碧巌録 / 第四則
一勘破 二勘破 雪上加霜曾嶮墮飛騎將軍入虜庭再得完全能幾箇 急走過不放過 孤峯頂上草裏坐咄
新字:一勘破 二勘破 雪上加霜曽嶮堕飛騎将軍入虜庭再得完全能幾箇 急走過不放過 孤峯頂上草裏坐咄
書き下し
一勘破、二勘破、雪上に霜を加へて曾て嶮墮す。飛騎将軍虜庭に入る、再び完全を得るは能く幾箇ぞ。急に走過す、放過せず、孤峰頂上草裏に坐す。咄。
現代語訳
一度見破り、二度見破る。雪の上に霜を加えて、あやうく転げ落ちるところだった。飛騎将軍が敵陣に入る、再び無事に帰れる者が何人いようか。急いで走り過ぎたが、見逃しはしない。孤峰の頂で、草の中に坐っている。咄!
解説
雪竇重顕が第四則に付けた頌である。本則に挟んだ三つの著語「勘破了也」「勘破了也」「雪上加霜」をそのまま冒頭に据え、あやうく転げ落ちるところだったと詠む。続いて、前漢の名将李広が敵陣に深入りして捕らえられながら脱出した故事を引き、徳山が溈山の懐に再び入って無事に出たことを称える。だが「急に走過す、放過せず」と、走り去った徳山を溈山は見逃していなかったと転じる。最後の「孤峰頂上草裏に坐す」は、溈山の予言した孤峰の頂も草の中に坐るにすぎないと突き放す句であり、雪竇は「咄」と一喝して結ぶ。現代の働く者には、敵陣から生還する胆力と、それでも見逃されない深い眼の両方を思わせる。
この章句が説くこと
勘破飛騎将軍雪竇頌胆力見極め
関連する章句
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『碧巌録』第四則雪竇一百則の公案を頌す。一則則香を焚いて拈出す。所以に大いに世に行はる。他更に文章を会して公案を透得し、盤礴して熟することを得て、方に筆を下すべし。何が故ぞ此の如くなる。龍蛇は弁じ易く、衲子は瞞じ難し。雪竇此の公案を参透して、節角聱訛の処に於て、三句の語を著け、撮り来つて頌出す。雪上に霜を加へて、幾乎ど嶮墮す。只如へば徳山何にか似たる。一に李広の天性善く射る、天子封じて飛騎将軍と為すに似たり。深く虜庭に入り、単于に生獲せらる。広時に傷病す。広を両馬の間に置き、絡ひて盛臥せしむ。広遂に詐り死す。其の傍らに一胡児の善馬に騎るもの有るを睨て、広身を騰らせて馬に上り、胡児を推し墮し、其の弓矢を奪ひ、馬に鞭つて南に馳せ、弓を彎いて追騎を射退く。故を以て脱することを得たり。
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『碧巌録』第四則挙す。徳山溈山に到り、複子を挟んで法堂上に於て、東より西に過ぎ、西より東に過ぎ、顧視して云く、「無、無」。便ち出づ。雪竇著語して云く、「勘破し了れり」。徳山門首に至つて却つて云く、「也た草草なることを得ず」。便ち威儀を具して、再び入つて相見す。溈山坐する次、徳山坐具を提起して云く、「和尚」。溈山払子を取らんと擬す。徳山便ち喝して、払袖して出づ。雪竇著語して云く、「勘破し了れり」。徳山法堂を背却し、草鞋を著けて便ち行く。溈山晩に至つて首座に問ふ、「適来の新到什麼の処にか在る」。首座云く、「当時法堂を背却し、草鞋を著けて出で去れり」。溈山云く、「此の子已後、孤峰頂上に向つて、草庵を盤結して、仏を呵し祖を罵り去ること在らん」。雪竇著語して云く、「雪上に霜を加ふ」。
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『碧巌録』第四則徳山法堂を背却し、草鞋を著けて便ち出で去る。且く道へ、他の意作麼生。爾道へ、徳山は是れ勝か是れ負か。溈山の恁麼なるは是れ勝か是れ負か。雪竇著語して云く、「勘破し了れり」。是れ他工夫を下して、古人の聱訛極則の処を見透して、方に能く恁麼なり。妨げず奇特なることを。訥堂云く、「雪竇両箇の勘破を著けて、三段の判を作す。方に此の公案を顕す。傍人の二人を断ずるに似て相似たり」。後来這の老漢、緩緩地に晩に至つて方に首座に問ふ、「適来の新到什麼の処にか在る」。首座云く、「当時法堂を背却し、草鞋を著けて出で去れり」。溈山云く、「此の子已後、孤峰頂上に向つて、草庵を盤結して、仏を呵し祖を罵り去ること在らん」。且く道へ、他の意旨如何。溈山老漢是れ好心ならず。徳山後来仏を呵し祖を罵り、風を打ち雨を打つも、依旧として他の窠窟を出でず。這の老漢に平生の伎倆を見透せらる。這裏に到つて喚んで溈山他に受記を与ふと作して得んや。喚んで「沢広ければ山を蔵し、貍能く豹を伏す」と作して得んや。若し恁麼ならば且喜すらくは没交渉。雪竇此の公案の落処を知つて、敢へて他と断じて更に道ふ、「雪上に霜を加ふ」。又重ねて拈起し来つて人をして見せしむ。若し見得し去らば、爾に溈山・徳山・雪竇と同参することを許さん。若し也た見ずんば、切に忌む妄りに情解を生ずることを。
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『碧巌録』第四則雪竇著語して云く、「勘破し了れり」。一に鉄橛に似て相似たり。衆中之を著語と謂ふ。両辺に在りと雖然も、却つて両辺に住在せず。作麼生か他の勘破し了れりと道ふを会せん。什麼の処か是れ勘破の処。且く道へ、徳山を勘破するか、溈山を勘破するか。徳山遂に出でて門首に到り、却つて本を抜かんと要す。自ら云く、「也た草草なることを得ず」。溈山と五臓心肝を掀出して法戦一場せんと要す。再び威儀を具して却回して相見す。溈山坐する次、徳山坐具を提起して云く、「和尚」。溈山払子を取らんと擬す。徳山便ち喝して、払袖して出づ。可殺だ奇特なり。
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『碧巌録』第四則這の漢這般の手段有りて、死中に活を得たり。雪竇引いて頌中に在き、用て徳山の再び入つて相見し、依旧として他に跳び得て出で去らるるに比す。看よ他の古人、見到り、説到り、行到り、用到る。妨げず英霊なることを。人を殺して眼を眨せざる底の手脚有つて、方に立地に成仏すべし。立地に成仏する底の人有れば、自然に人を殺して眼を眨せず。方に自由自在の分有り。如今の人有る底は、問著すれば頭上一に衲僧の気概に似たり。軽軽に拶著すれば、便ち腰段を做し、股截を做し、七支八離して、渾て些子の相続する処無し。所以に古人道ふ、「相続も也た大いに難し」と。看よ他の徳山溈山此の如くなる、豈に是れ滅滅挈挈底の見解ならんや。「再び完全を得るは能く幾箇ぞ」。「急に走過す」。徳山喝して便ち出で去る、一に李広の捉へられて後に計を設け、一箭に一箇の番将を射殺して、虜庭を出づることを得たるに似て相似たり。雪竇頌して此に到る、大いに工夫有り。徳山法堂を背却し、草鞋を著けて出で去る、便宜を得たりと道ふ。殊に知らず、這の老漢、依旧として他を放して頭を出さしめざること在ることを。雪竇道ふ、「放過せず」。溈山晩間に至つて首座に問ふ、「適来の新到什麼の処にか在る」。首座云く、「当時法堂を背却し、草鞋を著けて出で去れり」。溈山云く、「此の子他日、孤峰頂上に向つて、草庵を盤結して、仏を呵し祖を罵り去ること在らん」。幾曾か是れ放過し来る。妨げず奇特なることを。這裏に到つて、雪竇什麼と為てか道ふ、「孤峰頂上草裏に坐す」。又一喝を下す。且く道へ、什麼の処にか落在す。更に参ぜよ三十年。
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『碧巌録』第二十四則曾て鉄馬に騎って重城に入る、勅下って伝へ聞く六国清しと。猶ほ金鞭を握って帰客に問ふ、夜深けて誰と共にか御街を行く。雪竇の頌、諸方以て極則と為す。一百頌の中、這の一頌最も理路を具ふ。就中極めて妙なり。体に貼して分明に頌出す。「曾て鉄馬に騎って重城に入る」、劉鉄磨の恁麼に来たるを頌す。「勅下って伝へ聞く六国清しと」、潙山の恁麼に問ふを頌す。「猶ほ金鞭を握って帰客に問ふ」、磨の「来日台山に大会斎あり、和尚還た去るや」と云ふを頌す。「夜深けて誰と共にか御街を行く」、潙山の身を放って便ち臥し、磨の便ち出で去るを頌す。雪竇這般の才調有り、急切の処には急切の処に向かって頌し、緩緩の処には緩緩の処に向かって頌す。風穴も亦曾て拈ず、雪竇の意に同じ。此の頌、諸方皆之を美む。高高たる峰頂に立てば、魔外も能く知ること莫し。深深たる海底に行けば、仏眼も覷れども見えず。看よ他の一箇は身を放って臥し、一箇は便ち出で去るを。若し更に周遮せば、一時に路を求むれども見えず。雪竇の頌意最も好し、是れ「曾て鉄馬に騎って重城に入る」。若し是れ同じく得同じく証するにあらずんば、焉んぞ能く恁麼ならん。且く道へ、箇の什麼の意をか得たる。見ずや、僧、風穴に問ふ、「潙山道ふ、老牸牛汝来たるやと。意旨如何」。穴云く、「白雲深き処金龍躍る」。僧云く、「只だ劉鉄磨の来日台山に大会斎あり、和尚還た去るやと道ふが如き、意旨如何」。穴云く、「碧波心裏玉兎驚く」。僧云く、「潙山便ち臥す勢を作す、意旨如何」。穴云く、「老倒疎慵無事の日、閑眠高臥して青山に対す」。此の意も亦雪竇と同じきなり。
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