兵術要訓抄録 / 兵術の二つの要と主静
凡兵術者。其要有二。蓋能執師授之形術以練熟其支體一也。又能察彼此之妙理以神化其動靜二也。此二者猶車之備兩輪。鳥之共兩翼。必不可偏廢焉。而所謂主靜者。又其機軸也。蓋言車雖全兩輪。然無軸則其何以行之哉。鳥雖列兩翼。然無體則亦無尸之者矣。故主靜者此其本也。如能知之。則燭其心身之作止勝敗之秘密。亦猶指掌也。因撰兵術要訓一卷。以明其義也。雖若有未備者。亦將以爲後學之一助云爾。
新字:凡兵術者。其要有二。蓋能執師授之形術以練熟其支体一也。又能察彼此之妙理以神化其動静二也。此二者猶車之備両輪。鳥之共両翼。必不可偏廃焉。而所謂主静者。又其機軸也。蓋言車雖全両輪。然無軸則其何以行之哉。鳥雖列両翼。然無体則亦無尸之者矣。故主静者此其本也。如能知之。則燭其心身之作止勝敗之秘密。亦猶指掌也。因撰兵術要訓一巻。以明其義也。雖若有未備者。亦将以為後学之一助云爾。
書き下し
凡そ兵術とは、其の要に二つ有り。蓋し能く師授の形術を執りて以て其の支体を練熟するが一なり。又能く彼此の妙理を察して以て其の動静を神化するが二なり。此の二者は猶ほ車の両輪を備へ、鳥の両翼を共にするがごとし。必ず偏廃すべからず。而して所謂主静なる者は、又其の機軸なり。蓋し言ふ、車は両輪を全くすと雖も、然れども軸無ければ則ち其れ何を以て之を行らんや。鳥は両翼を列ぬと雖も、然れども体無ければ則ち亦之を尸る者無し。故に主静とは此れ其の本なり。如し能く之を知らば、則ち其の心身の作止勝敗の秘密を燭らすこと、亦猶ほ掌を指すがごとし。因りて兵術要訓一巻を撰し、以て其の義を明らかにす。未だ備はらざる者有るが若しと雖も、亦将に以て後学の一助と為さんと云爾。
現代語訳
そもそも兵術の要点は二つあります。一つは、師から授かった形と術をしっかり身につけ、体を十分に練り上げることです。もう一つは、自分と相手との間にある妙なる道理をよく察して、動くことも止まることも自在に働かせることです。この二つは、車に両輪が備わり、鳥に両翼がそろっているようなもので、どちらかを欠いてはなりません。そして主静と呼ぶものは、その車の軸にあたります。車は両輪がそろっていても軸がなければどうして進めましょう。鳥は両翼を並べていても胴体がなければ、それを司るものがありません。ですから主静こそが根本です。これをよく知れば、心と身の動きや止まり、勝ち負けの秘密が、掌を指すようにはっきり見えてきます。そこで『兵術要訓』一巻を著し、その意味を明らかにしました。不十分なところはあるでしょうが、後に学ぶ人の一助になればと思います。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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『兵術要訓抄録』・業理心の三要凡兵術に其要三有り、業理心是也、業とは師授の形術を學びて躰を固め進退動靜を自由にして、討はうち、突はつき、受るはうけ、進は進の業に達するを云なり、理とは勝敗の理なり、凡此要訓は皆理を以主靜ならしむる書也、其外師授の形術各理あり、是を通達するヿを理と云なり、心とは主靜なり、主靜とは不動心なり、是をたとえるに車の如く、又飛鳥の如く、業と理は兩輪兩翼の如く、心は車軸の如く、鳥躰の如く、業に達して理を知らざるは、車片輪なきが如く鳥片翼なきが如く、片輪なくんば行事叶はず、片翼なきときは鳥翔るヿ叶はず、業に達すとも勝負の理を不知しては勝とも眞の勝にはあらず相手弱也、
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『兵術要訓抄録』・車軸としての不動心理を離れて勝を極るヿならざるものなり、又理を知るとも業を練磨せざれば進退動靜自由ならず、たとへば膝行の喧嘩をするが如く、口をきけども敵するヿあたはず、故に業理は兩輪兩翼の如く、車兩輪備て全行事叶ふ、鳥兩翼揃て翔るヿなる、然るに心は又車軸鳥躰にて、車軸なきときは行事叶はず、鳥躰無きときは飛翔る事叶はず、軸有て兩輪全し、體有て兩翼全し、故に不動心は本なり、心亂るゝときは業も理も轉動してなす事あたはず、業をなし理を明にして勝を得るは、たゞ心の不動にあるなり、凡兵術を學ぶ人、業理心の三を修して、武の奧義を極むべし、
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『兵術要訓抄録』・陰の敵と陽の敵兵道修行は、陽にして至て動くものなり、勝負に臨む時は、極陰にして靜なり、勝負に臨し時極靜にして、顔色も變ぜず、敵に著ぜず、滿目して敵の顔色を爰を專と打守るにあらず、進むに細き橋を渡るやうにもあらず、大道を歩行が如く、心平常の如くに見ゆるは陰敵なり、是れ勝れたる術者にて敵しがたく、又陽敵とは、一つには顔色石にても打碎く勢をあらはし、二つには怒の躰あり、三つには滿目して敵の顔色を爰を專と打守りて白眼がどし、四つには破竹の勢をなして大聲を發して擊、五つには進退なす術あらき、是等は陽敵といふなり、陽敵は心動くものにして弱也、然し陰敵の謀て陽なる有り、是は油斷ならざるものなり、
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『兵術要訓抄録』・術行から至達へ師傳の術を無益の事のやうに思ふは修行たらざるゆへなり、夫よりして師傳の術をすてゝ才覺者となる人多し、修行さへ至れば師傳の術は遣るゝ也、此術行者は終に上手にも達人にも可成、又敵の透を見て擊事を主とする人を至靜者と云は靜心の塲に至りし術者と云ヿにて、敵の透を見て勝を得るとは上手の塲にて未熟ではならざるなり、術行者功を經て至靜者となるべし、又不動心の妙にて勝人を至達者と云は至極達人と云事也、達人とは不動心の術者を云なり、不動心の妙とは不動心に至らざれば知れがたし、又至靜者功を經て至達者となるべし、過陽者才覺者は、至達の塲に至るヿならざる間、此理を合點して過陽者は過陽の過を改め、才覺者は才覺の術理に至らざる事を合點して改めかえて術行至靜を專一にすれば、終に至道の塲に至るべし、又才覺者の謀擊は、術行至靜を專にして折には謀擊をつかふは不苦、術行至靜調ふ時は謀擊の入らぬと云事合點して頼ともせざるなり、過陽者の過は亡命の端なり、恐れ愼むべし、過陽も內心陰にして謀て過陽なるは格別の事にて、才覺者の上手のする事なり、
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『兵術要訓抄録』・心の修行と勇平常心の修行をする時は眞劔といへども恐るゝヿなく心靜る也、又心の修行とは、第一勇を固めて臆を去る、第二捨身其外傳あり、不動心の術者の敵を受ずんば知れがたし、勇を固るとは、山林墓所森川妖怪出る處などへ往き終夜こもるヿなり、是に傳ありといへども、傳を不知とも修すれば德あり、君子は危きに近よらずと云事あれば、道に逆ふやう思ふ人も有べし、然れども危きを遁んためと、敵に勝て大功を立、忠を立ん爲の事にして、君子の道に違ふヿなし、扨又心の行は師傳なくてはならざれども、此書心の道理を說し書なれば、此書の理をよく合點し、我心を此書の通りになるやうに常々修する時は、是則心の修行にて、終に不動心の塲に至るべし、
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