兵要録抄録 / 義兵の七つの型上
凡兵之所起。其等多。然不出義戰爭名貪利之三也。蓋仁義忠信。而不狹私心。擧順天人。謂之義兵。義兵凡七等。一者。天下之民。憔悴于虐政。待時日曷喪。皇天從民之所欲。借手於聖德神武。誅彼獨夫。民蘇于水火中。成湯放桀。武王伐紂是也。二者。有德之君在上。而下無怨讟之民。然逆賊犯王化。仇諸侯。招撫而不來。曉義而不服者。不得已。命方伯。令諸侯。擧兵誅戮之。黃帝征蚩尤。周公罪管蔡是也。三者。賊臣有弑君。忠臣義士。擧義兵誅之。如衞州吁弑桓公而立。石碏殺之。立公子晉爲君。淖齒殺齊閔王。王孫賈入市中。語市人誅之是也。四者。君微臣强。權在于豪傑。私恩立威。葛藟朋黨。而國將傾。忠臣鬪而安其國。如漢陳平周勃等。誅諸呂而安劉氏。本朝楠正成。佐後醍醐帝征高時是也。五者。天下已亂。奸雄各據國相侵暴。忠良輔宗室。復王業。救民命。如鄧禹之於光武。
新字:凡兵之所起。其等多。然不出義戦争名貪利之三也。蓋仁義忠信。而不狭私心。挙順天人。謂之義兵。義兵凡七等。一者。天下之民。憔悴于虐政。待時日曷喪。皇天従民之所欲。借手於聖徳神武。誅彼独夫。民蘇于水火中。成湯放桀。武王伐紂是也。二者。有徳之君在上。而下無怨讟之民。然逆賊犯王化。仇諸侯。招撫而不来。暁義而不服者。不得已。命方伯。令諸侯。挙兵誅戮之。黄帝征蚩尤。周公罪管蔡是也。三者。賊臣有弑君。忠臣義士。挙義兵誅之。如衛州吁弑桓公而立。石碏殺之。立公子晋為君。淖歯殺斉閔王。王孫賈入市中。語市人誅之是也。四者。君微臣強。権在于豪傑。私恩立威。葛藟朋党。而国将傾。忠臣闘而安其国。如漢陳平周勃等。誅諸呂而安劉氏。本朝楠正成。佐後醍醐帝征高時是也。五者。天下已乱。奸雄各拠国相侵暴。忠良輔宗室。復王業。救民命。如鄧禹之於光武。
書き下し
凡そ兵の起こる所、其の等多し。然れども義戰・爭名・貪利の三つに出でざるなり。蓋し仁義忠信にして、私心に狹まらず、擧ぐること天人に順ふ、之を義兵と謂ふ。義兵は凡そ七等あり。一は、天下の民、虐政に憔悴し、時日曷れか喪びんと待つ。皇天民の欲する所に從ひ、手を聖德神武に借り、彼の獨夫を誅し、民水火の中より蘇る。成湯の桀を放ち、武王の紂を伐つ是れなり。二は、有德の君上に在りて、下に怨讟の民無し。然れども逆賊王化を犯し、諸侯を仇し、招撫すれども來たらず、義を曉せども服せざる者あり。已むを得ず、方伯に命じ、諸侯に令して、兵を擧げて之を誅戮せしむ。黃帝の蚩尤を征し、周公の管蔡を罪する是れなり。三は、賊臣君を弑する有り、忠臣義士、義兵を擧げて之を誅す。衞の州吁、桓公を弑して立つに、石碏之を殺し、公子晉を立てて君と爲し、淖齒、齊の閔王を殺すに、王孫賈、市中に入り、市人に語りて之を誅する、是れなり。四は、君微にして臣强く、權豪傑に在り。私恩威を立て、葛藟朋黨して、國將に傾かんとす。忠臣鬪ひて其の國を安んず。漢の陳平・周勃等、諸呂を誅して劉氏を安んじ、本朝の楠正成、後醍醐帝を佐けて高時を征する如き是れなり。五は、天下已に亂れ、奸雄各〻國に據りて相侵暴す。忠良宗室を輔け、王業を復し、民命を救ふ。鄧禹の光武に於けるが如し。
現代語訳
およそ戦が起こる理由は多いのですが、義のための戦、名を争う戦、利をむさぼる戦の三つを出ません。仁義忠信にかない、私心にとらわれず、行いが天意と人心にかなうものを義兵といいます。義兵にはおよそ七つの型があります。第一は、天下の民が暴政に苦しみ、いつこの暴君が滅びるかと待ち望んでいる場合です。天が民の望みに従い、聖徳と武勇のある人の手を借りて、あの孤立した暴君を討ち、民が水や火の苦しみから生き返ります。湯王が桀を追放し、武王が紂を討ったのがそれです。第二は、徳のある君主が上におり、下に恨む民もいないのに、逆賊が王の教化を犯し、諸侯を敵とし、招いても来ず、道理を説いても従わない場合です。やむを得ず、方伯に命じ諸侯に令して、兵を挙げて誅させます。黄帝が蚩尤を征伐し、周公が管叔・蔡叔を罰したのがそれです。第三は、賊臣が主君を殺し、忠臣義士が義兵を挙げてこれを討つ場合です。衛の州吁が桓公を殺して立つと、石碏がこれを殺して公子晉を君に立てた例、淖歯が斉の閔王を殺すと、王孫賈が市中に入って人々に呼びかけ、これを誅した例がそうです。第四は、君主が微弱で臣下が強く、権力が豪傑の手にあり、私的な恩で威を立て、徒党を組んで国が傾こうとする場合です。忠臣が戦って国を安定させます。漢の陳平・周勃らが呂氏一族を誅して劉氏を安んじた例、わが国の楠正成が後醍醐天皇を助けて北条高時を討った例がそうです。第五は、天下がすでに乱れ、奸雄がそれぞれ国に拠って侵し合い、忠良の者が皇室を助けて王業を復興し、民の命を救う場合です。鄧禹が光武帝に仕えたようなものです。
解説
この章句が説くこと
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『兵要録抄録』・義兵の七つの型(下)孔明の先主に於けるが如き是れなり。六は、父祖の仇を報いんと欲する有り、身を苦しめ賢に下り、英雄を延攬し、敢死の士を募りて兵を擧げ、國の爲に恥を雪ぐ者なり。燕の昭王の齊を伐ち、源賴朝の平氏を滅ぼす如き是れなり。七は、國大いに亂れ、未だ定主有らず、各〻其の疆域を守りて天下の定まるを待つ。若し寇賊來たり仇し、我が人民を虜掠すれば、則ち兵を起こして追擊し、以て民の害を除く。魏相の所謂、敵己に加はり、已むを得ずして起こる者、之を應兵と謂ふ、兵應ずる者は勝つ、是れなり。蓋し天下の災ひを救ひ、民の害を除くは、則ち義兵爲り。兵義なれば榮ゆ、民の喜ぶ所に從ふを以てなり。或いは義を假りて名を求むれば、則ち爭名の兵爲り。兵爭へば危し、名を逐ひて義を忘るるを以てなり。或いは仁義を假りて利を貪れば、則ち奸賊の兵爲り。兵貪れば滅ぶ、天に逆ひ人に背くを以てなり。後世此等の奸賊鮮からず。外に誅簒弑の名義を假り、内に自立の謀を懷き、遂に君の子孫を廢し、忠臣を殺す者あり。此れ賊を以て賊を掠むるなり、何ぞ其の罪を逃れん。陽に善政を天下に施し、功名を竹帛に垂れんと言ひ、實は父を逐ひ子を殺し、賦を重くし斂を厚くして、衆を失ふ者あり。此れ本を斷ちて末に趨るなり、豈に覆亡せざらんや。世人其の義と不義とを論ぜず、唯だ小黠狡智にして、攻取戰勝屢〻なれば則ち之を英雄良將と稱す。君子は名の正しからざるを惡む。
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『兵要録抄録』・兵は凶器と心得る兵は凶器なり。戰は危事なり。之を用ゐて天下の災ひを定め、民の害を除かば、則ち義兵爲り。之を用ゐて無過の城を攻め、無辜の人を殺さば、則ち賊兵爲り。賊は好んで之を用ゐ、君子は已むを得ずして之を用ゐる。德化民に被らず、兵革を動かして征伐す。仁人豈に快しとする所ならんや。不幸の至りなり。故に成湯桀を放ち、夏民說ぶと雖も、惟だ慙づる德有り。周武紂を伐ち、前徒戈を倒にするも、猶ほ未だ善を盡くさず。此れ揖遜受禪を以てせず、征伐を以て天下を獲たればなり。夫れ聖人の擧や、天に應じ人に順ひ、大義を天下に行ひ、民を塗炭に拯ふと雖も、猶ほ自ら古に如かざるを慙ぢ、且つ來世無君の心を懷く者の、台を以て口實と爲すを恐る。後世主將の兵を用ゐるや、多くは土地を奪ひ貨財を利するが爲に、天に逆ひ人に背きて愧づる心無し。幾くの不辜を殺し、幾くの生靈を斷つも、忍びて顧みず、唯だ地を拓き强を益すを務めて以て快しと爲す。是れ何を以てか盜跖の輩に異ならん。其の事を行ふや、唯だ勢の成る所に任せて義の在る所を看ず。故に未だ勢を得ざれば、則ち陽に仁を施し義を立て、而して士衆に親附せられんことを要むるなり。己に勢を得れば、則ち君を弑し父を逐ひ、子を殺し親を欺き、以て其の欲に適ふ。之を亂臣賊子と謂ふ。上天子方伯有りと雖も、其の强大を憚り、竄殛の刑を施さず。故に慣れて征無く、殘賊を以て恆と爲し、衆小弱を呑み、終に天下を簒ふに至る。後人其の罪を責めず、從ひて之を良將賢君と稱す。憂ふべきの至りなり。此れ凶器を用ゐて暴逆を行ひ、危事を興して士民を殄滅す。其の慘毒言ふに勝ふべからず。嗚呼、後世兵家者の流弊、將に此に至らんとす。戒めざるべからず。
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『長短経』出軍故に曰く、乱を救い暴を誅する、之を義兵と謂う。兵義なる者は王たり。敵己に加えて、已むを得ずして之を用うる、之を応兵と謂う。兵応ずる者は勝つ。小故を争い恨み、憤怒に勝えざる者、之を忿兵と謂う。兵忿る者は敗る。人の土地宝貨を利とする者、之を貪兵と謂う。兵貪る者は破る。国の大なるを恃み、人の衆きを矜り、威を敵に見わさんと欲する、之を驕兵と謂う。兵驕る者は滅ぶ。〔夫れ暴を禁じ乱を救うを、義兵と曰い、礼を以て服すべし。衆を恃みて以て伐つを、強兵と曰い、謙を以て服すべし。怒りに因りて師を興すを、剛兵と曰い、辞を以て服すべし。礼を棄て利を貪るを、暴兵と曰い、詐を以て服すべし。国危うく人疲れて、事を挙げ兵を動かすを、逆兵と曰い、権を以て服すべし。〕
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呂氏春秋・蕩兵④且つ兵の自りて來たる所の者は遠し。未だ嘗て少選も用いずんばあらず。貴賤長少賢者不肖相與に同じ。巨有り微有るのみ。兵の微を察するに、心に在りて未だ發せざるも兵なり。疾視するも兵なり。色を作すも兵なり。傲言するも兵なり。援推するも兵なり。連反するも兵なり。侈鬭するも兵なり。三軍攻戰するも兵なり。此の八者は皆兵なり。微巨の爭いなり。今世の偃兵を以て疾説する者の、終身兵を用うるも自ら知らざるは悖れり。故に説彊しと雖も、談辨ずと雖も、文學博しと雖も、猶は聽かれず。故に古の聖王には義兵有りて、偃兵有ること無し。兵誠に義にして、以て暴君を誅して苦民を振わば、民の説ぶや、孝子の慈親を見るが若く、饑者の美食を見るが若きなり。民の號呼して之に走るは、彊弩の深谿を射るが若く、大水を積みて其の壅隄を失うが若きなり。中主すら猶若ほ其の民を有つこと能わず、而るを況や暴君に於いてをや。
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呉子・図国篇呉子曰く、「凡そ兵の起こる所以の者に五有り。一に曰く名を争う、二に曰く利を争う、三に曰く悪を積む、四に曰く内乱、五に曰く饑えに因る。其の名も又た五有り。一に曰く義兵、二に曰く彊兵、三に曰く剛兵、四に曰く暴兵、五に曰く逆兵。暴を禁じ乱を救うを義と曰い、衆を恃みて以て伐つを彊と曰い、怒りに因りて師を興すを剛と曰い、礼を棄て利を貪るを暴と曰い、国乱れ人疲れて事を挙げ衆を動かすを逆と曰う。五者の数、各おの其の道有り。義は必ず礼を以て服し、彊は必ず謙を以て服し、剛は必ず辞を以て服し、暴は必ず詐を以て服し、逆は必ず権を以て服す」と。
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『慎思録』巻之二凡そ兵を用ゐる者は、須らく仁義に由りて之を行ふべし。苟も仁義に由りて之を行ふに非ざれば、則ち盗賊為るを免れず。蓋し兵を用ゐれば、則ち天地生物の心に乖戻す。殺すを好めば、則ち天地生物の気を傷害す。故に天道之を悪む。然れども聖人は已むを得ずして後に之を用ゐる。是れ亦た天討を行ふなり。蓋し聖人の兵を用ゐるや、其の義を行ふなり。而して仁其の中に在り。程子の蝎の頌に曰く、之を殺せば則ち仁を害し、之を放てば則ち義を傷る、と。是れ亦た聖人の刑兵を用ゐるの意なり。凡そ五兵の中、義兵応兵の二者は、君子の用ゐる所なり。忿兵驕兵と貪兵との三者の如きは、君子の用ゐざる所にして、小人の独り行ふ所なり。

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