五常訓 / 巻之五・信
一孔子曰、信則人任。信實にして、言に僞なければ、一たび約したること、其首尾たがはず。故に人たのもしく思ひて、打任せて疑はず。是人任するなり。もし信ならざれば、約ちがひて、其いへる事、朝夕にかはりて、たのもしげなし。何ぞ任せんや。凡君の、臣にまじはり、國人にまじはり、朋友の相まじはる、吏人の民に對する、皆信あるべし。信なければ、人の交の道たえて行はれず。たのみ無ければなり。
新字:一孔子曰、信則人任。信実にして、言に偽なければ、一たび約したること、其首尾たがはず。故に人たのもしく思ひて、打任せて疑はず。是人任するなり。もし信ならざれば、約ちがひて、其いへる事、朝夕にかはりて、たのもしげなし。何ぞ任せんや。凡君の、臣にまじはり、国人にまじはり、朋友の相まじはる、吏人の民に対する、皆信あるべし。信なければ、人の交の道たえて行はれず。たのみ無ければなり。
書き下し
一孔子曰く、信なれば則ち人任ず。信実にして、言に偽なければ、一たび約したること、其首尾たがはず。故に人たのもしく思ひて、打任せて疑はず。是人任するなり。もし信ならざれば、約ちがひて、其いへる事、朝夕にかはりて、たのもしげなし。何ぞ任せんや。凡君の、臣にまじはり、国人にまじはり、朋友の相まじはる、吏人の民に対する、皆信あるべし。信なければ、人の交の道たえて行はれず。たのみ無ければなり。
現代語訳
孔子は「信であれば人は任せる」と言われました。信実で言葉に偽りがなければ、一度約束したことは首尾がたがいません。ですから人は頼もしく思って、任せきって疑いません。これが人が任せるということです。もし信でなければ、約束がたがい、言うことが朝夕に変わって頼もしくありません。どうして任せるでしょうか。およそ君主が臣下と交わり、国の人々と交わり、朋友が互いに交わり、役人が民に対するのも、皆信があるべきです。信がなければ、人の交わりの道は絶えて行われません。頼みにできないからです。
解説
この章句が説くこと
関連する章句
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論語・顔淵篇子貢、政を問う。子曰く、「食を足し、兵を足し、民之を信ず。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の三者に於いて何をか先にせん。」曰く、「兵を去らん。」子貢曰く、「必ず已むを得ずして去らば、斯の二者に於いて何をか先にせん。」曰く、「食を去らん。古より皆死有り、民信無くんば立たず。」
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『五常訓』巻之五・信一子曰く、人にして信無くんば其の可なるを知らざるなり。人の心信実なるは、万事の基にして、人にまじはるの道なり。若信なければ、万事すべて、偽なれば、人にまじはりて、如何ぞ善なるべき。たとへば大車の荷車に輗なければ、牛の首に車をかくる事ならず。小車の乗車に軏なければ、車を馬にかくる事ならず。車と牛馬とは別の物なれど、輗と軏とあれば、是を以て牛馬に車をかけて引かしむべし。若此ものなくんば、何を以てか車をやるべきや。人にまじはるに信ならざるも、亦かくの如し。人と我とは、二物なり。信実を以て交はれば、互に感通して、道行はる。若信なくして人と交はらば、我人にまことなく、人我を信ぜず。彼と我と感通せず。何を以てか道行はれんや。
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『五常訓』巻之五・信是子貢にこたへ給へる意なるべし。又司馬温公の曰、信者人君の大宝なり。国は民に保ち、民は信にたもつ。信にあらざれば、民をつかふ事なく、民にあらざれば、国を守る事なし。故に古の王者は、四海を欺かずと云へり。夫国は民を以てたもつ。民したがはざれば、国ありても保ちがたし。民は信を以てたもつ。上より民を欺きいつはりて、信なければ、民上を信ぜずして、思ひつかず。民の心をたもちがたし。
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『文武訓』武訓上前にいへる兵術者の教の如きは、仁義の道を捨て、文武の法に背き、君臣、朋友、およそ人倫に対し偽を行ひ、人の功名をうばひてわが物とし、利を得るを以て日本の武道とす。しかれども、まことの文武の道よりいはば、是を名づけて盗賊といふ。利欲を専にして義理を捨つるは、是国を乱すのわざにして、乱をしづむる武の道にはあらず。上を犯し乱をおこす、乱臣賊子のしわざなり。日本の武道を以て、盗賊のしわざと同じく心得ること、むげにあさまし。少し心あらん人は其非を知るべし、詳に弁ずるにたらず。夫仁義の道、正直にしていつはりなき、是信なり。信なければ、からもやまとも古も今も、人道たたず。人道立たざれば武道も行はれず。主将たる人信なければ、士卒万民の心を得がたし。
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『五常訓』巻之五・信如何となれば、食と信と有之、兵粮たくさんにて、士卒万民上に思ひつかば、兵なくとも、国を守ること堅固なるべし。子貢又問へり。食と信との二の内、やむことを得ずして、一をすてば、何をか先にすつべき。答へて曰、食をすつべし。食なければ民死す。然れども、信なくて生きんよりは、城を枕にして、うゑ死し、討死したらんこそ、本意なるべけれ。古より、死は人の常なれば、うゑて死すとも力およばず。人もし信を失へば、人道たたず。かひなき命を生たりとも、人となるの理亡びなば、恥づべきの甚しきなれば、道ありて死したるには、遥かに劣るべし。もし信なくて、士卒万民上にしたがはず、思ひつかずば、兵糧たくさんにして、莫大の軍勢ありとも、用にたつべからず。
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『大和俗訓』巻之五・言語一人と約をなさば、必其信をかたく守るべし。一度約したる事をたがへば、人にあらずと思ふべし。若其契約義にかなはざる事か、又力の及びがたき事にて、後に約を守りがたからんと思はば、かねて約をなすべからず。かるがるしくうけあへば、其約たがふ。つつしむべし。論語に、信、義に近ければ、言復むべきなりといへり。人と約束したる事、首尾ちがはざるやうにせんと思はば、約する事義理にかなへば、うけ合ひたる言のごとく行ひとげられて、いつはりなくして首尾相違せずとなり。
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