兵要録抄録 / 義兵の七つの型下
孔明之於先主是也。六者。有欲報父祖之仇。而苦身下賢。延攬英雄。募敢死士而擧兵爲國雪恥者。如燕昭王伐齊。源賴朝滅平氏是也。七者。國大亂。未有定主。各〻守其疆域而待天下之定。若寇賊來仇。虜掠我人民。則起兵追擊。以除民之害矣。魏相所謂敵加於己。不得已而起者。謂之應兵。兵應者勝是也。蓋救天下之災。除民之害。則爲義兵。兵義者榮。以從民所喜也。或假義而求名。則爲爭名兵。兵爭者危。以逐名忘義也。或假仁義而貪利。則爲奸賊兵。兵貪者滅。以逆天背人也。後世此等之奸賊不鮮矣。有外假誅篡弑之名義。內懷自立之謀。遂廢君之子孫。殺忠臣者。此以賊掠賊。何逃其罪矣。有陽言要施善政於天下。垂功名於竹帛。實逐父殺子。重賦厚斂。而失衆者。此斷本趨末。豈不覆亡矣。世人不論其義與不義。唯小黠狡智。而攻取戰勝屢則稱之英雄良將也。君子惡名不正矣。
新字:孔明之於先主是也。六者。有欲報父祖之仇。而苦身下賢。延攬英雄。募敢死士而挙兵為国雪恥者。如燕昭王伐斉。源頼朝滅平氏是也。七者。国大乱。未有定主。各〻守其疆域而待天下之定。若寇賊来仇。虜掠我人民。則起兵追撃。以除民之害矣。魏相所謂敵加於己。不得已而起者。謂之応兵。兵応者勝是也。蓋救天下之災。除民之害。則為義兵。兵義者栄。以従民所喜也。或仮義而求名。則為争名兵。兵争者危。以逐名忘義也。或仮仁義而貪利。則為奸賊兵。兵貪者滅。以逆天背人也。後世此等之奸賊不鮮矣。有外仮誅篡弑之名義。内懐自立之謀。遂廃君之子孫。殺忠臣者。此以賊掠賊。何逃其罪矣。有陽言要施善政於天下。垂功名於竹帛。実逐父殺子。重賦厚斂。而失衆者。此断本趨末。豈不覆亡矣。世人不論其義与不義。唯小黠狡智。而攻取戦勝屡則称之英雄良将也。君子悪名不正矣。
書き下し
孔明の先主に於けるが如き是れなり。六は、父祖の仇を報いんと欲する有り、身を苦しめ賢に下り、英雄を延攬し、敢死の士を募りて兵を擧げ、國の爲に恥を雪ぐ者なり。燕の昭王の齊を伐ち、源賴朝の平氏を滅ぼす如き是れなり。七は、國大いに亂れ、未だ定主有らず、各〻其の疆域を守りて天下の定まるを待つ。若し寇賊來たり仇し、我が人民を虜掠すれば、則ち兵を起こして追擊し、以て民の害を除く。魏相の所謂、敵己に加はり、已むを得ずして起こる者、之を應兵と謂ふ、兵應ずる者は勝つ、是れなり。蓋し天下の災ひを救ひ、民の害を除くは、則ち義兵爲り。兵義なれば榮ゆ、民の喜ぶ所に從ふを以てなり。或いは義を假りて名を求むれば、則ち爭名の兵爲り。兵爭へば危し、名を逐ひて義を忘るるを以てなり。或いは仁義を假りて利を貪れば、則ち奸賊の兵爲り。兵貪れば滅ぶ、天に逆ひ人に背くを以てなり。後世此等の奸賊鮮からず。外に誅簒弑の名義を假り、内に自立の謀を懷き、遂に君の子孫を廢し、忠臣を殺す者あり。此れ賊を以て賊を掠むるなり、何ぞ其の罪を逃れん。陽に善政を天下に施し、功名を竹帛に垂れんと言ひ、實は父を逐ひ子を殺し、賦を重くし斂を厚くして、衆を失ふ者あり。此れ本を斷ちて末に趨るなり、豈に覆亡せざらんや。世人其の義と不義とを論ぜず、唯だ小黠狡智にして、攻取戰勝屢〻なれば則ち之を英雄良將と稱す。君子は名の正しからざるを惡む。
現代語訳
諸葛孔明が劉備に仕えたのがその例です。第六は、父祖の仇を討とうとする者が、身を低くして賢者に下り、英雄を招き集め、決死の士を募って兵を挙げ、国のために恥をそそぐ場合です。燕の昭王が斉を討ち、源頼朝が平氏を滅ぼしたのがそれです。第七は、国が大いに乱れてまだ定まった主がおらず、それぞれが自分の領域を守って天下が定まるのを待つ場合です。もし賊が来て敵対し、わが民を略奪するなら、兵を起こして追撃し、民の害を除きます。魏相のいう、敵が自分に迫り、やむを得ず起つものを応兵といい、応じる兵は勝つ、とはこのことです。天下の災いを救い民の害を除くなら義兵であり、義の兵は栄えます。民の喜ぶところに従うからです。義の名を借りて名声を求めれば名を争う兵であり、争う兵は危うい。名を追って義を忘れるからです。仁義を借りて利をむさぼれば奸賊の兵であり、むさぼる兵は滅びる。天に逆らい人に背くからです。後世にはこの類の奸賊が少なくありません。表向きは簒奪者を討つという名分を掲げながら、内心は自分が立つ謀を抱き、ついに主君の子孫を廃し、忠臣を殺す者がいます。これは賊が賊から奪うだけで、その罪は免れません。表向きは天下に善政を施して功名を歴史に残すと言いながら、実は父を追い子を殺し、重税を課して人心を失う者がいます。これは根本を断って枝葉に走るもので、滅びないはずがありません。世の人は義か不義かを論じず、ただ小賢しい知恵で攻め取り勝つことが重なれば英雄や良将と称えます。君子は名が正しくないことを憎みます。
解説
この章句が説くこと
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『兵要録抄録』・義兵の七つの型(上)凡そ兵の起こる所、其の等多し。然れども義戰・爭名・貪利の三つに出でざるなり。蓋し仁義忠信にして、私心に狹まらず、擧ぐること天人に順ふ、之を義兵と謂ふ。義兵は凡そ七等あり。一は、天下の民、虐政に憔悴し、時日曷れか喪びんと待つ。皇天民の欲する所に從ひ、手を聖德神武に借り、彼の獨夫を誅し、民水火の中より蘇る。成湯の桀を放ち、武王の紂を伐つ是れなり。二は、有德の君上に在りて、下に怨讟の民無し。然れども逆賊王化を犯し、諸侯を仇し、招撫すれども來たらず、義を曉せども服せざる者あり。已むを得ず、方伯に命じ、諸侯に令して、兵を擧げて之を誅戮せしむ。黃帝の蚩尤を征し、周公の管蔡を罪する是れなり。三は、賊臣君を弑する有り、忠臣義士、義兵を擧げて之を誅す。衞の州吁、桓公を弑して立つに、石碏之を殺し、公子晉を立てて君と爲し、淖齒、齊の閔王を殺すに、王孫賈、市中に入り、市人に語りて之を誅する、是れなり。四は、君微にして臣强く、權豪傑に在り。私恩威を立て、葛藟朋黨して、國將に傾かんとす。忠臣鬪ひて其の國を安んず。漢の陳平・周勃等、諸呂を誅して劉氏を安んじ、本朝の楠正成、後醍醐帝を佐けて高時を征する如き是れなり。五は、天下已に亂れ、奸雄各〻國に據りて相侵暴す。忠良宗室を輔け、王業を復し、民命を救ふ。鄧禹の光武に於けるが如し。
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『兵要録抄録』・兵は凶器と心得る兵は凶器なり。戰は危事なり。之を用ゐて天下の災ひを定め、民の害を除かば、則ち義兵爲り。之を用ゐて無過の城を攻め、無辜の人を殺さば、則ち賊兵爲り。賊は好んで之を用ゐ、君子は已むを得ずして之を用ゐる。德化民に被らず、兵革を動かして征伐す。仁人豈に快しとする所ならんや。不幸の至りなり。故に成湯桀を放ち、夏民說ぶと雖も、惟だ慙づる德有り。周武紂を伐ち、前徒戈を倒にするも、猶ほ未だ善を盡くさず。此れ揖遜受禪を以てせず、征伐を以て天下を獲たればなり。夫れ聖人の擧や、天に應じ人に順ひ、大義を天下に行ひ、民を塗炭に拯ふと雖も、猶ほ自ら古に如かざるを慙ぢ、且つ來世無君の心を懷く者の、台を以て口實と爲すを恐る。後世主將の兵を用ゐるや、多くは土地を奪ひ貨財を利するが爲に、天に逆ひ人に背きて愧づる心無し。幾くの不辜を殺し、幾くの生靈を斷つも、忍びて顧みず、唯だ地を拓き强を益すを務めて以て快しと爲す。是れ何を以てか盜跖の輩に異ならん。其の事を行ふや、唯だ勢の成る所に任せて義の在る所を看ず。故に未だ勢を得ざれば、則ち陽に仁を施し義を立て、而して士衆に親附せられんことを要むるなり。己に勢を得れば、則ち君を弑し父を逐ひ、子を殺し親を欺き、以て其の欲に適ふ。之を亂臣賊子と謂ふ。上天子方伯有りと雖も、其の强大を憚り、竄殛の刑を施さず。故に慣れて征無く、殘賊を以て恆と爲し、衆小弱を呑み、終に天下を簒ふに至る。後人其の罪を責めず、從ひて之を良將賢君と稱す。憂ふべきの至りなり。此れ凶器を用ゐて暴逆を行ひ、危事を興して士民を殄滅す。其の慘毒言ふに勝ふべからず。嗚呼、後世兵家者の流弊、將に此に至らんとす。戒めざるべからず。
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『長短経』出軍故に曰く、乱を救い暴を誅する、之を義兵と謂う。兵義なる者は王たり。敵己に加えて、已むを得ずして之を用うる、之を応兵と謂う。兵応ずる者は勝つ。小故を争い恨み、憤怒に勝えざる者、之を忿兵と謂う。兵忿る者は敗る。人の土地宝貨を利とする者、之を貪兵と謂う。兵貪る者は破る。国の大なるを恃み、人の衆きを矜り、威を敵に見わさんと欲する、之を驕兵と謂う。兵驕る者は滅ぶ。〔夫れ暴を禁じ乱を救うを、義兵と曰い、礼を以て服すべし。衆を恃みて以て伐つを、強兵と曰い、謙を以て服すべし。怒りに因りて師を興すを、剛兵と曰い、辞を以て服すべし。礼を棄て利を貪るを、暴兵と曰い、詐を以て服すべし。国危うく人疲れて、事を挙げ兵を動かすを、逆兵と曰い、権を以て服すべし。〕
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『兵要録抄録』・兵の利害を見極める夫れ兵の利害は、其の關係する所甚だ偉なり。故に孫子曰く、兵は國の大事、死生の地、存亡の道、察せざるべからずと。凡そ已むを得ずして之を用ゐるは義なり。義兵は民に利あり。故に國人悅び、天下援く。玆に繇りて軍和して國强く、榮え子孫に傳はる。兵の利、斯より大なるは莫し。好みて兵を用ゐるは貪なり。貪兵は民に害あり。故に國人苦しみ、天下疾む。玆に繇りて武黷れて國危く、災ひ子孫に極まる。兵の害、斯より大なるは莫し。此れ理勢の自然にして、義利の辨は察せざるべからざるなり。夫れ兵の國に利害有るは、譬へば水火の人に利害有るが如きなり。水火の人に於けるや、一日も無かるべからず。然れども其の用を失ふに至れば、則ち害言ふに勝ふべからず。兵の利害も亦た此の如し。故に春秋傳に曰く、兵は猶ほ火のごとし、戢めざれば將に自ら焚けんと。蓋し兵を用ゐるの道は、或いは國に逆賊起こり、或いは鄰國來たり寇すれば、則ち兵を擧げて暴亂を弭め、以て民の憂ひを除くなり。逆賊伏し寇退けば、則ち兵を戢めて嚴に備へ、以て國の衞と爲す。是れ兵を用ゐるの節度なり。兵に節度有れば、則ち國に利あること言ふに勝ふべからず。節度無ければ、則ち國に害あること亦た言ふに勝ふべからず。故に兵の利を論ずる者は、先づ兵の害を論ずべし。若し其の害を論ぜずして、唯〻其の利のみを看る者は、流れて貪兵と爲る。兵貪れば則ち無過の城を攻め、無辜の人を殺し、人の土地を簒ひ、己の强大を加ふ。之を賊と謂ふ。賊兵は一旦力を以て人を服すと雖も、人心離れ、鬼神禍ひして、終に其の利を見ず。
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『慎思録』巻之二凡そ兵を用ゐる者は、須らく仁義に由りて之を行ふべし。苟も仁義に由りて之を行ふに非ざれば、則ち盗賊為るを免れず。蓋し兵を用ゐれば、則ち天地生物の心に乖戻す。殺すを好めば、則ち天地生物の気を傷害す。故に天道之を悪む。然れども聖人は已むを得ずして後に之を用ゐる。是れ亦た天討を行ふなり。蓋し聖人の兵を用ゐるや、其の義を行ふなり。而して仁其の中に在り。程子の蝎の頌に曰く、之を殺せば則ち仁を害し、之を放てば則ち義を傷る、と。是れ亦た聖人の刑兵を用ゐるの意なり。凡そ五兵の中、義兵応兵の二者は、君子の用ゐる所なり。忿兵驕兵と貪兵との三者の如きは、君子の用ゐざる所にして、小人の独り行ふ所なり。
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呂氏春秋・蕩兵④且つ兵の自りて來たる所の者は遠し。未だ嘗て少選も用いずんばあらず。貴賤長少賢者不肖相與に同じ。巨有り微有るのみ。兵の微を察するに、心に在りて未だ發せざるも兵なり。疾視するも兵なり。色を作すも兵なり。傲言するも兵なり。援推するも兵なり。連反するも兵なり。侈鬭するも兵なり。三軍攻戰するも兵なり。此の八者は皆兵なり。微巨の爭いなり。今世の偃兵を以て疾説する者の、終身兵を用うるも自ら知らざるは悖れり。故に説彊しと雖も、談辨ずと雖も、文學博しと雖も、猶は聽かれず。故に古の聖王には義兵有りて、偃兵有ること無し。兵誠に義にして、以て暴君を誅して苦民を振わば、民の説ぶや、孝子の慈親を見るが若く、饑者の美食を見るが若きなり。民の號呼して之に走るは、彊弩の深谿を射るが若く、大水を積みて其の壅隄を失うが若きなり。中主すら猶若ほ其の民を有つこと能わず、而るを況や暴君に於いてをや。

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