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文武訓 / 武訓上

前にいへる兵術者の敎の如きは、仁義の道を捨て、文武の法に背き、君臣、朋友、およそ人倫に對し僞を行ひ、人の功名をうばひてわが物とし、利を得るを以て日本の武道とす。しかれども、まことの文武の道よりいはば、是を名づけて盜賊といふ。利欲を專にして義理を捨つるは、是國を亂すのわざにして、亂をしづむる武の道にはあらず。上を犯し亂をおこす、亂臣賊子のしわざなり。日本の武道を以て、盜賊のしわざと同じく心得ること、むげにあさまし。少し心あらん人は其非を知るべし、詳に辯ずるにたらず。夫仁義の道、正直にしていつはりなき、是信なり。信なければ、からもやまとも古も今も、人道たゝず。人道立たざれば武道も行はれず。主將たる人信なければ、士卒萬民の心を得がたし。

新字:前にいへる兵術者の教の如きは、仁義の道を捨て、文武の法に背き、君臣、朋友、およそ人倫に対し偽を行ひ、人の功名をうばひてわが物とし、利を得るを以て日本の武道とす。しかれども、まことの文武の道よりいはば、是を名づけて盗賊といふ。利欲を専にして義理を捨つるは、是国を乱すのわざにして、乱をしづむる武の道にはあらず。上を犯し乱をおこす、乱臣賊子のしわざなり。日本の武道を以て、盗賊のしわざと同じく心得ること、むげにあさまし。少し心あらん人は其非を知るべし、詳に弁ずるにたらず。夫仁義の道、正直にしていつはりなき、是信なり。信なければ、からもやまとも古も今も、人道たゝず。人道立たざれば武道も行はれず。主将たる人信なければ、士卒万民の心を得がたし。

書き下し

前にいへる兵術者の教の如きは、仁義の道を捨て、文武の法に背き、君臣、朋友、およそ人倫に対し偽を行ひ、人の功名をうばひてわが物とし、利を得るを以て日本の武道とす。しかれども、まことの文武の道よりいはば、是を名づけて盗賊といふ。利欲を専にして義理を捨つるは、是国を乱すのわざにして、乱をしづむる武の道にはあらず。上を犯し乱をおこす、乱臣賊子のしわざなり。日本の武道を以て、盗賊のしわざと同じく心得ること、むげにあさまし。少し心あらん人は其非を知るべし、詳に弁ずるにたらず。夫仁義の道、正直にしていつはりなき、是信なり。信なければ、からもやまとも古も今も、人道たたず。人道立たざれば武道も行はれず。主将たる人信なければ、士卒万民の心を得がたし。

現代語訳

前に述べた兵術者の教えのようなものは、仁義の道を捨て、文武の法にそむき、君臣や朋友など、およそ人倫に対して偽りを行い、人の功名を奪って自分のものとし、利を得ることをもって日本の武道とするものです。しかし、まことの文武の道から言えば、これを名づけて盗賊といいます。利欲を専らにして義理を捨てるのは、国を乱すわざであって、乱をしずめる武の道ではありません。上を犯し乱を起こす、乱臣賊子のしわざです。日本の武道を盗賊のしわざと同じように心得ることは、ひどくあさましいことです。少しでも心ある人は、その誤りを知るべきです。詳しく論じるまでもありません。そもそも仁義の道で、正直で偽りのないこと、これが信です。信がなければ、中国も日本も、昔も今も、人の道は立ちません。人の道が立たなければ武道も行われません。主将たる人に信がなければ、士卒や万民の心を得ることはできません。

解説

味方や人倫に偽りを働き、人の手柄を奪って利を得るのは、武道ではなく盗賊のしわざだと益軒は断じます。乱をしずめるはずの武が、かえって乱を起こす道具になってしまうからです。そして仁義の中でも正直で偽りのない「信」を取り上げ、信がなければ人の道も武道も立たず、上に立つ者は部下や民の心をつかめないと説きます。『論語』の「民、信なくんば立たず」に通じる考えです。組織でも、信頼を失ったリーダーの下では誰も本気で働きません。

この章句が説くこと

信武道仁義指導者信頼

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