兵法家伝書 / 殺人刀序国を治める機を見る
又兩陣たがひに張て、戰場に出て勝負を決するは、云に及ばず大將たる人は方寸の胸の中に兩陣を張て大軍をひきひて、合戰して見る、是心にある兵法なり、治る時亂をわすれざる、是兵法也、國の機を見みだれむ事をしり、いまだみだれざるに治むる是又兵法也、すでに治りたる時は、遠き國々のはて〱までも、そこの國へはたれ、こゝの國へはたれたれと受領國司を定め、國の守りを堅ふする心の賦り是又兵法也、受領國司代官地頭の私ありて、下のなやみとなる事、尤も亡國の端也、此機をよく見て、彼受領國司代官地頭の私に國を亡されぬ謀、是立相の兵法に手字種利劍の有無を見るがごとし、是兵法の大機なる物也、
新字:又両陣たがひに張て、戦場に出て勝負を決するは、云に及ばず大将たる人は方寸の胸の中に両陣を張て大軍をひきひて、合戦して見る、是心にある兵法なり、治る時乱をわすれざる、是兵法也、国の機を見みだれむ事をしり、いまだみだれざるに治むる是又兵法也、すでに治りたる時は、遠き国々のはて〱までも、そこの国へはたれ、こゝの国へはたれたれと受領国司を定め、国の守りを堅ふする心の賦り是又兵法也、受領国司代官地頭の私ありて、下のなやみとなる事、尤も亡国の端也、此機をよく見て、彼受領国司代官地頭の私に国を亡されぬ謀、是立相の兵法に手字種利剣の有無を見るがごとし、是兵法の大機なる物也、
書き下し
又兩陣たがひに張て、戰場に出て勝負を決するは、云に及ばず大將たる人は方寸の胸の中に兩陣を張て大軍をひきひて、合戰して見る、是心にある兵法なり、治る時亂をわすれざる、是兵法也、國の機を見みだれむ事をしり、いまだみだれざるに治むる是又兵法也、すでに治りたる時は、遠き國々のはて〱までも、そこの國へはたれ、こゝの國へはたれたれと受領國司を定め、國の守りを堅ふする心の賦り是又兵法也、受領國司代官地頭の私ありて、下のなやみとなる事、尤も亡國の端也、此機をよく見て、彼受領國司代官地頭の私に國を亡されぬ謀、是立相の兵法に手字種利劍の有無を見るがごとし、是兵法の大機なる物也、
現代語訳
また両陣が互いに陣を張り、戦場に出て勝負を決するのは、言うまでもない。大将たる人は、方寸の胸の中に両陣を張り、大軍を率いて合戦をしてみる。これは心にある兵法である。治まっているときに乱を忘れないのが兵法である。国の機を見て乱れることを知り、まだ乱れないうちに治めるのも兵法である。すでに治まったときは、遠い国々の果てまで、あそこの国へは誰、ここの国へは誰と受領・国司を定め、国の守りを堅くする、その人の割り振りの心も兵法である。受領・国司・代官・地頭に私があって下の悩みとなることは、もっとも亡国の端である。この機をよく見て、受領・国司・代官・地頭の私によって国を滅ぼされないはかりごとは、立ち合いの兵法で手字種利劔の有無を見るのと同じである。これは兵法の大機なるものである。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
-
『兵法家伝書』殺人刀「序(小さき兵法と大きな兵法)」熟々思ふに、兵法といはゞ人と我と立あふて、刀二にてつかふ兵法は負も一人、勝も一人のみ也、是はいとちいさき兵法也、勝負ともに其得失纔也、一人勝て天下かち、一人負て天下まく、是大なる兵法也、一人とは大將一人なり、天下とはもろ〱の軍勢也、もろ〱の軍勢は、大將の手足也、もろ〱の勢をよくはたらかするは、大將の手足よくはたらかする也、諸の勢のはたらかぬは、大將の手足はたらかぬ也、太刀二筋にて立あふて、大機大用をなし、手足よくはたらかして、勝つごとくに、諸勢をつかひ得てよくはかりごとをなして、合戰に勝つを大將の兵法と云べし、
-
『兵法家伝書』殺人刀「序(機を見ること皆兵法・秘するは知らせぬため)」是よく機を見るにあれば、卽兵法也、亦友に交りて初め終りたがわざるも、機を見てなす所なれば、兵法の心ならざるにあらず、一座の人の交も、機を見る心皆兵法也、機を見ざれば、あるまじき座に永く居て、故なきとがをかふむり、人の機を見ずして、物を云ひ口論を仕出して、身をはたす事、皆機を見ると見ざるとにかゝれり、座敷に諸道具をつらぬるも、其所々のよろしきさまにつかふまつる、其座之機を見る事、兵法の心なきにあらず、實に事はかわれども、理は一の物なれば、天下の事にあつるもたがふべからず、兵法は人をきるとばかりおもふはひが事也、人をきるにはあらず、惡をころす也、一人の惡をころして、万人をいかすはかりごと也、今此三卷にしるすは、家を出ざる書也、しかあれど、道は祕するにあらず、祕するはしらせぬが爲也、しらせざれば書なきに同じ、子孫よく思之
-
『兵法家伝書』殺人刀「表裏は兵法の根本」一 表裏は兵法の根本也、表裏とは略也、僞を以て眞を得也、表裏とはおもひながらも、しかくれば、のらずしてかなはぬ者也、我表裏をしかくれば、敵がのる也、のる者をば、のらせて勝べし、のらぬ者をば、のらぬよと見付る時は、またこちからしかけあり、然らば敵ののらぬものつたに成なり、佛法にては方便と云也、眞實を内にかくして、外にはかりごとをなすも、終に眞實の道に引入る時は僞り皆眞實に成る也、神祇には神祕と云祕して以て人の信仰をおこす也、信ずる時は利生あり、武家には武略と云、略は僞なれども僞を以て人をやぶらずして、勝ときは、僞り終に眞と成也、逆に取て順に治と云是也
-
『兵法家伝書』殺人刀「序(君の左右の侫人)」亦君の左右に侫人有て、上にむかふ時は道ある風情をなし、下を見るときは目をいからかす、此人に手をつかねざればよき事をあしきに申成し、罪なき者は苦み、罪ある者は却てほこる、此機を見る事手字種利劍よりも大切也、國は君の國なり、民は君の民也、ちかく左右につかふまつる者も君の臣也、とをくつかふまつる者も同じく君の臣也、親疎いくばくぞや、君の御爲には手のごとし足のごとし、足とをしとて手にことならんや、痛痒を請くる事ひとしかれば、いづれを親しとし、いづれをうとしとせむや、しかるに近き者遠きをかすめ、罪なきをくるしめば、曩なき君をうらみたてまつらん、君に近き者は五人或は十人にしてすくなし、とをき者は多し、多き者君を恨みては、心をはなすべし、すくなくして近き者は、はじめより我が身の爲にして、君を思ひ奉らざるによりて、人の君をうらみたてまつる樣に、つかふまつるなれば、とある時はおのれさきに君に心をはなすべし、しからば誰君をおもひ奉らん、是只左右の者のする所にして、君のとがにあらず、此機をよく見て、遠きにもめぐみの外ならぬ樣に、あらまほし、
-
『兵法家伝書』殺人刀「序(兵法は天道の成敗)」古にいへる事あり、兵者不祥之器、天道惡之、不獲止而用之是天道也と、此こと如何にとならば、弓矢太刀長刀是を兵と云、不吉不祥の器なりと云り、其故は、天道は物を生かす道なるに、却てころす事をとるは、實に不祥の器也、しかれば天道にたがふ處を卽にくむといへる也、しかあれど、不獲止して、兵を用て、人をころすをまた天道なりと云、其心如何となれば、春の風に花さき綠りそふと云とも、秋の霜來て、葉おち木しぼむ、是天道の成敗也、物の十成する處を打ことわりあらばなり、人も運に乘じては、惡をなすと云とも、其惡十成する時は、是をうつ、爰を以て兵を用るも天道也、といへり、一人の惡に依て萬人苦む事あり、しかるに一人の惡をころして、万人をいかす是等誠に人をころす刀は、人をいかすつるぎなるべきにや、其兵を用るに法あり、法をしらざれば、人をころさんとして、人にころさるゝならじ、
-
『兵法家伝書』跋「殺人刀・活人劔の名」此卷上下を殺人刀活人劔と名たる心は、人をころす刀、却て人をいかすつるぎ也、とは夫亂たる世には、故なき者多く死するなり、亂たる世を治める爲に殺人刀を用ひ、已に治る時は殺人刀を卽て活人劔ならずや、是を以所名付也
人生を、一行の式にしてみた。
志×積×時×憤÷(1+執)+命。古典から導いた式『人生の方程式』と、二十四の悩みに古典が答える『人生の教科書』(PDF)、師導の全機能1か月がセットで700円です。
本の中身を見る