五常訓 / 巻之三・仁之下
天よりうけたる所の五常の性を、全くたもち行ひて缺かざるは、たとへば曾子の、父母にうけたる身體を毀ひ傷らざるが如し。天より我を富貴にし給ふは、父母の我を愛するが如し。天恩をよろこんで忘るべからず。天より我を貧賤にして憂あらしむるは、天の我を惡み給ふにはあらず、我が身に艱難を見せしめて、我が德行を成就せしめん爲なれば、天を怨むべからず。親に事ふる孝子は、其身生ける間は、親にそむかず、したがひ事ふ。死ぬれば心安んじて、親に恥づる事なきが如く、天につかふる人も、生ける間は、天道に從ひてつかへ奉るが、人となれる道なり。死ぬれば心安くして、天に恥づる所なかるべし。是いはゆる、朝に道をきいて、夕に死すとも可なりの意也。凡西銘の意は、はじめより半まで、人は天の子にして、天地萬物、皆我が一體なることを說けり。半より後は、天地につかへて仁を行ふ道をいへり。尤よく見て、其理を自得すべし。
新字:天よりうけたる所の五常の性を、全くたもち行ひて欠かざるは、たとへば曽子の、父母にうけたる身体を毀ひ傷らざるが如し。天より我を富貴にし給ふは、父母の我を愛するが如し。天恩をよろこんで忘るべからず。天より我を貧賤にして憂あらしむるは、天の我を悪み給ふにはあらず、我が身に艱難を見せしめて、我が徳行を成就せしめん為なれば、天を怨むべからず。親に事ふる孝子は、其身生ける間は、親にそむかず、したがひ事ふ。死ぬれば心安んじて、親に恥づる事なきが如く、天につかふる人も、生ける間は、天道に従ひてつかへ奉るが、人となれる道なり。死ぬれば心安くして、天に恥づる所なかるべし。是いはゆる、朝に道をきいて、夕に死すとも可なりの意也。凡西銘の意は、はじめより半まで、人は天の子にして、天地万物、皆我が一体なることを説けり。半より後は、天地につかへて仁を行ふ道をいへり。尤よく見て、其理を自得すべし。
書き下し
天よりうけたる所の五常の性を、全くたもち行ひて欠かざるは、たとへば曽子の、父母にうけたる身体を毀ひ傷らざるが如し。天より我を富貴にし給ふは、父母の我を愛するが如し。天恩をよろこんで忘るべからず。天より我を貧賤にして憂あらしむるは、天の我を悪み給ふにはあらず、我が身に艱難を見せしめて、我が徳行を成就せしめん為なれば、天を怨むべからず。親に事ふる孝子は、其身生ける間は、親にそむかず、したがひ事ふ。死ぬれば心安んじて、親に恥づる事なきが如く、天につかふる人も、生ける間は、天道に従ひてつかへ奉るが、人となれる道なり。死ぬれば心安くして、天に恥づる所なかるべし。是いはゆる、朝に道をきいて、夕に死すとも可なりの意也。凡西銘の意は、はじめより半まで、人は天の子にして、天地万物、皆我が一体なることを説けり。半より後は、天地につかへて仁を行ふ道をいへり。尤よく見て、其理を自得すべし。
現代語訳
天から受けた五常の性を完全に保ち行って欠かさないのは、たとえば曾子が父母から受けた身体を損ない傷つけなかったようなものです。天が自分を富貴にされるのは、父母が自分を愛するようなものです。天の恩を喜んで忘れてはなりません。天が自分を貧賤にして憂いをあらしめるのは、天が自分を憎まれるのではなく、自分の身に艱難を経験させて、自分の徳行を成就させるためなので、天を恨んではなりません。親に仕える孝子は、その身が生きている間は、親にそむかず、したがって仕えます。死ねば心安らかに、親に恥じることがないように、天に仕える人も、生きている間は天の道にしたがってお仕えするのが、人となった道です。死ねば心安らかで、天に恥じるところはないでしょう。これがいわゆる「朝に道を聞けば夕べに死んでもよい」の意味です。およそ西銘の意味は、初めから半ばまでは、人は天の子であって、天地万物がみな自分と一体であることを説いています。半ばから後は、天地に仕えて仁を行う道をいっています。最もよく読んで、その理を自得すべきです。
解説
この章句が説くこと
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