得来たらん。
現代語訳
無業は言った。「祖師はこの国に大乗の器を持つ者がいるのを見て、ただひとすじに心の印を伝え、迷いの道を指し示した。これを得る者は、愚か者か賢い者か、凡人か聖人かを選ばない。それに、虚しいことが多いのは、真実が少しあることに及ばない。一人前の男なら、今ここでただちに休み止み、一度にあらゆる縁を断って、生死の流れを超え、はるかに世の常の枠を出よ。たとえ眷属や荘厳があっても、求めずしておのずと得られるだろう」。無業は生涯、何を問われても、ただ「妄想するな」と言った。だから「一か所透れば、千か所万か所が一度に透る。一つの働きが明らかになれば、千万の働きが一度に明らかになる」と言う。今の人はみなそうではなく、ひたすら勝手に情で解釈して、古人の肝要なところを理解しない。倶胝にどうして仕掛けを転換する働きがなかっただろうか。なぜただ一本の指だけを用いたのか。知っておくべきである、倶胝はここに至って、深く細やかに人のために尽くしているところがあるのだ。手間を省いてわかりたいか。円明が言ったことを返してよこせ。「寒いときは天も地もすべて寒く、暑いときは天も地もすべて暑い。山河大地は上に通じて孤高で危うく、森羅万象は下に貫いて険しい」。どこから一指頭の禅を得て来るのか。
解説
この章句が説くこと
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『碧巌録』第十九則長慶道ふ、美食も飽人の喫に中らず。玄沙道ふ、我当時若し見ば、指頭を拗折せん。玄覚云く、玄沙恁麼に道ふ、意作麼生。雲居の錫云く、只だ玄沙の恁麼に道ふが如きは、是れ伊を肯ふか、是れ伊を肯はざるか。若し伊を肯はば、何ぞ指頭を拗折せんと言ふ。若し伊を肯はずんば、倶胝の過什麼の処にか在る。先の曹山云く、倶胝承当の処莽鹵、只だ一機一境を認得す。一等に是れ拍手撫掌、他の西園の奇怪を見る。玄覚又云く、且く道へ、倶胝還た悟るや未だしや。什麼としてか承当の処莽鹵なる。若し是れ悟らずんば、又平生只だ一指頭の禅を用ゐて尽きずと道ふ。且く道へ、曹山の意什麼の処にか在る。当時倶胝実然に会せず。他の悟後に到るに及んで、凡そ所問有れば只だ一指を竪つ。什麼に因りてか千人万人羅籠すれども住まらず、他を撲てども破れざる。爾若し用ゐて指頭の会を作さば、決定して古人の意を見ず。這般の禅は参じ易く、只だ是れ会し難し。如今の人纔かに問著すれば、也た指を竪て拳を竪つ。只だ是れ精魂を弄するのみ。也た須らく是れ骨に徹し髄に徹して、見透して始めて得べし。
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『碧巌録』第十九則垂示に云く、一塵挙がれば大地収まり、一花開けば世界起こる。只だ塵未だ挙がらず花未だ開かざる時の如きは、如何が眼を著けん。所以に道ふ、一綟の糸を斬るが如し、一斬一切斬。一綟の糸を染むるが如し、一染一切染。只如今便ち葛藤を将て截断し、自己の家珍を運出せば、高低普く応じ、前後差無く、各各現成す。儻或し未だ然らずんば、下文を看取せよ。挙す。倶胝和尚、凡そ所問有れば只だ一指を竪つ。
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『碧巌録』第十九則若し指頭上に向かつて会せば、則ち倶胝に辜負す。若し指頭上に向かつて会せずんば、則ち生鉄もて鋳就するが如くに相似たり。会するも也た恁麼にし去り、会せざるも也た恁麼にし去る。高きも也た恁麼にし去り、低きも也た恁麼にし去る。是も也た恁麼にし去り、非も也た恁麼にし去る。所以に道ふ、一塵纔かに起これば大地全く収まり、一花開かんと欲すれば世界便ち起こる。一毛頭の獅子、百億の毛頭に現ずと。円明道ふ、寒き時は則ち普天普地寒く、熱き時は則ち普天普地熱し。山河大地、下黄泉に徹し、万象森羅、上霄漢に通ずと。且く道へ、是れ什麼物か恁麼に奇怪なることを得たる。若也し識得せば、一揑を消ひず。若し識り得ずんば、礙塞殺人。倶胝和尚は乃ち婺州金華の人なり。初め庵に住せし時、一尼有り、名は実際。庵に到りて直に入り、更に笠を下ろさず、錫を持して禅床を遶ること三匝して云く、道ひ得ば即ち笠を下ろさん。是の如く三たび問ふ。倶胝対ふる無し。尼便ち去る。倶胝曰く、天勢稍晩し、且く留まりて一宿せよ。尼曰く、道ひ得ば即ち宿らん。胝又対ふる無し。尼便ち行く。胝嘆じて曰く、我丈夫の形に処すと雖も、丈夫の気無し。遂に発憤して此の事を明らめんことを要し、庵を棄てて諸方に往きて参請せんと擬し、行脚を打畳す。其の夜山神告げて曰く、此を離るることを須ゐず。来日肉身の菩薩有り、来たりて和尚の為に法を説かん。去ることを須ゐず。果して是れ次の日、天龍和尚庵に到る。胝乃ち迎へて礼し、具に前事を陳ぶ。天龍只だ一指を竪てて之に示す。倶胝忽然として大悟す。是れ他当時鄭重専注す、所以に桶底脱し易し。後来凡そ所問有れば、只だ一指を竪つ。
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『碧巌録』第十九則倶胝の庵中に一童子有り。外に於て人に詰られて曰く、和尚尋常何の法を以てか人に示す。童子指頭を竪起す。帰りて師に挙似す。倶胝刀を以て其の指を断つ。童子叫喚して走り出づ。倶胝召すこと一声。童子首を回らす。倶胝却つて指頭を竪起す。童子豁然として領解す。且く道へ、箇の什麼の道理をか見る。遷化に至るに及んで、衆に謂ひて曰く、吾天龍の一指頭の禅を得て、平生用ゐて尽きず。会せんと要すや。指頭を竪起して便ち脱去す。後来明招独眼龍、国泰の深師叔に問うて云く、古人道ふ、倶胝只だ三行の呪を念じて、便ち名一切の人に超ゆることを得たりと。作麼生か他の与に三行の呪を拈却せん。深も亦た一指頭を竪起す。招云く、今日に因らずんば、争でか這の瓜州の客を識り得ん。且く道へ、意作麼生。秘魔は平生只だ一杈を用ゐる。打地和尚は凡そ所問有れば只だ地を打つこと一下す。後に人に他の棒を蔵却せられて、却つて問ふ、如何なるか是れ仏。他只だ口を張る。亦た是れ一生用ゐて尽きず。
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『碧巌録』第一則達磨遥かに此の土に大乗の根器有ることを観て、遂に海に泛んで得得として来り、単に心印を伝へ、迷塗を開示す。文字を立てず、直に人心を指し、見性成仏せしむ。若し恁麼に見得せば、便ち自由の分有り、一切の語言に随つて転ぜられず、脱体現成す。便ち能く後頭に於て武帝と対譚し、并びに二祖安心の処も、自然に見得せん。計較の情塵無く、一刀に截断して洒洒落落たり。何ぞ必ずしも更に是を分ち非を分ち、得を弁じ失を弁ぜん。然も恁麼なりと雖も、能く幾人か有る。
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