兵要録抄録 / 文武と相将の分担
古者。國備文武之官而相將分職焉。相者。上佐天子。理陰陽。順四時。下遂萬物之宜矣。內統百官。使卿大夫士各任其職也。附百姓。使鰥寡孤獨各得其所也。外懷諸侯。諸侯輒道。兵革不動。撫四夷。四夷賓服。海外鄕風。故相者。國之腹心也。將者。受命於廟。分梱外之權。尊斧鉞之威。率三軍之心。同戰士之力。以征不服。懲不義。怒形則千里疎。威振則萬物伏。故將者。國之爪牙也。譬猶陰陽生殺。而四時行矣。陽。德也。陰。威也。威德竝行而民服矣。若夫有德無威。則其民狎而亂。有威無德。則其民憊而亡。以玆不可偏廢焉。刑伐德守。所以軒轅氏之爲帝也。脩德廢武。所以承桑氏之喪國也。慓悍禍賊而無德者。不能得衆心也。故楚項數進取。遂獲烏江之辱矣。守禮而不知兵權者。所以棄其民也。故宋襄不鼓儳。乃取泓水之敗矣。明主賢將鑑玆。內脩文德。外治武備。內外兼備。經權時措。而後永保宗廟。民常寧矣。
新字:古者。国備文武之官而相将分職焉。相者。上佐天子。理陰陽。順四時。下遂万物之宜矣。内統百官。使卿大夫士各任其職也。附百姓。使鰥寡孤独各得其所也。外懐諸侯。諸侯輒道。兵革不動。撫四夷。四夷賓服。海外郷風。故相者。国之腹心也。将者。受命於廟。分梱外之権。尊斧鉞之威。率三軍之心。同戦士之力。以征不服。懲不義。怒形則千里疎。威振則万物伏。故将者。国之爪牙也。譬猶陰陽生殺。而四時行矣。陽。徳也。陰。威也。威徳並行而民服矣。若夫有徳無威。則其民狎而乱。有威無徳。則其民憊而亡。以玆不可偏廃焉。刑伐徳守。所以軒轅氏之為帝也。脩徳廃武。所以承桑氏之喪国也。慓悍禍賊而無徳者。不能得衆心也。故楚項数進取。遂獲烏江之辱矣。守礼而不知兵権者。所以棄其民也。故宋襄不鼓儳。乃取泓水之敗矣。明主賢将鑑玆。内脩文徳。外治武備。内外兼備。経権時措。而後永保宗廟。民常寧矣。
書き下し
古者、國に文武の官を備へて相將職を分かてり。相は、上は天子を佐け、陰陽を理め、四時を順にし、下は萬物の宜しきを遂ぐ。内は百官を統べ、卿大夫士をして各〻其の職に任ぜしむるなり。百姓を附け、鰥寡孤獨をして各〻其の所を得しむるなり。外は諸侯を懐け、諸侯輒ち道あり、兵革動かず。四夷を撫し、四夷賓服し、海外風を鄕ふ。故に相は國の腹心なり。將は、命を廟に受け、梱外の權を分かち、斧鉞の威を尊び、三軍の心を率ひ、戰士の力を同じくし、以て不服を征し、不義を懲らす。怒り形はるれば則ち千里疎く、威振るへば則ち萬物伏す。故に將は國の爪牙なり。譬へば猶ほ陰陽の生殺して四時行はるるがごとし。陽は德なり、陰は威なり。威德竝び行はれて民服す。若し夫れ德有りて威無ければ、則ち其の民狎れて亂る。威有りて德無ければ、則ち其の民憊れて亡ぶ。玆を以て偏廢すべからず。刑伐德守は軒轅氏の帝爲りし所以なり。德を脩めて武を廢するは、承桑氏の國を喪ひし所以なり。慓悍禍賊にして德無き者は、衆心を得ること能はざるなり。故に楚項數〻進取し、遂に烏江の辱めを獲たり。禮を守りて兵權を知らざる者は、其の民を棄つる所以なり。故に宋襄、儳を鼓せず、乃ち泓水の敗を取れり。明主賢將玆に鑑み、内に文德を脩め、外に武備を治め、内外兼ね備へ、經權時に措き、而る後永く宗廟を保ち、民常に寧し。
現代語訳
昔は国に文官と武官を置き、宰相と将軍が役目を分けていました。宰相は上は天子を助けて陰陽や四季の運行を整え、下は万物がふさわしい形で育つようにします。内では百官をまとめて、それぞれの身分の者に職分を果たさせ、民をなつかせて、身寄りのない人々にも居場所を得させます。外では諸侯を懐かせて道に従わせ、戦をせずに済ませ、異民族もなびいて、遠い国までその風を慕います。ですから宰相は国の腹心です。将軍は、廟で君命を受けて城外での指揮権を預かり、斧と鉞の威光を重んじて、全軍の心をひとつにし、兵の力をそろえて、従わぬ者を討ち、不義を懲らします。怒りが表に出れば遠くの者まで離れ、威光が振るえばあらゆるものが従います。ですから将軍は国の爪や牙です。これは陰と陽が生かし殺して四季がめぐるのに似ています。陽は徳、陰は威です。威と徳がともに行われて民は従います。徳だけで威がなければ民は慣れ慣れしくなって乱れ、威だけで徳がなければ民は疲れ果てて滅びます。だからどちらかを捨ててはなりません。刑罰と征伐を行い徳で守ったので軒轅氏は帝となり、徳を修めて武を捨てたので承桑氏は国を失いました。荒々しく害をなして徳のない者は、人々の心を得られません。だから楚の項羽はしばしば攻め取りながら、ついに烏江で恥をさらしました。礼を守っても軍の権謀を知らない者は、民を見捨てるのと同じです。だから宋の襄公は、敵が陣を整える前に攻めず、泓水で敗れました。明君と賢将はこれを鑑として、内に文の徳を修め、外に武の備えを整え、内外をともに備え、原則と臨機応変を時宜に合わせて用い、そうしてはじめて長く宗廟を保ち、民は常に安らかでいられるのです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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老子・第67章天下は皆な我が道を大にして不肖に似たりと謂う。夫れ唯だ大なり、故に不肖に似たり。若し肖ならば、久しいかな其の細なるや。我れに三宝有り、持して之を保つ。一に曰く慈、二に曰く倹、三に曰く敢えて天下の先と為らず。慈なる故に能く勇なり、倹なる故に能く広し、敢えて天下の先と為らざる故に能く器の長を成す。今、慈を舎てて且つ勇に、倹を舎てて且つ広に、後るるを舎てて且つ先んぜば、死せん。夫れ慈は、以て戦えば則ち勝ち、以て守れば則ち固し。天将に之を救わんとし、慈を以て之を衛る。
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老子・第38章上徳は徳とせず、是を以て徳有り。下徳は徳を失わざらんとす、是を以て徳無し。上徳は無為にして而も以て為すこと無し。下徳は之を為して而も以て為すこと有り。上仁は之を為して而も以て為すこと無し。上義は之を為して而も以て為すこと有り。上礼は之を為して而も之に応ずる莫ければ、則ち臂を攘げて之を扔く。故に道を失いて而る後に徳、徳を失いて而る後に仁、仁を失いて而る後に義、義を失いて而る後に礼。夫れ礼は忠信の薄きにして、乱の首なり。前識は道の華にして、愚の始めなり。是を以て大丈夫は其の厚きに処りて、其の薄きに居らず。其の実に処りて、其の華に居らず。故に彼を去りて此を取る。
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『韓非子』難二第三十七凡そ五霸の能く功名を天下に成す所以の者は、必ず君臣俱に力有り。故に曰く、叔向・師曠の対は、皆偏辞なり、と。
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論語・泰伯篇子曰く、恭にして礼無ければ則ち労す。慎にして礼無ければ則ち葸る。勇にして礼無ければ則ち乱る。直にして礼無ければ則ち絞す。君子親に篤ければ、則ち民仁に興る。故旧遺れざれば、則ち民偸からず。
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論語・泰伯篇子曰く、『巍々(ぎぎ)たるかな、舜・禹の天下を有つや、而(しか)も与(あずか)らず。』
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孟子・萬章章句上萬章曰く、「堯は天下を以て舜に與う、と、諸れ有りや。」孟子曰く、「否。天子は天下を以て人に與うること能わず。」「然らば則ち舜の天下を有つや、孰か之を與えたる。」曰く、「天、之を與う。」「天の之を與うるは、諄(ジュン)諄然として之を命ずるか。」曰く、「否。天言わず。行いと事とを以て、之を示すのみ。」曰く、「行いと事とを以て、之を示すとは、之を如何。」曰く、「天子は能く人を天に薦むれども、天をして之に天下を與えしむること能わず。諸侯は能く人を天子薦むれども、天子をして之を諸侯を與えしむること能わず。大夫は能く人を諸侯に薦むれども、諸侯をして之に大夫を與えしむること能わず。昔者、堯、舜を天に薦めて、天、之を受く。之を民に暴わして、民之を受く。故に曰く、天、言わず、行いと事とを以て之を示すのみ、と。」曰く、「敢て問う、之を天に薦めて、天之を受け、之を民に暴わして、民之を受くとは、如何。」曰く、「之をして祭を主らしめて、百神之を享く。是れ天之を受くるなり。之をして事を主らしめて、事治まり、百姓之に安んず。是れ民之を受くるなり。天之を與え、人之を與う。故に曰く、天子は天下を以て人に與うること能わず、と。舜は堯に相たること二十有八載。人の能く為す所に非ざるなり。天なり。堯崩じ、三年の喪畢りて、舜、堯の子を南河の南に避く。天下の諸侯の朝覲する者、堯の子に之かずして、舜に之く。訟獄する者、堯の子に之かずして、舜に之く。謳歌する者、堯の子を謳歌せずして、舜を謳歌す。故に曰く、天なり、と。夫れ然る後、中國に之き、天子の位を踐めり。而し堯の宮に居り、堯の子に逼らば、是れ篡うなり。天の與うるに非ざるなり。泰誓に曰く、『天の視るは我が民に自りて視、天の聽くは我が民に自りての聽く。』此を之れ謂うなり。」

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