碧巌録 / 第十九則
俱胝庵中有一童子。於外被人詰曰。和尚尋常以何法示人。童子竪起指頭。歸而舉似師。俱胝以刀斷其指。童子叫喚走出。俱胝召一聲。童子回首。俱胝却竪起指頭。童子豁然領解。且道見箇什麼道理。及至遷化。謂眾曰。吾得天龍一指頭禪。平生用不盡。要會麼。竪起指頭便脫去後來明招獨眼龍問國泰深師叔云。古人道。俱胝只念三行呪。便得名超一切人。作麼生與他拈却三行呪。深亦竪起一指頭。招云。不因今日。爭識得這瓜州客。且道。意作麼生。祕魔平生。只用一杈。打地和尚凡有所問。只打地一下。後被人藏却他棒。却問如何是佛。他只張口。亦是一生用不盡。
新字:倶胝庵中有一童子。於外被人詰曰。和尚尋常以何法示人。童子竪起指頭。帰而舉似師。倶胝以刀断其指。童子叫喚走出。倶胝召一声。童子回首。倶胝却竪起指頭。童子豁然領解。且道見箇什麼道理。及至遷化。謂衆曰。吾得天竜一指頭禅。平生用不尽。要会麼。竪起指頭便脱去後来明招独眼竜問国泰深師叔云。古人道。倶胝只念三行呪。便得名超一切人。作麼生与他拈却三行呪。深亦竪起一指頭。招云。不因今日。争識得這瓜州客。且道。意作麼生。秘魔平生。只用一杈。打地和尚凡有所問。只打地一下。後被人蔵却他棒。却問如何是仏。他只張口。亦是一生用不尽。
書き下し
倶胝の庵中に一童子有り。外に於て人に詰られて曰く、和尚尋常何の法を以てか人に示す。童子指頭を竪起す。帰りて師に挙似す。倶胝刀を以て其の指を断つ。童子叫喚して走り出づ。倶胝召すこと一声。童子首を回らす。倶胝却つて指頭を竪起す。童子豁然として領解す。且く道へ、箇の什麼の道理をか見る。遷化に至るに及んで、衆に謂ひて曰く、吾天龍の一指頭の禅を得て、平生用ゐて尽きず。会せんと要すや。指頭を竪起して便ち脱去す。後来明招独眼龍、国泰の深師叔に問うて云く、古人道ふ、倶胝只だ三行の呪を念じて、便ち名一切の人に超ゆることを得たりと。作麼生か他の与に三行の呪を拈却せん。深も亦た一指頭を竪起す。招云く、今日に因らずんば、争でか這の瓜州の客を識り得ん。且く道へ、意作麼生。秘魔は平生只だ一杈を用ゐる。打地和尚は凡そ所問有れば只だ地を打つこと一下す。後に人に他の棒を蔵却せられて、却つて問ふ、如何なるか是れ仏。他只だ口を張る。亦た是れ一生用ゐて尽きず。
現代語訳
倶胝の庵には一人の童子がいた。外で人に「和尚はふだんどんな法で人に示しているのか」と問い詰められると、童子は指を立てた。帰ってそれを師に話すと、倶胝は刀でその指を切り落とした。童子が叫び声をあげて走り出ると、倶胝は一声呼んだ。童子が振り返ると、倶胝は指を立てた。童子はからりと悟った。さあ言ってみよ、どんな道理を見たのか。倶胝は遷化に臨んで、大衆に言った。「わたしは天龍の一指頭の禅を得て、生涯用いても使い尽くせなかった。わかりたいか」。指を立てて、そのまま亡くなった。のちに独眼龍と呼ばれた明招が、国泰の深師叔に問うた。「古人は、倶胝はただ三行の呪文を唱えただけで、名声がすべての人を超えたと言っています。どうやって彼のためにその三行の呪文を取り除いてやれますか」。深もまた指を一本立てた。明招は「今日のことがなければ、どうしてこの瓜州の客がわかっただろうか」と言った。さあ言ってみよ、その意図はどういうことか。秘魔は生涯ただ一本の刺股を用いた。打地和尚は何を問われても、ただ地面を一度打った。のちに人に棒を隠されると、「仏とは何か」と問われて、ただ口を開けた。これもまた一生用いて使い尽くせなかったのである。
解説
この章句が説くこと
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『碧巌録』第十九則若し指頭上に向かつて会せば、則ち倶胝に辜負す。若し指頭上に向かつて会せずんば、則ち生鉄もて鋳就するが如くに相似たり。会するも也た恁麼にし去り、会せざるも也た恁麼にし去る。高きも也た恁麼にし去り、低きも也た恁麼にし去る。是も也た恁麼にし去り、非も也た恁麼にし去る。所以に道ふ、一塵纔かに起これば大地全く収まり、一花開かんと欲すれば世界便ち起こる。一毛頭の獅子、百億の毛頭に現ずと。円明道ふ、寒き時は則ち普天普地寒く、熱き時は則ち普天普地熱し。山河大地、下黄泉に徹し、万象森羅、上霄漢に通ずと。且く道へ、是れ什麼物か恁麼に奇怪なることを得たる。若也し識得せば、一揑を消ひず。若し識り得ずんば、礙塞殺人。倶胝和尚は乃ち婺州金華の人なり。初め庵に住せし時、一尼有り、名は実際。庵に到りて直に入り、更に笠を下ろさず、錫を持して禅床を遶ること三匝して云く、道ひ得ば即ち笠を下ろさん。是の如く三たび問ふ。倶胝対ふる無し。尼便ち去る。倶胝曰く、天勢稍晩し、且く留まりて一宿せよ。尼曰く、道ひ得ば即ち宿らん。胝又対ふる無し。尼便ち行く。胝嘆じて曰く、我丈夫の形に処すと雖も、丈夫の気無し。遂に発憤して此の事を明らめんことを要し、庵を棄てて諸方に往きて参請せんと擬し、行脚を打畳す。其の夜山神告げて曰く、此を離るることを須ゐず。来日肉身の菩薩有り、来たりて和尚の為に法を説かん。去ることを須ゐず。果して是れ次の日、天龍和尚庵に到る。胝乃ち迎へて礼し、具に前事を陳ぶ。天龍只だ一指を竪てて之に示す。倶胝忽然として大悟す。是れ他当時鄭重専注す、所以に桶底脱し易し。後来凡そ所問有れば、只だ一指を竪つ。
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『無門関』第三則 俱胝豎指俱胝(ぐてい)和尚、凡そ詰問有れば、唯だ一指を舉す。後に童子有り、外人の問ふに因る、「和尚何の法要をか說く」。童子も亦た指頭を豎(た)つ。胝聞き、遂に刃を以て其の指を斷つ。童子痛みを負ひ號哭して去る。胝復た之を召す。童子首を迴らす。胝卻って指を豎起す。童子忽然として領悟す。胝將(まさ)に順世せんとして、眾に謂ひて曰く、「吾れ天龍の一指頭禪を得て、一生受用するも盡きず」。言ひ訖(お)はりて示滅す。
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『碧巌録』第十九則長慶道ふ、美食も飽人の喫に中らず。玄沙道ふ、我当時若し見ば、指頭を拗折せん。玄覚云く、玄沙恁麼に道ふ、意作麼生。雲居の錫云く、只だ玄沙の恁麼に道ふが如きは、是れ伊を肯ふか、是れ伊を肯はざるか。若し伊を肯はば、何ぞ指頭を拗折せんと言ふ。若し伊を肯はずんば、倶胝の過什麼の処にか在る。先の曹山云く、倶胝承当の処莽鹵、只だ一機一境を認得す。一等に是れ拍手撫掌、他の西園の奇怪を見る。玄覚又云く、且く道へ、倶胝還た悟るや未だしや。什麼としてか承当の処莽鹵なる。若し是れ悟らずんば、又平生只だ一指頭の禅を用ゐて尽きずと道ふ。且く道へ、曹山の意什麼の処にか在る。当時倶胝実然に会せず。他の悟後に到るに及んで、凡そ所問有れば只だ一指を竪つ。什麼に因りてか千人万人羅籠すれども住まらず、他を撲てども破れざる。爾若し用ゐて指頭の会を作さば、決定して古人の意を見ず。這般の禅は参じ易く、只だ是れ会し難し。如今の人纔かに問著すれば、也た指を竪て拳を竪つ。只だ是れ精魂を弄するのみ。也た須らく是れ骨に徹し髄に徹して、見透して始めて得べし。
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『無門関』第三則 俱胝豎指無門曰く、倶胝并びに童子の悟処は、指頭上に在らず。若し者裏に向かって見得せば、天龍、倶胝并びに童子と、自己と一串に穿却せん。頌に曰く、倶胝鈍置す老天龍、利刃単提して小童を勘す。巨霊手を抬ぐるに多子無し、分破す華山の千万重。
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『碧巌録』第十九則垂示に云く、一塵挙がれば大地収まり、一花開けば世界起こる。只だ塵未だ挙がらず花未だ開かざる時の如きは、如何が眼を著けん。所以に道ふ、一綟の糸を斬るが如し、一斬一切斬。一綟の糸を染むるが如し、一染一切染。只如今便ち葛藤を将て截断し、自己の家珍を運出せば、高低普く応じ、前後差無く、各各現成す。儻或し未だ然らずんば、下文を看取せよ。挙す。倶胝和尚、凡そ所問有れば只だ一指を竪つ。
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『碧巌録』第十九則無業云く、祖師此の土に大乗の根器有るを観て、唯だ単に心印を伝へて迷塗を指示す。之を得る者は、愚と智と、凡と聖とを揀ばず。且つ多虚は少実に如かず。大丈夫の漢、即今直下に休歇し去り、頓に万縁を息め去りて、生死の流れを超え、逈かに常格を出づ。縦ひ眷属荘厳有るも、求めずして自ら得んと。無業一生凡そ所問有れば、只だ妄想すること莫かれと道ふ。所以に道ふ、一処透れば、千処万処一時に透る。一機明らかなれば、千機万機一時に明らかなりと。如今の人総て恁麼ならず、只管に恣意に情解して、他の古人の省要の処を会せず。他豈に是れ機関転換の処無からんや。什麼としてか只だ一指頭を用ゐる。須らく知るべし、倶胝這裏に到りて、深密に人の為にする処有ることを。省力を会得せんと要すや。他の円明の道ふを還せ、寒き時は則ち普天普地寒く、熱き時は則ち普天普地熱し。山河大地、上に通じて孤危、万象森羅、下に徹して嶮峻と。什麼の処にか一指頭の禅を得来たらん。
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